PHASE-1257【同じ目線による発言は心に響くよね】

 ギムロンの緊張する表情がなんともおかしいので、もう少し放置して見続けてやろうと思っている悪戯心の俺がいる。

 でもそんな俺に支配されてしまうとベルに叱られそうなので、ベルの提案に従って一階へと移動。


 美人の最強中佐とその中佐に抱っこされた白い子グマを伴い一階へと移動すれば、集まった面々が自然と俺達のために道を開けてくれる。

 モーセムーブとばかりに、人波にのまれることなく難なく中央で待機している二人の前までやってくることが出来た。


「二人ともおめでとう」

 と、俺が言えばそれにベルが続き、ゴロ太も続く。


「ありがと♪」と「か、感謝するぞい……」と、テンションが正反対の返事。

 後者の緊張した姿は本当に笑える。

 俺の登場で若干、体を弛緩させている辺り、顔見知りが増えてくれるのは助かる。って、ところなんだろうな。


「では主。一言」


「はい」

 ギムロンも大概な緊張しいだけども、先生の発言で俺へと衆目が集まれば俺だって緊張はするんだけどね。

 といっても、マッチポンプ剣舞をやらされた経験からすれば、このくらいの衆目なんて余裕だけども。


「シャルナ」


「なに?」


「俺のパーティーメンバーとして常に貢献し、ミルド領では瀕死の状況に陥った俺をリンと一緒に救ってくれたこと感謝する」


「堅苦しい言い方だね」

 お前は軽すぎるんだけどな。

 まあ厳かな雰囲気って感じじゃないからフランクな応対でも問題ないんだろうけど、会頭としての体裁もあるからね。

 今回はお堅く接します。


「この世界の危機の中で多大なる活躍を見せてくれたシャルナに対し、ギルド・雷帝の戦槌において最高位階である紫色級コルクラの認識票を授与する」


「「「「おおっ!!!!」」」」

 周囲から歓声が上がり、再び祝福の声が上がる。

 勇者のパーティーだから最高位を授与できるのか? などといった無粋な発言をする者は一人もおらず、むしろ「やっとか」や「ようやく妥当な位階になった」といった、シャルナの授与に対し肯定する発言ばかりが上がる。

 皆、シャルナの実力をちゃんと理解してくれているのが嬉しかった。


「ギムロン」


「お、おうよ」


「俺達のパーティーの助っ人をこなしてくれたり、何よりもこのギルドにおいてメンバーだけでなく、他の冒険者たちが命を預ける装備を制作してくれていることに深く感謝し、位階第二位である青色級ゴルムの認識票を授与する」

 ここでも祝福の声が上がり、中には身につけている装備は良いモノだと言った声を上げてギムロンを称賛する者達もいた。

 

