PHASE-1631【グーパン】
「クーメンが苛立つのも分かる。周囲が強いことと、纏っている装備が凄いから勘違いしているようだ」
「勘違いなんかするかよ優男。もし地力じゃない力を自分の力だと誇示すれば、直ぐに教育的な修正をされてしまうからな」
チラッとベルを見れば微笑んでくれる。
増長していなくて何よりという笑みに、俺の鼓動は高まる。
「美人の前だからといって格好をつけないことだ」
「あのさ。俺がさっきお宅の仲間のウィザードが放った中位魔法を迎撃したのを見ていなかったのかな?」
「見ていたよ。だがそれは装備のお陰だろう。そのグローブとガントレットが生み出した力のお陰。素手で同じ事が出来たのかい?」
「おおん!」
唸ってしまうだけで言葉が出ない。
誇示することはしないが、装備のお陰と言われれば否定もできない。
俺が唸ることしか出来なかったからか、してやったりとばかりに口角のつり上がった笑みを浮かべる。
整った顔が台無しだな。
「装備に頼りきっているだけのヤツが随分と大口を叩くものだね」
周りを見ながら言えば、ソレを合図にパーティーメンバーの三人も俺へと嘲笑をぶつけてくる。
ブリオレもこれには納得したのか、自分がやられたのはガキが纏う装備が原因だったのか。とばかりに、四人とは違って怒りに満ちた睨みを俺へと向けてくる。
本来の実力なら俺が負けるはずがないんだ! と、心の声が俺の方へと届いてくるよ。
「いかんともしがたい馬鹿者どもだ」
嘲笑を向ける四人にベルが口を開く。
声音は冷ややか。
「なにかな? 自分の仲間が馬鹿にされたことが不快だったかな?」
「共に行動する者が侮辱されれば誰しも不愉快になるものだろう。貴様の場合は仲間よりも自分が侮辱されることが嫌だというのは、眉の動きから伝わってきた。仲間より自分の矜持を優先する貴様にオルトを嘲る資格はない。理解しろ三下」
「ベ――アップさん!」
なんて嬉しい事を言ってくれるのでしょうか。
惚れてまうやろ! 惚れてますけども。
ますます惚れるってもんですよ!
小者連中に馬鹿にされようが、強者一人の擁護を受ければ嘲笑なんて些末なものでしかない。
「また俺を三下と言う。流石に二度目は看過できない――かな!」
余裕を見せる語り口ではあるが、語気は完全に怒りに染まっている。
そして狙うのは俺ではなく――ベル。
「俺を狙えよ。悪手もいいところだぞ」
「クアントに合わせるよ!」
スタッフの貴石を再び黄色に輝かせ、発する言葉も同様。
ロープ状の電撃の蛇がベルへと向かい、それに合わせてウォーリアーとスカウトの二人も仕掛ける。
中央からソードマンのクアント。
右翼と左翼から二人。
翼包囲。
「多対一なら常套な戦法ではある。助力は?」
「いや、結構だ」
俺へと返しつつ、ベルは迫る相手に向かって駆ける。
ライトニングスネークを跳躍して回避すれば、
「読んでいるぞ」
ロマンスグレーのスカウトであるウッドが同様に跳躍。
ベルと同じ視線の位置で得意げに語るけども、
「読んではいるが、その後はどうするつもりだ?」
「無論、捕らえる!」
ベルへと躍りかかってくる。
捕らえてそのまま地面へと落下したところで、下で待機している二人の前衛が確実にベルを仕留めるといったところか。
「出来ない事は言わないほうがいい」
「がぅ!?」
空中で一回転。
回転してから繰り出すベルの攻撃は、踵による蹴撃。
空手の技である胴回し回転蹴りを空中で実行。
側頭部にベルの踵がめり込むと同時にロマンスグレーの意識は飛んだようで、白目となって勢いよく落下。
落下地点には自分たちが思い描いた対象は落ちてこず、気を失った味方。
表情が勝ち気なものから焦燥へと早変わりだ。
仲間意識があるのは――ウォーリアーのザンザだけだったのか、落ちてくるウッドを一人でキャッチ。
落下した仲間を救うことは出来たが、両手の自由が奪われているところに音も無くベルが着地。
仲間を抱きかかえて動けないザンザの顎に掌底を打ち込めば、抱きかかえた仲間と仲良く白目となって地面に倒れる。
膝から崩れ落ちるザンザだったが、ウッドを放すことはしなかった。
だからだろう。
「見事だ」
と、倒れるザンザに笑みを見せながら称賛を送れば、
「だが三下――貴様は駄目だ!」
瞬時に真反対の表情となって言葉を継ぐ。
炯眼で睨まれ優男は背を反らす。
「仲間よりも自身の侮辱を許すことの出来ない性格。そして落ちてくる仲間を支えようとせず一人距離を取ったな。貴様にこのパーティーは過ぎたものだ」
「その生意気な口を塞いで上げようか!」
弓なりに反らした背を定位置へと戻してから強気な発言をするも、端から見れば空威張りでしかない。
「制裁」
の一言と共に、虚勢を張る優男にベルが打ち込むのは手加減なしのグーパン。
蹴りはよく見るし、喰らうけど、グーパンは珍しい。
しなやかな体から伸びる右ストレートがクアントの顔面へとめり込む。
「「「「おおぉぉ……」」」」
俺たちと、相見える連中にオーディエンス。
全体から声が上がる。
拳が鼻を潰し、その勢いで白いのが数本、宙を舞う。
「あの細腕で何という拳打……。絶対に喰らいたくねえ……」
徒手空拳にて成り上がってきたであろうモンクのガリオンが、ベルのグーパンを目にして巨躯をブルリと震わせていた。
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