PHASE-1492【飼い主がいるんだから勝手に命名しない】

「で、脅威となるであろう最精鋭のレッドキャップスって、どのくらいの規模?」


「そこまで教える義理はないよな」

 敵に対して言うわけないだろう。と、当然の返答。


「まあ、単純に知らないってのが答えだけどな」


「へ~」

 当然の返答と思っていた矢先に、知らないとはいえ答えてくれる。


「魔王に対しての忠誠心とかないのかい?」

 ミルモンの率直な質問に対し、


「愚問だな。向けるべきはお一人よ」

 つまりは翼幻王ジズってことね。

 蹂躙王ベヘモトもそうだけど、今の魔王軍ってのは、お互いがお互いの出方を窺い合っているってところなんだろうな。

 だから蹂躙王ベヘモトも北伐を担当していながら、こちらの反撃が強まった途端に王都側への侵攻に本腰を入れなくなっているしな。

 

 脆い結束力のようだけども、それでも組織として体を成しているのは――、


「偏にショゴスの個の力と、取り巻きの力が強大ゆえなんだろうな」

 言ってみれば、ラズヴァートの表情はなんともおもしろくないといったモノへと変わる。

 その表情が答えなんだよな~。

 

 さてさて――、


「話し込むのもなんだし、主の所まで道案内を頼むよ」


「お断りだ!」


「そらそうだ」

 忠誠を誓う存在の居場所を素直に教えるわけがないよな。


「どうする?」

 一言言いつつこちらを見てくるリン。


 ――リンの目から察するのは、チャーム系の魔法や拷問的なことで口を割らせるか? といった考えだ。


 ふむん。


 忠誠心が高い相手に対して無理強いをすれば、


「自決もありえるよな」


「舌をかみ切るでしょうね。まあ死んだら死んだで、使役すればいいだけなんだけど」


「なんでも出来るな。アルトラリッチ」

 ヒソヒソとやり取りをする俺達の次のアクションがどういったもになるのかが気になるようで、睨みを利かせて注視してくるラズヴァート。

 女に対して軽口をたたくようなヤツではあるけど、高い忠誠心は見上げたものだ。


「当分は今のままでいいさ。逃げようとするならその顔を二目と見られない面に仕立ててやるけどな」

 拳をつくって発せば、


「流石は勇者様。抵抗の出来ない相手となれば敵であっても慈悲をくださる~」

 小馬鹿にしたムカつく言い方だよ。後半の内容を耳に入れなかったのか? 逃げようとしたら、拘束した状態でボコボコにするってことだからな。

 それともそれを理解しているからこその皮肉かな。

 どちらにしてもムカつくのには変わらん。


「こっちにはお前に頼らなくても、お前の主が何処にいるかを特定しようと思えば出来るんだからな」


「だったら最初からそれをやれよ。やってない時点で負け惜しみ。ってね~」

 レインメーカーだけでなく、そこから片翼の天使に繋げてやればよかったよ。

 

 ――ミルモンの能力がある以上、探そうと思えば難しくはないのは事実。

 どうしても自力で出会うのが難しそうならミルモンに頼る。

 直ぐに楽な方へと頼ろうとしない俺って、ベルとゲッコーさんのスパルタ教育が身心に刻まれてるってことなんだろうな。

 

 そんなスパルタな一人であるゲッコーさんが現在、潜入して探索と工作に励んでくれているってのもあるからな。その頑張りを無下には出来ない。

 で、残りのスパルタ一人はいい加減にしてほしい。


「お~い。ベル」


「なんだ」

 あ、今度はちゃんと返事してくれた。


「そろそろ次に移動するぞ。なんならそのフッケバインに乗ってから行くか?」


「そう考えている」

 つっても素直にこちらに従うとは思えないけどな。

 ベルに対して恐怖しているだろうけども、そこはこの天空要塞における戦略生物というポジションと考えていい生物。

 プライドだってあるだろう。


「とりあえず降りてくれ」

 ――……。

 返事がない……。絶対に降りたくないという意思が伝わってくる。

 仕方ねえな。

 ――チラリと左肩を見る。

 察したようでミルモンはなんとも困り果てた顔になる。

 苦手を通り越して怖いという対象になっているからな。


 申し訳ないとは思うけど、


「お願いできるか?」


「……主である兄ちゃんのお願いならね」

 どっこいしょと言いながら重くなった腰を上げ、パタパタと小さな羽を動かしてフッケバインの背中へと向かってくれる。

 

 ――で、


「降りてきた」

 可愛い者のお願いには素直になるってのが最強でポンコツのベルさん。


「次に行くぞ」


「分かっている」

 モフモフで上がっていたテンションも少しは落ち着いた感じだな。

 それもこれもモルモンが気を利かせてベルの肩に乗ってくれているからだろう。

 ミルモンもベルの扱い方が分かっているようだな。

 ああなると、ミルモンを離さなくなる可能性もあるけども……。


「では次の場所へと案内してもらおう」


「美人のお願いなら喜んで!」

 おいおい忠誠心は何処へやら……。

 まあ、素直に案内する気はないだろうけど。


「ガァ!」


「なんだ!?」

 倒れ込んでいたフッケバインが矢庭に体を起こせば――輝き出す。


「爆発する気か!?」

 そういったイメージを与えてきたので、即座に隊伍の前面へとイグニースを展開。

 強い閃光。

 目を覆ってしまう位に強い輝き。


 ――あれ、これは……。


「ファイアフライ……か?」

 気付いた時には突風を巻き起こし、輝きが収まった時にはベルの跳躍でも届くことが出来ないほどの高さまで移動。 


「ヴィルヘルム!」

 空へと手を伸ばすベルから出てくる突然の名前。


「なんやヴィルヘルムって……。名前を既に決めてたのかよ……」


「ああ……」

 俺達の直上で留まることもせず一目散に要塞方向へと飛び去ったフッケバインを見ながら、哀調を帯びた声で返してくるベル。

 

 しかし、ファイアフライも使えるんだな。

 嘴を開いてのブラストスマッシュの使用も考えれば、様々な魔法が使用できると考えるべだったな。

 魔法による逃げの算段も心得ていたか。

 やるな! フッケバイン!

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