PHASE-610【超速移動】

「生意気!」


「だろ」

 蔓による攻撃は硬質化したものに変化。

 猛禽のような爪の形状になると俺の直上から落ちてくる。


「UFOキャッチャーかな?」

 景品にはなりたくないので即座に直上から迫るソレをダッシュで回避。

 背後では重々しい音と振動が足から全体に伝わってくる。


「逃げないでよ」


「逃げるわ!」


「じゃあこれで」


「いやいや……」

 蔓が硬質化し、爪の形状になったのが大量に作られていく。

 大きさは背後のよりは小さいけども、数の暴力で俺に向かって迫ってくる。


「捕まえたら即座に串刺しにしてあげる」

 怖いことを言うリンの目は本気だとばかりに怒りに満ちている。

 初見の頃の余裕ある表情ではない。

 ベルにオベリスクを切り倒されているのがよほど許せないようだ。

 決して破られることのない結界を容易く破られて、何本も切り倒されればエンレージもMAXってことだ。

 だからといって俺に怒りをぶつけないで欲しい。

 まあそのおかげでベルには攻撃を向けられていないけど――、


「ねっ! っと」

 正面から迫る蔓の爪を残火で斬ってから。走りながらに烈火の準備。

 コンボで一気に決めてやる。

 ベルの行いによって怒りと焦燥感に襲われているアンデッドの攻撃は大味なもの。

 下手な攻め方から生まれるだろう隙を必ず活用してやる。

 

 ――――エビルプラントの根元まで後もう少し。


「鬱陶しいわね。サーバント・アイシクル」

 マレンティの時に見たな。

 例によって大きさは全くの別物だけど。

 ナイフサイズではなく刀剣サイズのものが全包囲から迫ってくる。

 蔓の爪。トゲ。そして無数の氷の刃。

 俺を取り囲むように迫ってくる。

 これらの追撃を振り切るのを可能とするのは、ストレンクスンで倍加された身体能力によるラピッド――ではない。

 それは既に使用している。

 使用していても現状の驚異を一気に振り切るのは難しい。

 

 ここで俺の脳内に浮かぶのは皺の多い、でも精悍な顔の人物。

 ミズーリの甲板で俺に師事してくれた人物だ。

 ゴブリンのアルスン翁が見せてくれた、瞬時に俺の目の前まで移動して来たピリア。

 イメージの経験は、イグニースをドーム状にしたり、お手軽な弱烈火も使いこなせるようになってきている。

 ピリアに関してのマナコントロールは着実に上達している。

 アルスン翁が見せてくれた動きをイメージしつつ、更にはレッドキャップスの面々が使用してきた縮地のイメージを脳内で甦らせつつ。


「いくぜ!」

 と、独白で自分を奮い立たせての、


「アクセル」

 と、継げば。


「「へ?」」


「おお!」

 跳躍と同時に使用すれば、間の抜けた声を出すリンとオムニガルが視界に入る。

 使用した俺自身も驚いてしまったがそんな考えは直ぐさまかなぐり捨てて、


「とった!」

 残火に纏う炎が大きく逆巻く。

 俺の思いが憑依した炎を花弁へ見舞ってやるため狙いを定めれば、


「む、無駄だよ」

 はたと我に返ったかのように、慌ててオムニガルが障壁を展開。


「無駄だ」

 と、後方からは同じ台詞であっても、真逆で落ち着きのある渋い声。

 声に続いて劈くような音が響く。

 

 ガシャリとガラスが割れるような音と共に、オムニガルの結界が砕ける。

 弾体はそのままエビルプラントの花びら部分を貫通。

 肩越しに瞥見すれば、レールガンを使用するゲッコーさん。

 その姿は伏射姿勢なんだけども、シャルナを背負った状態。

 シャルナが覆い被さっているようにも見える。

 横に寝かせてから撃てばいいのに、なんで背負ったままなんだろう。

 背中にはどんな感触が伝わってるの? なんて思いつつも、


「せいっどっせい!」

 気概を発し、大上段から全身全霊の炎の塊を振り下ろす。

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