 ギルドメンバーに野良の方々。素敵な面々ばかりじゃないか。


「では――」

 早速――といきたかったが俺の手は現在――無手の状態。


「先生」

 認識票はどこでしょうか? と、目で伝えれば、食指を上へと向ける。

 それに従って見上げれば――、


「とう!」

 と、二階から俺の横に見事な着地をしてくるのはコクリコ。


「またド派手な登場だな」


「私らしくていいでしょう」


「今回は主役の二人を立てような」


「抜かりましたよ。本来なら主役は三人だったのですからね」

 ――――ああ。


「お前が特注を直ぐに欲したのがよくなかったな」


「この様な場で大々的に渡されるという流れがあるとは……」


「でもまあ、黄色級ブィだと普通に受け取るだけだろうけどな」


「まあそうでしょうね」

 お? 素直じゃないか。


「私は私の実力で更に上へと進み、今以上に大々的にやらせてもらいますよ! 私財を投入してでもね!」

 と、主役二人をバックにして全体に大音声で発するコクリコ。

 格好いいような、語末の発言で格好わるいような……。

 注意を無視してメインを掠め取るような言動は如何にもコクリコなのだが――、


「その通り!」や「私も上を目指します!」や「俺も負けねえ!」などなど、向上心の塊のような発言がコクリコに続いた。

 俺の思惑でもあった、ギルドメンバーの向上心を煽るってのは成功したようだ。

 先生と見合ってゆっくりと首肯でやり取りをしつつそう思った。

 本来は俺が促さないといけないんだけどさ……。


「さあトール。受け取りなさい」

 相変わらず上からな物言いのコクリコだが、従いましょう。

 自らの努力でシャルナやギムロンに負けないくらいの昇級式を行うと宣言したことは、我が儘を言わない成長の証として喜ばしかったしな。

 後、俺を立てるためなんだろう。言い様は上からだけども、一歩後退してから両手で認識票の入った小箱を俺へと差し出してくるあたり、自分の立場をわきまえている。


「ではまずシャルナ」


「どうぞ」

 一歩、俺へと歩み寄り、お辞儀をする姿勢で待機してくれる。

 コクリコが差し出す小箱から光沢ある紫色の認識票を手にし、長い耳に引っかからないように注意しつつ認識票をかける。

 ふわりとシャルナのよい香りが鼻孔に届けば緊張してしまう俺。


 ――かけると姿勢を戻し、金糸のような美しい髪にかかった認識票の紐から、髪を解放するためにかき上げれば、さらにシャルナの良き香りが鼻孔に届くというもの。


「ありがと。この色に恥じないように活躍するよ」


「頼むぞ。特に俺が死にかけたらフォローよろしく」


「もちろん。トールに危機が迫らないように努力するよ」


「お、そうか」

 なんて素敵な笑顔で嬉しいことを言ってくれるのか。

 美人の笑みを至近で見ることが出来るってのは嬉しくもあり、童貞ゆえに緊張もしてしまう。


「では次ぎ。ギムロン」


「ふぉい!」

 なんだよその裏返った返事は……。

 本当に普段の豪快な性格が身を潜めているな。一瞬で俺の緊張が霧散したわ。

 俺へと一歩近づく。その一歩は緊張からか右手と右足が同時に出るナンバ歩きでの歩み寄りだった。

 シャルナを真似てお辞儀の姿勢。


「あ、ギムロンはそのままでいいよ」


「そ、そうかい」

 ドワーフは背が低いからな。そのままの姿勢でもかけやすいと伝えれば、樽型ボディで直立不動。

 ガッチガチに緊張している姿に吹き出しそうになる。

 俺の側で小箱を前に出したままの姿勢を維持してくれているコクリコの方へと手を伸ばし、小箱から残りの認識票を手にし、青色の認識票をギムロンの首へとかける。

 シャルナと違って良い香りではなく、些か酒気を帯びていた。

 コイツ……、緊張から酒に走ったんじゃねえだろうな……。

 アルコール依存症は全力回避ねがいたい。


「階級に恥じない行動を頼むよ」


「お、おうよ!」

 緊張しながらも肯定の返事。

 周囲はともかく、主役が授与式で飲酒は駄目だ。ってのを遠回しに伝えたつもりだったけど、当の本人はそれには気付いていないようだな。

 

 ――よし。


「二人の――」


「二人のように我々も励み、この世界の為に活躍しようじゃありませんか! 現状の認識票の色に満足することなく、皆で高みを目指していきましょう! この二人を手本として!」


「「「「おおぉぉぉぉぉおっ!!!!」」」」

 流石はコクリコだ。俺の言いたいことを頼みもしていないのに俺の代わり言ってくれた。

 俺は――二人のように皆も励んでほしい――。という簡素な発言をするつもりだった。

 対してコクリコの発言は、認識票を首にぶら下げる者同士だからこそ分かり合えるような発言だった……。

 なので邪魔をするな! ――などといった怒号は飛ばさない……。

 俺よりもボキャブラリーがあって助かりましたよ。

 ――ってのが素直な感想だった。

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