PHASE-101【海賊の島】
――――一隻だけを港へと係留。
残った一隻は、最低限の操船が出来る人員だけを残して、後は牢屋へ。
その一隻を先頭に、海賊たちのアジトへと船首を向ける。
「速度調整に注意しないとな」
ディスプレイと、実際の風景を交互に見ながらの操作。
速度を出しすぎて、前を行く海賊船にぶつければ、それだけで沈没させてしまうからな。
「――――ふぁ~」
しかし単純なもんだな。移動だけってのは眠くなる。
こういうので事故ってのは起こるんだろうな。
「しっかりしろ」
「押忍」
ありがたいのは、気を抜いてると美人中佐がすぐにお叱りになってくれる。
背筋も伸びるし、気勢もあがるってもんだ。
俺がドMなら、わざと怒られて興奮したいところだな。
笑い声を出すなら【ぐへへへ――】だな。
自動航行も出来るみたいだけど、今はミズーリの操作にも慣れないといけないからな。
慣れて時間が出来れば、折角コクリコという魔女っ子がいるんだから、魔法のコツを教えてもらいたい。
前回の説明は異次元すぎて分からなかったからな。
分からない内は使えないって事なんだろうが――――。
「見えてきましたよ」
俺が現在いる露天艦橋に駆け上がってくるコクリコ。甲板からのダッシュだったが、言われなくても、ここからだったら見えてますよ。
――――前方に見えるは小島。
いかにも賊が根城にしています。とばかりの小島だ。
岩肌が多く、緑が少ない。
いいタイミングで曇天に変わる空模様が、島をおどろおどろしく仕立てる。絵本に出て来る鬼ヶ島だな。
「さてと、錨を下ろして停泊して、降伏勧告でも出すか」
前の奴らにも止まってもらうか。
「だな。だがしかし――――」
何ですゲッコーさん? 意味深な語調ですね。
――――ん?
こっちは減速するが、前の海賊船が船足を落とさない。
『え~。前の船、止まりなさい』
言っててなんだけど、ドキュメンタリーの、警察官が二十四時間がんばる番組で、よく耳にする発言をしてしまった。
おや?
『止まって』
――……なんで止まらないんだよ。
「やっぱりな」
ポツリともらすと、ゲッコーさんは継ぐ。
「あいつら、島の奴らと合流するつもりだぞ」
「えぇ……」
なんで? どう考えても勝てないでしょう。こっちは泣く子も黙るミズーリ様だぞ! アメリカの魂の戦艦だぞ!
こっちは可能な限り死者を出したくないのに。
「ゲスは所詮ゲスだな」
ほら、美人様が侮蔑してるぞ。
「これはもう一戦始まる予感」
震えているのは恐怖ではなく、武者震いか……。
湛える笑みで分かるぞコクリコ。
こいつ、戦闘狂だな……。
「本気で戦うつもりですかね?」
「力を持った連中ってのは、権力を捨てたくないんだよ。追い込まれて蹴り落とされる寸前まで、権力の椅子にしがみつくのが、権力者だ」
おう、ゲーム内の政治屋どもをそうやって揶揄してましたね。
だからこそ、そいつらを見限って、自分たちだけの国を持とうとしたんですもんね。
ゲッコーさんが言うと説得力があるぜ。それだけゲームクリエイターが優秀だったってことか。
「しかたない。現実を見せるために砲艦外交に――」
「そうもいくまい」
長く鮮やかな赤い髪を結い始める。
レアなポニーテール。実によい。
――じゃなくて。
「何が?」
「リド砦を思い出せ」
――ああ……。そうか……。海賊たちは人身売買をしてるんだったな。
町長のおじさんの孫娘も差し出せと脅されていたし。
この小島が中心。もしくは、中継地点となるなら、ここに攫われた人達がいる可能性がある。
となれば、砲撃はひかえるべきだな。
「ふう……」
またも重苦しくなってしまう。女性がぞんざいに扱われてると思うと……。
それに、王都で子供を攫われた親や、ナブル将軍にも子供を救ってくれと言われている。
この海賊たちは魔王軍と行動している。
こいつらが船を使って、各地の拠点に移送していると考えれば、子供たちもここにいるかもしれない。
ゲッコーさんは、子供は兵士に仕立てるとも言っていたし、魔王軍の尖兵として各地で鍛えられている可能性もある。
「ふぃ……」
続けて嘆息だ……。
いずれは少年兵と相対する事になるかもしれないからな……。
少年兵と相対する存在は、道徳的なジレンマに襲われるそうだ。
子供に対して攻撃を行うか。やられるのを覚悟して、攻撃を行わないかの選択を強いられるそうだ。
この世界の連中は、そういう道徳は低いと考えられる。コクリコに対して攻撃をしてきたし。
だが、ここにいるベルやゲッコーさんはどうだ?
この人達は、俺のカテゴリーだと善だ。
子供相手となると、戦いづらいだろうし、そこが弱点にもなり得る。
それを回避する為にも、全員を救い出さないとな。
人身売買している敵の根城だ。
女性や子供たちが囚われていると想定して、行動するのが当然だな。
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