PHASE-637【爪切りだけにしときましょう】
「分かったわよ。案内してあげる」
「え!? 本当に!?」
と、シャルナが驚き。
長い時を生きるシャルナでもエリクシールを目にした事は数回しかなく、それらは全て秘宝として厳重に保管されている代物らしい。
大魔法を封じる事が困難な事もあるが、素材がそもそも手に入らないという事もあり、今では現存する物以外で手に入れるのは不可能に近いと、シャルナは驚きの後に続けて語ってくれた。
だがリンの返事からして、素材はあるという事みたいだ。
「だけど、場所を秘匿にしてもらわないと連れてはいけない」
「いいでしょう」
「二つ返事だな。というかそれは俺が返事するから」
なんかコクリコの
「戦闘とか有るのか?」
採取だけども、巨龍の爪も素材に入っているのはシャルナから聞かされた。
となると、ドラゴンとの戦闘があると考えるべきだろう。
「――ドラゴン戦とか?」
継いで問えば、
「ええ」
首肯が返ってくる。
「じゃあ本当にミストドラゴンがいるんだ!」
俺とリンの会話に、シャルナが興奮して割り込んでくる。
「ミストドラゴン?」
「そう、幻獣の中でも伝説の存在」
そら伝説の存在にもなるだろうよ。素材が無いから現在ではエリクシールを作ることが困難なんだからな。必然的に伝説枠に入るだろ。
俺たちが直面する問題としては――、
「強いのか?」
「私は出会った事がないからね。でもエリクシールの為に冒険者に狩り尽くされたって昔、聞いた事があるよ。だから強さは普通よりやや強いくらいじゃないかな。実際に素材が手に入るなら、狩り尽くされたって言葉は語弊があるけど」
となると、俺でも狩れるかもな。
だがしかし。
「爪が必要なんだろ? なんで狩るんだよ。狩らなくても爪だけ分けてもらえよ」
「そういった考えを持った者達の声が大きければ、今のような状況にはならなかったんだろうけど」
リンの声は暗いし、不快感がにじみ出ている。
欲にまみれた者達は簡単に狂気に堕ちる。
爪だけでなく、その他の部位にも効能があると思い込んだあげくに、ミストドラゴンは種の存続が危険な状態になるまで乱獲されたらしい。
「そんな話を聞くと、素材集めなんてしなくてもいい気持ちになるぞ」
「まあそうですね……」
コクリコも乗り気だったけども、今は違う様子。
「でもトールは爪だけを手に入れればいいんだし、実際あれば便利だよ」
というシャルナの言葉も甘美に聞こえる。
「リンは場所を知ってんだよな」
「ええ」
「入手しても問題ないか?」
「命を奪わないならね」
「秘匿って事だし、冒険者たちに俺たちがこなしたクエストによる活躍は伝わらなくなるから、目的としては半分になるな」
エリクシールの素材集めが半分。
この都市の冒険者に俺たちの活躍を見せることで名声を更に高め、ギルド間で友好的な関係を築き、野良の方々の勧誘ってのが半分。
これだと後者は達成できないけども――、
「いいよな。コクリコ」
「リーダーが決定してるのですからそれに従いましょう」
「じゃあ決まりだな」
「そもそも我々の名声は、この地において既に広く知れ渡っていますしね」
「だな!」
体を乗っ取られていた侯爵を救い出したってのも活躍には含まれるけど、流石にこの地の領主の失態を公にする訳にもいかないからな。
俺たちの活躍が、酒の肴で上がるってのを知っただけでも十分だ。
フレンドリーに話せば、皆、俺たちと友好な関係になってくれるさ。
むしろここで秘匿を反故にして、リンとの関係を悪くする方が損害は大きいしな。
多くの冒険者より、一人のアルトラリッチの方が戦力になると結論づける俺は小賢しい。
「よし! ミストドラゴンに出会って爪を分けてもらおうぜ。爪切り感覚でいいだろ。流石に生爪はがすってなると嫌だけど」
「爪切り感覚で良いわよ。でも抵抗はあるでしょうね」
「そら今まで冒険者に酷い目にあった種だからな。仕方ないだろうさ。そこは全力で受けてやるよ」
「貴男――いい男ね。顔は普通だけど、銀髪ちゃんが言うように、男は生き様っていうのがよく分かるわ」
「ふぇ!?」
美人にいい男とか初めて言われた。美人というか、女の人に言われたこと自体が初めてだ。あっぷあっぷしてしまう。
顔が普通って発言はあれだけど。それ以上に、いい男って発言が強すぎる。
たとえ相手がアンデッドであろうとも、美人にいい男って言われると嬉しくてたまらない。
「鼻の穴が膨らんでるぞ」
「膨らみますよゲッコーさん」
「調子が良さそうで何よりだ」
「頑張って素材をゲットしましょうね」
「よし、頑張れ」
ん? 頑張れ? 何を他人行儀に言っているんだい。ゲッコーさん。
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