PHASE-192【ぎゅぅぅぅぅぅぅってされたい……】

「あっさりと受け入れましたが、本当にいいんですか?」


「ええ、もちろんです」

 宿から出てワックさんに会い、ギルドに入会してほしいとお願いすれば、二つ返事で快く受け入れてくれた。

 

 瘴気が晴れて、人々の行動拠点が広がったことはいい事で、クレトスにいても世界のためにはならないからと、王都にて自分の才能を発揮させていただきたいと、ワックさんから頭を下げてきたくらいだった。

 喜ばしいことである。


 まあ、喜びを得る前に、俺とゲッコーさんは仕切りの修繕に励んだわけだが……。

 勇者パワーで怒られはしなかったが、終始、半眼だった宿主に平謝りだった男二人。

 

 村は戦い慣れした人達がいるとはいえ、ワックさんがいなくなれば、クレトスの人々は不安になるだろう。

 念のために、王都よりギルドメンバーの派遣に加えて、王族の湯治場ということもあるので、王都兵を正式に派遣してもらうように、王様に頼んでみよう。


「何より勇者殿の力に興味がありますから」

 俺が召喚したティーガー1がたいそう気に入ったらしい。

 ずっと触っていたからな。


 鉄の塊がなぜに高機動で動くのかが知りたいようだ。

 ティーガー1は別に高機動ではないけどね。

 足の速いのはまだあるし。


 それらを見せてあげてもいいが、あまりオーバーテクノロジーを見せるのはよくない気がする。

 名前が名前だからね。

 生産しそうで怖い……。


 帰り道で使用するハンヴィーを見せてあげるから、それで我慢してもらいたいところだ。


 でもって、王都についたらバリバリと頑張ってもらおう。

 まずは私事で悪いけど、火龍の鱗で装備を作ってもらわないと。

 

 で、だ――――。

 

 ワックさんが王都に来るとなると、必然的に――――、


「チッ」

 思わず舌打ちが出てしまった。


「眠たいのか?」


「うん……」


「私のせいだ。すまなかった」


「いいよ」

 現在ベルに抱っこされたゴロ太はおねむのようだ。

 目をくしくしとさせて可愛いじゃないか。


 どうやら、昨晩はベルと一緒に寝たもよう。


 ベルは、ぬいぐるみみたいな子グマと寝るのがよほど嬉しかったのか、ぎゅぅぅぅぅってされてたゴロ太は寝不足みたいだ。


 男前な声で愛らしい、そんなギャップにベルは心を射抜かれたのか、全くもって放そうとしない。

 なんと緩んだ顔か! あれが帝国軍中佐の顔なのかい?

 けしからん!


「これから王都に戻る間は私が抱いていてやるから、ゆっくりしてくれ」


「ありがとう。お姉ちゃんのおっぱいは温かくて柔らかくて、まるでふわふわの雲にのっているみたいだよ」


「そうか、気に入ってもらえて何よりだ」

 ベルよ、目を閉じて今の台詞を脳内で再生してくれ。


 ゴロ太は声だけなら完全に犯罪の臭いがプンプンしやがる。

 とにもかくにも声がまったくもって可愛くないんですよ。

 

 それでもベルは全く気にせずにゴロ太を抱っこして幸せそうだ。

 くそ! 心の底から羨ましい!


「何を見ている」

 とまあ、俺に対しては目つきもきついし、当たりもきつい。

 まったく、ゴロ太が前を洗うのは許しても、俺が覗くのは許されないなんて……。

 やっぱり俺も、愛玩生物に生まれ変わればよかったよ!

 愛玩ならボコボコにされずにすんだんでしょ。愛玩なら!

 

 ――……俺はちゃんと見てないのに、ベル達にボコボコ。

 かたやゲッコーさんは、ばっちりと見たのに、右ストレート一発だけ。

 思い返せば、やはり納得がいかないな!


「帰りますよエロ」


「だから、お前のは見てないって俺もゲッコーさんも言っただろうが。まな板」

 納得いかない事からのストレスをコクリコにぶつてやると、


「なんですとぉぉぉぉぉぉお!」

 下山する道すがら、コクリコとはステゴロでの戦いを激しく繰り広げることになった。

 もちろん戦いの結果は、俺のボロ負け……。

 

 昨夜同様に、またも顔が腫れ上がってしまった……。


 ツルペタ、まな板、三大北壁、バーティカルボディ!

 心の中で強気に罵倒する。

 

 もちろん殴られるのはこりごりだから、口には決して出さないチキンハートな俺……。


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