PHASE-806【普通が格好つけすぎると駄目だね】
「勝負ありだ」
ベルも四男坊がもう戦えないというのを理解したようだ。
歓声を上げていた相手側は不安に染まったざわつきへと変わり、今度はこっちサイドからどっと歓声が上がる。
「流石は勇者殿!」
伯爵の暑苦しい抱擁からの称賛はありがた迷惑だった……。
「勇者トールの勝利だ。この戦いはここで終結させる」
俺の一騎討ちを心配してたけども、勝てば王様は相手に対して、抵抗はせずに約束通り投降するようにと促す。
本当に俺を心配してたんだな。促す声は安堵のものだった。
「ま、まだで……す」
ここで四男坊が片膝で立つ姿。
俺の一撃はかなりの有効打だったようで、両足で立ち上がることは出来ない。仲間達に肩を借りてやっとだった。
俺の膂力もかなり上がっているようだな。
「どの口が言うか!」
現在の自分の姿を見てから言えと伯爵の怒号。
「いえ、伯爵。この戦いは私の負けです。まったく相手にもなっていない。本気すら出してもらえなかったのですから」
抜刀するほどの相手ではなかったという事から、端から相手にされていないと判断したんだろうな。
「ですが決着となるならば……、私の首を落とさねば終わりません」
でたよ……。なんなのそのルール。負けたら首を落とすとか全力で嫌なんですけど。
首級なんていらないよ。
「これほどの惨敗。生き恥でもありますので」
継いで出て来る発言に俺のテンションは更に下がる。
「おお! よう言うた。ならば我が手ずから斬り落としてくれる。誰ぞ大剣を」
って、伯爵が首を刎ねることにたいして意気揚々なので、ここでも襟廻をむんずと掴んで制止を求める。
今回のは強めに後ろに引き倒すような勢い。
俺の怒りをそれで感じ取ったのか、伯爵は意気揚々さを打ち消して黙してくれる。
これから一体どんな結果を勇者が下すのかと、固唾を呑む状況。
相手に至っては鞘に収めた剣の柄に手を添えている。
俺の発言次第では、四男坊のために玉砕するって気配がビンビンだ。
尊敬されている良い上役だ。
「俺はここで終わらせるよ」
「それでは示しがつきません」
「知るかよ。敗者が偉そうに何を言ってますかね。生殺与奪は勝者の権利なんだよ。敗者は黙ってそれを受け入れるんだな」
「生き恥をさらせとでも」
「生き恥? 端から勝負にもなっていないのに、それも分からずに挑んだことを恥とも思わない者が、負けた途端に生き恥とか」
って、ちょっと嘲笑してやる。
凄く上から目線な発言はとても俺の発言とは思えない。
「恥だと思うならその恥を上塗りするくらいの功績を次の機会で残せばいいだけだ。死んで逃げる事こそ恥だろう。散華を美学と思うことこそ恥だぞ」
これまた俺らしくない発言だな。
ここに来て俺の強者感が出ているような気がするが、調子に乗ると真の強者に怒られるので表には出さないよ。
これは四男坊の命を奪わないための発言でもあるってのは理解しているからだろうな。ベルもゲッコーさんも俺の背後には立たない。
ほっとしている俺がいる。
「生き恥とか格好つける死に方を選ぶくらいなら、もう少し精進してから俺に挑むくらいの気概を見せろっての」
俺はそう言ってバサッとマントを翻して四男坊に背中を見せるのであった――。
フフフ――。今のはちょっと格好良かったな。勝者としての貫禄を皆に見せる事が出来ただろう。
「うわ。格好つけてますよ」
「格好つけてるね。バサッてマントをやる時点で格好つけすぎだよね」
――……折角、格好つけてたところにまな板と約二千歳BBAが俺を見て嘲り笑ってやがる。
俺が四男坊に向けた嘲笑よりも嫌みったらしい口端の上がった笑みだった……。
反論したいけど、美少女と美人がそういった評価ってなると、正直、恥ずかしくて顔が赤くなるね。
もしかしたら他の皆さんもそういった評価かもしれないし……。
やだ……。ちょっとイキリすぎちゃた。
やっぱりバサッは、やめとくべきだったかな。普通に立ち去る動作がよかったかな……。
教訓。普通人はイキッてはいけない。
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