PHASE-1275【まずは南へ】

 ――で、ここで保険とばかりに、


「我々が決めたことなので、周囲の者達は変な嫉妬心は持たないように。まあこのギルドにそんな脆弱な精神を持った者はいないでしょうけども。パロンズが以前に組んでいた即席パーティーのような浅慮な者達のようなのは――ね」

 と、コクリコ。

 あえてパロンズ氏の欠点を先んじて自らが言う事で、周囲の面々には言わせないように布石を打ったな。

 更に同行を許可することで芽生えるかもしれない嫉妬心を口に出させないための抑止にもしたようだね。


「ほんにあの娘っ子は、ときたま大物に見えるような立ち回りをするの~」

 俺の推測と同じような答えを導き出したのか、ギムロンも感心していた。

 姉御モードの時のコクリコの存在感は頼りになるからな。

 ポンコツ乙女モードの時のベルに見せてやりたいものである。

 だとしても――だ。

 足枷を自覚しているかってのをパロンズ氏に言える立場ではないんだけどな。

 コクリコも戦闘時となれば、後衛だということを自覚しないで戦うからな。

 最近の俺はそこを改めさせる事に半ば諦めもしているけども……。

 

 まあいい。


「空回りで捨て鉢思考にならず、隊伍を整えて行動する事を約束してくれますか?」


「無論です!」

 俺の言い様がコクリコ同様、同行に対して肯定的なものだと分かれば破顔となって即答。

 自分が出来る範囲内で最高の結果を生み出せる行動をし、連携に注力すると約束してくれる。

 まずは無理をさせないことだな。肝に銘じておかないといけないのは、ドワーフだから前衛という固定観念は捨てないといけないということだ。

 有事となれば、パロンズ氏には後衛を担当してもらおう。


「では頼みますよパロンズ」


「はい!」

 いやあの……。

 隊伍を整えるって俺の発言にはコクリコにも届いてほしかった……。

 半ば諦めているとはいえ、本人にも自覚をしてほしいって気持ちもあるんだけどな……。

 やはりコクリコは後衛ではなく、遊撃という役割で見ていかないといけないようだな。

 本心は遠距離からドカドカと魔法で掩護してもらいたいけどね。

 

 ――――。


「そんじゃミルモンが指し示したエルウルドの森を目指してみるよ」


「成功を祈っている。そして本当に危険だと思ったら――」


「ちゃんと喚ばせてもらうよ」

 ベルに返しつつダイフクへと跨がり、馬上の人となる。


「活躍に期待する。移動手段を得たら――」


翼幻王ジズですね。待機中、ゲッコーさんはポーション作りに励む――皆さんの邪魔をしないでくださいね」


「再三の忠告、聞き入れよう。それにても――そんなに飲んでるイメージか?」


「飲んでるイメージしか湧かないです。ギムロンよりも酷いですからね。ベル、ゴロ太たちモフモフの世話もだけど、風紀委員長として風紀の乱れも監視しといてくれよ」


「わ、分かっている」

 本来ならゲッコーさんに睨みを利かせてくれるリアクションだけでも良かったんだけども、声の裏返りからして自分もモフモフ達と遊ぶばかりにならないように。という俺の暗に伝えたかった事をちゃんと理解してくれたのは尚良かったよ。

 コクリコもこの辺の聡さがあってほしいよね。


「主、まずはトールハンマーへと赴いてください。周辺の情報を得てからの方がよいでしょう」


「わかりました」


「道中はパロンズ殿に任せておけば問題ないですね」


「副会頭が憂うことないよう、自分が案内を務めます。アラムロス窟はギムロン殿だけでなく自分の出身でもありますから」

 爺様から頂戴した四頭立ての馬車にて御者を務めるパロンズ氏から力強い発言。

 最近だとギムロンが手綱を握ってくれていたけど、今回はパロンズ氏。

 ドワーフが御者をするってのがこの馬車では通例になりそうだな。

 

 御者担当のパロンズ氏の横にはコルレオンが座っている。

 何かしらの不測の事態に備えてか、まだ出立もしていないのにスリングショットを握っている。

 御者は自分が守るといった気概が伝わってくる。ショットガンとして励んでいただこうじゃないか。

 コクリコとシャルナは馬車内から見送りに対して挨拶を交わす。


 ――一通り皆が挨拶をすませるのを確認しつつ、出立の旨を口にしようとしたところで、


「主、最後に」


「なんでしょう?」


「王都を出て次の日、もう一度ミルモン殿の力を使用して天空要塞フロトレムリの場所を見ていただきたいのですが」


「場所が変わっていないかの確認ですね」

 動きがなく、変化がないならこちらとしては喜ばしい。

 目標に動きがなく留まってくれているなら、こちらはそこへの移動手段を手に入れればすぐにでも向かう事が出来る。

 これが魔大陸側に移動なんかされていると、敵地を移動する羽目になるから辿り着く難易度が極端に上がる。

 対応策を考えるとなれば時間を要する事にもなるからな。バランド地方で留まってくれている方がこちらとしては大いに有り難い。


「ですので、同行する者達を――」

 先生の言葉に合わせて背後から現れるのは――、


「やあやあ、ロイドルじゃないか」


「一日程度の短いお付き合いですが、会頭と皆様に同行させていただきます」

 俺達と同行して、ミルモンが確認したところでそれを王都へと伝える役として参加。

 そのロイドルの護衛として黄色級ブィを首にぶら下げたギルドメンバーが二人随伴してくれる。

 各地を駆け回る機動力の速さに定評があり、今では各地で励むギルドメンバーの実績や素行を調査する立場として励んでいるロイドル。

 元々はカリオネルの使いだったけど、先生がここで選抜するんだからな。信任は厚いようだ。


「よろしく頼むよ」

 なので、皮肉なんかは口にすまい。

 無粋だし、俺の会頭としての器がしょっぱいものになるからな。

 

 ――ロイドル達が騎乗するのを確認し、延長された別れの挨拶をする面々に知らせるように――、


「出発!」

 思考を切り替えて次へと進めるための合図とばかりに強い語気にて発する。

 馬車より前に立ち、ダイフクの横腹を両端でトンと叩けば軽快に脚を動かしてくれる。

 

 木壁の門を潜り外へと出れば、タレットや壁上からギルドメンバーや王都兵が激励。

 すれ違っていく商人さんや旅人に会釈をしつつ西南西はエルウルドの森へと向かうため、王都より南に位置するトールハンマーへとまずは向かう――。

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