PHASE-1046【友情に上下の隔てなし】

「本当にいいんでしょうか?」

 と、ハウルーシ君。

 サルタナ君も申し訳なさそう。

 冒険のお供である干し肉だが、彼らにとっては高級な食料のようだ。

 一枚をよく噛んで食べれば、側に生えていた大きな葉を一枚採り、残り数枚はそれに包んでポケットにしまう。

 家族にも食べさせたいという発言を耳にして、上を見てしまったよ……。

 涙が零れないようにね……。


「コクリコ、ご家族や周囲の方々のためだ。全部やれ」


「嫌ですね。ここで全てをあげるのは愚の骨頂です」

 またケチケチと!


「いいですかトール。私がケチというのが理由ではありませんよ。全てをあげてもそれが全体に行き届くほどの量がないからです。そうなると不満が生まれます。やらない善よりやる偽善だとしても、全体に行き届かないと意味がありません。トールがやろうとしていることは場当たり的な自己満足です」


「あ、はい……。なんかすみません……」

 コクリコに論破される俺氏……。

 確かにこの子たちの営みを想像して熟考もせずに口から出てしまったが、そうじゃないよな――。


「この国の有り様を変えないことにはどうにもならない」


「その通りです」


「有り難うございますコクリコさん」


「私がパーティーにいて良かったですね」


「ああ――うん」


「そこはちゃんと感慨深く答えるところでしょう!」

 アホな漫談を見せてあげれば、子供たちの緊張もほぐれたご様子。

 こういった細かい配慮が出来る俺はえらいね。

 コクリコも姉御肌モードになると含蓄深くなるし。


「さあ送っていこう。どっちの方が近いんだい?」


「それなら僕は一人で」

 と、ハウルーシ君。


「駄目だよ。さっきのような狼が出てきたら対応できないだろう。それに帰り道は理解してるの?」


「……本当にご迷惑をおかけします」

 この森を走りながら逃げてたんだ。迷って当然。


「良いんだよ。他はともかく、ここにいる面子は二人が心配で動いているんだから」

 ぺこりと頭を下げるハウルーシ君はとても素直ないい子である。

 ベルが見たら庇護欲にかられそうな子供だ。

 褐色の肌に銀の短髪。紫色の瞳。あどけなさが残るダークエルフの少年。


「ちなみに御年――」


「七百五十二歳になります」

 ――……。


「おっし! そうか。そうだな。エルフだもんな。ちなみに……サルタナ君は?」


「二百四十歳になります」


「お、そうか」

 どぎゃんす。二人ともやはり凄い年上。


「ギムロンはおいくつ?」


「ワシか? 今年で二百十九になったぞ」

 ――……おいおい。立派な髭をしごいてますけども、この子たちより年下かよ。

 マジで年齢って概念が無茶苦茶な世界だよな……。

 にしても年齢差があるのに同じような背格好だな。


「ハーフエルフですから」

 二人を見比べている俺の所作から理解してくれたルミナングスさんが教えてくれる。

 ハイエルフ、エルフ、ダークエルフと違い、ハーフエルフは混血。

 人間とエルフの間に生まれたりしたハーフエルフは、他のエルフよりも長命というわけではなく、成長も早いということだ。


 人間に比べれば遙かに長命だが、寿命は千~二千年ほどだそうで、他のエルフと比べればハーフエルフは短命なのだそうだ。

 そういったことも理由に含まれているから、階級に置いても下に位置づけされてるのかもしれないな。

 長命であってもダークエルフの場合は反乱が原因で今の階級に至るわけだが。

   

 ――あどけなさが残るとんでも年上な子供たちを連れて移動開始。


 ハウルーシ君は自分よりもサルタナ君を先にと言っていたが、ダークエルフの集落はサルタナ君の住む村より危険もあるからと、先にハウルーシ君を送る。

 移動の最中、ハウルーシ君が集落までの道を把握できたところでルミナングスさんとはお別れ。

 子供たち発見の報告を頼んだ。

 ハイエルフがこのまま集落にいけば入らぬ刺激にもなると、ここに来てまだ日が浅いけども俺なりの配慮をさせていただく。

 立ち去るとき、どことなく安堵した表情だったから配慮は無駄ではなかったようだな――――。


「母親のためというのは感心だけど、危険な場所に子供二人で行くなんて駄目だぞ。ちゃんと大人を頼らないと」


「すみません……」


「僕が悪いんです」

 注意をすればサルタナ君の謝罪に続くようにハウルーシ君が弁明。

 いつもなら集落の近くで採取出来るから簡単な事だと油断したそうだ。

 ルミナングスさんも言っていたけど、まさか遭遇したミストウルフが襲ってくるとは思いもしなかったとの事で、脇目も振らずに逃げてしまい、結果、集落から離れすぎ、迷いながら逃げていたそうだ。

 ミストウルフの時もそうだったけど、ここでも懸命になって助けようとする。

 二人の仲が凄く良いというのが分かる。


 ウーマンヤールであるハウルーシ君の階級を気にせずに対等に付き合ってくれるサルタン君は大切な友達だという。

 無事であったことでこれからも互いの関係が続くことを喜ぶ微笑ましい光景。


 そもそも今回この子たちが遭難したのも、ポルパロングの部下達の監視がしっかりとしていなかったからだ。

 ちゃんと仕事をしていれば、こんな面倒事にも発展しなかっただろうに。

 

 この子たちは悪くない。今回、監視を行っていたエルフ達の責任者であるポルパロングが悪い。

 ――と、心にしっかりと刻もう。

 まだ出会った事もないポルパロングだが、評価は下の下だ。

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