PHASE-807【転倒しちゃった……】

「決める姿はアレでしたがよき判断でしたよ主」

 アレでしたって言うのやめてもらっていいですか先生……。クソ! 勝者のはずなのにとんだ恥をかいているでやんす。

 

 よき判断ってのは、あの四男坊は部下達に尊敬されている存在。

 そんな男の命を奪えば相手は決死の覚悟になって挑んでくる。生かすことで落としどころも出来る。

 この辺は部下達の所作を見たときの俺の感想と同じだな。

 しかも四男坊とはいえ子爵家の出自。公爵領に深く踏み入った時を考えれば、わざわざ貴族との間に禍根を残すこともない。


 寛大に対応する事で勇者としての格も上がるし、なにより麓に配置された精兵たちにとっては、俺と馬鹿息子の人徳の差を比べることだろうと言うことだった。

 それは俺と共に行動する王様に集約することにもなるという。

 

 ということなので――、


「勝負はあった。再度告げる。約束通り投降してもらうぞ。これ以上は無益だ。血を流す必要もない。我々はこれよりカリオネルへの折檻と、その取り巻きの愚連隊を討伐させてもらう」

 折檻に討伐。

 馬鹿息子は折檻という柔らかい表現を使用し、正規兵たちが蔑ろにされてしまった原因の傭兵団に対しては、討伐という厳しい表現をする王様。

 こういった言葉の使い分けで、この場にいる公爵軍の溜飲を下げるということなんだろう。


「王の発言どおりである。立会人である私もこの勝負はここで終結したと判断する。お互いに矛を収めよ。まだ暴れたりないという者がいるなら私が手ずから相手をしよう。まとめて来てもいい。この場にいるのは三万ほど。物足りないが全員きてもいいぞ」

 ――……なんか最強さんが訳の分からない事を言い始めたよ……。

 公爵軍サイドは分からないだろうけど、なんで俺たちまで対象なんだと、特に俺のとこのギルドメンバーは全力で顔を伏せていたからね。

 腕巧者の古参メンバーの野郎たちは、美姫ではなく美鬼としての恐怖をしっかりと刷り込まれているからな。


「ベル。そういうのじゃないから。もう終わってるからそれ以上は引っかき回さなくていい」


「そうか。今回の勝利者がそう言うのならばよかろう」

 とりあえずは――、


「四男坊――ヨハンだったな。今回の戦では一応は大義は示しただろう。戦ったわけだし。だからこれ以上は参加するな。こんな所でここにいる面子の命を散らせるのは嫌だからな。俺たちの共通の敵は魔王軍なんだ。その為に戦ってもらわないと」


「――――――わかりました」

 熟考してから首を縦に振ってくれる。

 義理堅そうなイケメンだからな。公爵側への忠誠と、負ければなんでも聞き入れるといった手前、わずかな逡巡も見せたが、勝者からの今後の展望に理解を示してくれたようで、後者を選択してくれたのは有りがたい。


「でもさ――」

 ここで俺は凄むように声を低くしつつ、


「ないとは信じているけど、俺たちが要塞を攻める時、背後から攻めようものなら――」

 傾斜している麓だし、水深の深い川もないというか――麓で出すようなもんでもないけども、


「出てこいミズーリ!」


「お前は馬鹿だな……」

 呆れるゲッコーさんの声を背に受けつつ、白と灰色のまだら模様の山肌に沿わせるようなイメージで召喚。

 巨大な輝きが発生すれば、そこから顕現するのは鋼鉄の巨大戦艦。


「「「「な!?」」」」

 大きな驚きがいたる場所から上がる。

 王様もそうだけど、臣下の皆さんも初めて目にする超弩級戦艦。

 アイオワ級戦艦、三番艦ミズーリ。

 この世界ではあり得ないほどの巨大さと、鋼鉄が伝えてくる逞しさと強さ。

 見る者全てを黙らせる圧倒的存在感。

 これぞアメリカの魂ですわ。


「ああ……」

 久しぶりのミズーリを目にする俺もやっぱり男の子。

 見ただけで強いと分かる存在にテンションが上がるんだけども、ゲッコーさんの落胆の声とともに、ミズーリが傾く。

 うん……。やっちゃた……。

 重々しい鉄の軋みが麓全体に響き渡り、大地を震わせてミズーリが倒れる。

 イメージとしては山肌に立てかけるような――フィギュアの固定部分が折れたから、仕方なく壁に立てかけるイメージでやったんだけどな~。


「失敗」

 震える大地により方々ほうぼうから悲鳴が上がる。

 二百七十メートルを超える超弩級が倒れれば、それだけで恐慌状態。

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