PHASE-312【巨体を一太刀】

「サンキュー」

 シャルナのお膳立て。

 卓抜なのは、俺が接近する頃には突風がピタリと止むというありがたさ。

 俺には風の弊害はない。


「インクリーズ」

 発して、成体の目の前にある丈夫な枝に着地して、膝をしっかりと曲げ、両足で蹴るようにして跳ぶ。

 航空機操作行動の一つであるタッチアンドゴーをイメージしてみた。

 更にここでイメージを加える。

 サッカーでのダイビングヘッドのように、体を水平にして重力に逆らうように滑空する跳躍だ。


 滑空しつつ捕捉するのは成体の腹部分。

 強固な背中側と違って、なんとも柔らかそう。


 無数の足がワラワラと動く姿は気持ち悪いが、Gの群れよりはましと刷り込ませつつ、そこに向かって一直線。

 速度と体重をのせた一太刀で倒す! と、覚悟を決める。

 

 ここで躊躇して甘い攻撃となれば、気持ちの悪い無数の足による死の抱擁がまっているだろう。


 斬るとか突くではなく、右手で柄を持ち、左手は切っ先の峰部分に添える。

 強化された筋肉と速度でそのままぶつかるという体当たりによる一太刀だ。

 気概としてワンスラッシュワンキルというスタイリッシュなイメージをしていたが、現実は泥臭い攻撃だ。


 柔らかく更に刃が通りやすいであろう節部分を狙い、


「せいや!」

 刃が成体へと触れれば、俺はそのまま通過する。

 で――、


「よっと」

 湿地の時とは違い、今回は着地に成功。しかも地面より難易度の高い枝の上に着地。

 攻撃に集中して着地を考えれていなかった以前に比べれば、これは成長していると誇っていいだろう。

 しかも、枝の上だからね。

 俺はいま間違いなく格好いい。

 着地だけはスタイリッシュだった。

 

 着地から体勢を整えて、枝の上で真っ直ぐとした姿勢で立ち上がってからゆっくりと振り返れば、成体の両断された下半身が地面へと落ちる――。

 鬱蒼とした下生えが押しつぶされる光景。


 遅れて翅のある上半身が下半身に重なるように落ちた。

 断たれてもなお羽ばたいていた分、落下に差が出たようだ。

 

 刀身に付着した体液を振り払い、それでもこびり付いているのは、肘窩ちゅうかで挟んで拭き取り、鞘に収めてから成体に手を合わせる。

 

 斬られても蠢く上半身と下半身。

 だが徐々に動きはゆっくりなものになり、体節や足の節から軋むような音を立ててから動きが止まる。

 青い軌跡を残していた複眼も光を失い、黒みがかる。

 命の火が消えた証。

 俺はもう一度、手を合わせて目を閉じた。


「やる♪」

 俺とは違って、軽い調子で語りかけてくるシャルナ。

 やおら目を開いてから、


「いや、まだまだだな」


「でも高速で移動している中で上手い具合に腹部の節を斬れてたよ」


「まあ、そのくらいはな――――」

 いい加減、そのくらいの攻撃は出来るようになっとかないと、成長が見られないからな。

 別段この世界だけで素振りや足捌きを練習してたわけじゃない。

 高校に入ってからはだらけていたけど、一応は中学で剣道は二段を取得している。

 技量は普通の人よりはありますよ。

 そのくらいの自負はあってもいいでしょ。


「さてさて――――」

 嬉々として素材を得たとシャルナ。

 この世界の住人は、倒してしまえば亡骸として見ずに、素材として見る事の出来るたくましさがある。

 ダイヒレンだけは例外かもしれないが……。

 

 枝に赤い布を結ぶ。

 風に靡く赤い布は目印だそうだ。

 成体は回収班に任せるとのこと。

 ここまでの目印なんてしてないのに、どうやってここの目印に気がつくのだろうとツッコみたいが、それを見通したかのように語る。

 

 ――――エルフは森の中なら道無き道であろうとも、迷うことなく道を覚える事が出来るそうで、この地点から王都までのルートを回収班が迷うことなく、楽に仕事をこなさせるだけの地図を描けると、自信を持って言い切る。

 素晴らしき胸を反らしながら――――。

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