PHASE-1372【欠点を引き継いだようで】
「じゃあ――よいしょい!」
当初の目的である角の根元部分に、諸手で握る鞘に収まる残火を振り下ろす。
ガスンといった音と共に痛みが走ったのか、鞘による一撃に合わせて電撃がバリッと一発前方へと放たれる。
「キィィィィィィィィィイ!?」
「はいはい。大きな声を出さない――っと!」
もう一撃を同じ箇所に叩き込んでやれば、またも電撃を前方へと放つ。
殴ればその衝撃で電撃が出るという状況。
ちょっとおもしろいと思ってしまう俺は不謹慎。
「さあ! 言うことを聞かないともう一発いくぞ!」
人語が通じるかは分からないけども――、
「おっ?」
急にエビルレイダーの動きが鈍くなる。
暴れていた体がゆっくりとした動きになり、角部分に纏っていた電撃の光が弱まっていく。
「これは俺に逆らってはいけないという考えになったかな?」
「馬鹿な!?」
ヤヤラッタから驚きの声。
「俺って生き物に好かれるタイプなんだよね」
女の子には全くもって興味を持たれない可哀想な男だけど……。というのは心の中だけで続けさせていただく……。
「何をしているエビルレイダー! 戦え!」
「ギュイィィィイ!」
「力を与えてくれた存在の命令は聞き入れたいようだな。忠節を尽くすヤツ――だっっ!」
「グギュ!?」
三撃目は警告とばかりに弱めに叩き込む。
衝撃だけで自分が不利な状況にあるというのが分かってくれたようで大人しくなった。
「なぜこうも精神が弱いのだ!」
自分が思ってもいないほどに巨大な芋虫のメンタルが弱いことに驚きを隠せないヤヤラッタ。
――ふむん。
「もしかしてだけど――」
「なんだ? 勇者」
「繭から目覚めさせるために力を注いだって言ってたけども、そこにキュクロプスも参加してたりする?」
目覚めさせるのに、ここにいる全員の力を注いだ的な発言をしていたからな。
全員ならキュクロプスもその中に含まれているんだろうからね。
――……。
「痛恨なり」
そうなんかい!
メンタルおぼろ豆腐も参加させてたんかい!
「この様な弱点を持ってしまうとはな……」
「知能の良さがお宅譲りなら、臆病さはキュクロプス譲りか」
「確かに臆病ではあるが、彼の者等の実力は技術面だけでなく、戦闘面も十分に高いものを持っているのだがな。まさか精神面が宿るとは……」
「彼の者――等?」
つまり、上にいた一人以外にもここには別のキュクロプスがいるってことなんだな。
「致し方なし」
と、
「来るか!」
「行かねばなるまい」
仕方無いとばかりにヤヤラッタが動き出す。
回復は――していないようだな。
初対面の時と違い、ちょっとした所作からも鈍さが見て取れる。
エビルレイダーの成長を早めるために、自身の力をかなり注いだことによる弱体化なんだろうけども――、
「ひゅ~」
流石と言うべきか、そういった動きを見せている中で俺の視界から消えてくるアクセルによる歩法。
弱っていても油断は出来ない。
でもまあ、
「ぬぅ……」
対応は容易。
エビルレイダーの頭部に立つ俺の背後を飛翔しながら取ってくるけども、突きによるハルバートの攻撃を鞘で捌いていなし、姿勢が崩れたところに弱烈火を腹部に打ち込んでやる。
苦悶の中、空中でよろめくような飛行をしつつ距離を取る。
「強くはあっても、十全の時でも俺の敵じゃなかった。それが弱体化しているんだから、尚更、相手にはならない」
強気に上からな言い様の俺。
強者という立場を譲るつもりはない。
「まったく……。なぜこの様な時に、勇者がこの森に入ってきたのか……」
「俺達にとっても重要な存在がこの森にいて、それがここに存在する。これほどに運命って言葉が似合うこともないよね」
「まったくもって困ったものだな。その運命は……。我々に良い方に転がるのなら喜んで受け入れるが、吉凶禍福の悪い方ばかりが転がり込んできている……」
「受け入れたとしても結果は変わらないね。ここが俺達が現れない世界線と仮定し、時間をかけてエビルレイダーを生み出し、この森を抜けることが出来たとしても、その先は行き止まりだ。突破も出来ずに全滅する」
アラムロス窟の現状では守るのは大変だろうけども、この森サイドからの進行なら、親方様たちには無理せずに要塞トールハンマーへと向かってもらえばいい。
そこで高順氏が指揮する部隊と合流すれば、この程度の大型生物なんて簡単に倒せるし、この森の魔王軍の勢力も全くもって相手にならない。
「どのみちお宅等が実行しようとしていた事は、今の俺達の実力と、この大陸の現在の勢力図から見れば、この森周辺で暴れたところでなんの意味もないってことさ。大事になることなく小事のまま終わる」
「では我らの努力は意味が無かったと?」
「有り体に言えば――そうなるね。お宅らがこの森で励んでいる中、外の世界ではそれ以上に進んでいるってことだよ」
「なんとも思い通りにならんものだな……」
――。
「なにを見ている?」
「いや、お宅や部下のレッサーデーモンなら普通に空飛べるんだから、その羽でここから脱出すれば良かったんじゃないかと思ったんだよ」
「同胞を見捨てて撤退できる軍監がいてたまるか」
「あ、そうですか。では部下たちは?」
ぐるりと見渡して発してみれば、「軍監殿をおいて撤退など出来るか!」と、一人から返答をもらい、それに対して残りの十三人が鷹揚に頷く。
――……揃いも揃ってクソ真面目か。
「失態だな。その柔軟性のなさが敗北に繋がる。仲間思いが強すぎて大局を見誤っているよ。戦闘時の知略をそっちにも活かすべきだったね」
なんて事を俺に言わせるくらいにバカな選択をしている。
一人でも脱していれば、ここの状況を南で陣取る味方に伝える事だって出来ただろうに。
それをしないなんてバカすぎる。
この場にいる同胞の事を本当に大切に思うなら、そうするべきだっただろうに。
まあ――、
「そういった考え方は嫌いじゃないけどね。俺程度が大局を見誤っているなんて発言をするのも生意気だろうけどさ」
「いや、間違いではない。言い訳をするなら長距離飛行は苦手でな。それらも含め、我々の不器用さを愚かだと口に出してこき下ろせばいい」
「こき下ろさねえよ。でも、倒させてはもらう!」
「相手になろう!」
ヤヤラッタの裂帛の発言に合わせるように、十四人の取り巻きも動き出す。
十全ではないだろうけど、軍監の意地が憑依したかのような気炎万丈。
この森での最終戦開始ってところかね。
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