俺、異世界に来たんだってよ

PHASE-04【光の先は荒廃した世界でした……】

「あ~コホン」

 わざとらしく咳を一つ行っている。締めの台詞でも言うのだろうか?

 小馬鹿にされている間に能力は与えてもらった。

 

「――――では、力を与えられし存在トール!」


「トートーでもトールでもなく、亨!」


「いいじゃない。いまから行く所に似合ってるわよ。ファンタジーの世界なんだからトールで。では、君の望む能力は与えました。頑張って魔王を狩ろうぜ♪」

 一狩行くみたいな感じで軽く言いやがって!


「名前はちゃんと呼ぶのがマナーだよ」


「男のくせに細かいわね。分かったわよ。元々はPCゲーで、CS版として発売された作品を購入するも、やっぱり十八禁ほんけをやらないと内容が理解できないよね~。などとエロ童貞のテンプレ弁解で自分を奮い立たせて、夏休みのテンションと、大脳旧皮質のままに突き動き、ネット通販にて【あなたは18歳以上ですか?】の表記に対し、なんの躊躇もなく【はい】をクリックし、ハッスルゲームを購入するも、それが届く前に死んだ男よ」


「長いよ! そして……トールでいいです……」

 バレバレじゃねえかよ……。

 くそ、ますますこれが現実なら恥ずかしくてたまらない。

 ええい! こうなれば願望を!


「魔王を倒したら、生き返らせてくれると嬉しいな~」

 俺としては、ハッスルゲームもだが、年末にも発売されるゲームをいまから楽しみにしている。

 何より、親より先に逝くのも申し訳ない。

 でも、無理なんだろうな……。


「いいわよ」

 あっさりだな。

 よし! 未練たらたらなんだ。年末ラッシュを謳歌するためにも頑張らないとな。

 でもって、この状況は夢であってくれ! そしたら問題なく、家で夏休みの続きを堪能できるんだから。


「夢じゃないから諦めなさい。てことで、行ってらっしゃい。後でフレンド登録してあげるから」

 夢ではないと突き放しやがる。俺が望んだ物を与えながら――――。

 しかしなんだよ。フレンド登録してあげるとか。なんて上から発言。

 忌々しく思っていると、俺の足元の床から音もなく、木製のドアがせり上がってくる。 

 ドアのつくりは観音開き。


「ここから行けってこと?」


「そう! 名付けて、どこで○ドア~」


「やめろ!」

 なんだこの死神は。日本のサブカルチャーに精通してるのか?


「健闘と幸運を祈る」

 敬礼スタイルが垂直に近い。海軍式だな。いちいちマニアックだ。

 まあ、それを理解できてる俺も相当だけどな……。

 ――――ドアノブを諸手で握る。カチャリと音が耳朶に届く。

 両腕を引いて、観音開きのドアを開くと、こことは反対の真っ白な空間。

 光によって、白い空間となっているようだが、目に刺激がこない不思議な光。

 そこへと足を踏み入れ数歩――――。

 途端に、荒廃とした光景へと変わった……。


「は?」

 見渡せば、至る所から黒煙が上がり、火の粉が舞っている。

 黒煙が空を染めあげ、建物は炎に包まれている。

 建築様式は中世を題材にした映画なんかで見る、石壁や煉瓦。それに藁で出来た屋根。 

 瓦で出来た屋根もあるけども、目に映るそれらは崩れ、穴が空き、人が生活を営む事は出来ない状態になっている。

 突如としてそんな場所に俺の体はあるんだが、超展開すぎて、やはり夢なのかと思ってしまう。

 でもそれを裏切るように、鼻孔に届く煙の臭いが、現実だと伝えてくる。

 夢と違って、死神のセラと出会ってから、記憶がぶつ切りじゃないんだよな。

 現状の俺は、小路にポツンと佇んでいる。

 大人が横に三人並べば窮屈なくらいの、道幅の小路でポツンだ。

 状況を確認しようとした時、「きゃあ」と、悲鳴が聞こえてきた……。

 俺としては関わりたくないので、声とは反対側に――――、


「きゃぁぁぁぁぁあ」

 ――……向いた方向からもバッチリと耳朶に届いた……。

 小路だし、何か起こっているなら、ここだとどのみち逃げ場がない。

 仕方がないので、出来るだけ身を低くしながら小路を抜ければ――――。


「う~ん。なんてこった……」

 鎧を纏った兵士たちが倒れている。

 同じ鎧を装備しているから、同じ軍勢の人たちだろう。

 倒れている地面には、ついさっき倒されたという事を伝えるように、鮮血が流れている。

 後ろ袈裟が致命傷となったようだ。逃げている時にやられたのかな?

 驚きながらも状況を推測する俺って、意外と肝すわってんのかな?

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