PHASE-311【よく見え~る】
「おっと!」
身を低くして、翅が生み出す突風に耐える。
デカい体で中々に速い移動速度だ。
幼体と違って、木々を蛇行して躱すなんてまどろっこしいことはせず、なぎ倒しながらの飛行。
木々からなる障害物を物ともせず、速度が落ちないままにシャルナを追う。
「あいつすげえな」
飛翔で追走する成体に追いつかれることなく、木々の上をまるで平地でも走っているかのように移動するシャルナに感嘆の声を漏らしてしまう。
枝へと着地するときは、その枝は揺れる事も無く、木々から音も出なければ葉も落ちない。
ブーツの底に、猫みたいにな肉球でもついているのかと思ってしまうね。
移動する動作だけで巧みなスカウト系の職だってのが分かる。ゲッコーさんがシャルナの移動歩法を見れば、似た職種だけに俺以上に感動するだろうな。
感嘆した口を閉じた時には、シャルナの姿は視界から消えており、森の奥の闇へと呑み込まれるように消えていった。
――――試してみるか。
「ビジョン」
発してみる。
俺の視力が途端に鮮明になる。
漆黒の闇であったその先が見通せる視力。
闇に消えていったシャルナの姿がはっきりと見える。
しかも目をこらすイメージをするだけで、ズーム機能までついたのかとばかりに、シャルナの表情もしっかりとわかる。
単純に遠くを見るだけの能力ではないようだな。
コクリコへの怒りを思い出し、マイヤからちゃんと説明を受けないままでいたのが悪かった。
こんな効果があるなら、ライトもいらないし、洞窟内もこれで対応できてたんだな。
俺のゲームプレイ時の悪癖は、能力をちゃんと確認せずに使用したり、放置して有用なスキルを使用してない事だな。
友達とゲームの会話してる時によく【は? なんで使ってねえの?】って、呆れられる事が多々あったのを思い出したぜ。
とは言え、能力を保つための集中力維持っていうデメリットもあるから、灯りなんかの備えはやはり重要だな。
どちらも有用だという認識を自分に植え付けよう。
見続ける先ではシャルナが跳躍しつつ、上半身だけを捻って後方に矢を放つ。
「――――効果はないようだな」
シャルナの後方では成体が木々をなぎ倒しながら飛翔している。
翅が動けば生まれる風。
この風が矢よけの加護のような効果を有しており、正確無比の矢であっても明後日の方向に逸れていった。
シャルナの位置を確認しながら俺も移動を始める。
ビジョンを使用しなくても倒れる木々の音を追えば問題ないだろうが、それだと後を追うだけで攻め手にはなれない。
ここは良い視力を得たんだから、成体の背後を見るのではなく、シャルナの動きに合わせるように――――、
「せいや!」
ラピッドの効果で俺も軽業師に挑戦。
枝にのる。
「おっとっと」
流石に見よう見まねの一朝一夕ではシャルナのような真似は難しい。
着地する足場の面積は地面より当然、狭い。
足裏と次の着地点に集中しつつシャルナを追う。
中々に難しいが、こういうのも俺の個人スキルを上げるには必要な経験。
体の重心移動はラピッド使用時に結構やって来たが、不安定な足場では初めての経験。
ここでスキルアップのコツを習得する。で、今後もこの練習を取り入れて物にしてやる。
「よっ、ほっ、ほい」
快活良く声に出して跳躍と着地の拍子を取る。
枝から枝へと移動しつつ、ビジョンで追う。
シャルナが踵を返してこちらへと向かって来るのが見えた。
素の視力で俺が見ているようで、遠くであるのに、俺とシャルナの目と目が合えば、俺がシャルナの事が見えていると理解したのか、シャルナは口端を上げた。
美味しいところは俺にって伝えているようだ。
――――どんどんと俺へと接近し、
「腹部を狙って斬るんだよ」
「おうよ! ワンコンタクトでやってやる!」
ワンスラッシュワンキルの気概で刀を振り切ってみせる!
「じゃあ、掩護したげる」
すれ違い様に会話を交わしてから跳躍。
俺が先ほどまで立っていた枝に、俺と違って華麗に着地すれば、
「アッパーテンペスト」
と、背後から初めて耳にする魔法をシャルナが唱える。
成体と会敵というところで、飛翔する成体の下方から強烈な突風が発生。
大木のような巨体が、吹き荒ぶ風によってバランスを崩し、空中で強制的に鎌首を上げたような状態にさせられた。
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