PHASE-572【ちまちま系の攻撃は苦手】

「大した名刀ダ。力も中々」


「それを止める鉄の爪も大したもんだ。力が付与されているな」


「我がしゅの御加護ヨ」


「アンデッドが加護とか!」


「ふン!」


「ぐぅ……」

 映画のゾンビとは違う素早い動きによる蹴撃を腹部へと食らってしまう。

 ブリガンダインからなる火龍の鎧を装備しているのに、腹の内側がズンッと重い衝撃に襲われた。

 鎧とピリア発動時の中で受けるダメージ。

 だが微々たるもの。微々たるダメージに意識を向けるのは悪手。

 眼前に集中。


「シャァァァ」

 続けて鉄の爪が上段から迫る。それを残火で横殴りに叩いて捌く。

 二段構えとばかりの追撃の蹴撃が、再び俺の腹部に伸びてくるが、何とか籠手で払いのけ、


「おら!」

 横殴りからの返し刀の横薙ぎで対応すれば、軽業師を思わせるバックステップで回避し、そのまま建築物の屋根へと飛び乗る。

 やりずれえな。

 ヒット&アウェイのちまちまとした攻撃を得意とするって感じだろうか。

 デスベアラーみたいに膂力に絶対の自信を持っているタイプの方が単純で分かりやすく、戦いやすい。

 俺の攻撃を受け止める体勢や、蹴撃の威力から推測するに、目の前のエルム街の親戚は、デスベアラーよりも格下も格下。

 だというのにやりづらいってのがな。

 本当に相性って有るよな。


「この!」

 屋根にいるエルム街の親戚にFN-57で牽制。

 ゾンビとは思えない華麗な動きで回避すれば、建物の壁を蹴り、更に隣の建物の壁を蹴って、反射しながら俺へと接近。


「ひっぱりハンティングの反射タイプみたいな動きしやがって!」


「お前はさっきから訳が分からないナ」


「分からない事を言ってんだよ!」

 鉄の爪を真っ直ぐに伸ばして、まるで体を一本の矢のように見立てて突っ込んでくる。


「そんなもんはな――イグニース!」

 炎の盾で防げば良し。同時にスリップダメージも与えてやる!


「ぬン!?」

 ぬン!? じゃねえよ。

 ジリジリと焼かれちまえ。

 が、俺の思惑は失敗に終わる。

 空中で体を反転させて靴底でイグニースに触れれば、それを踏み台にして俺へと再び爪を向け、直上から躍りかかってくる。


「おら!」

 迎撃とばかりに跳躍からの斬り上げ。

 ギチンと音を立てて残火を爪で掴むように防ぐエルム街の親戚を防いだ姿勢のままの状態で力任せに振り抜き、壁に向かって吹っ飛ばす。


「おのレ!」

 流石はアンデッドだな。壁にぶつかっても痛みなんかを口から漏らすことはなく、俺への怒りの言が最初に出て来る。

 動きが素早くてやりにくいけども、翁に教えてもらったストレンクスンのおかげで、相手の敏捷さに対応できている。

 地力の倍加による動体視力向上は、本当にありがたい。


 翁様々だ。


「ここで戦いを停止して、話し合いとかはどうだろう?」


「それはなイ」


「ああそうかよ」

 ならば今度はこちらから仕掛けてやろうと切っ先を向け、体勢を整えようとするエルム街の親戚に炎の斬撃を見舞おうとした時だった、


「がっ!?」

 突如として背後に走る衝撃。

 衝撃は全身に一気に駆け巡り、俺の体は俺の意思などお構いなしとばかりに、ゴロゴロと地面を転がり回る。

 スレッジハンマーみたいな大型の金槌で背後を思いっきり殴られた衝撃――――そんな経験はないから例えとして正解かは分からないが。

 くだらない表現を思えるくらいには俺もまだ余裕。

 地面を転がるのが弱まったところで、無理矢理に体を止めて起こそうとすれば、


「!?」

 ヒュンと凶悪な風が通り過ぎる。


「あぶね……」


「あの状態から躱すカ」

 上体を起き上がらせると同時に、エルム街の親戚の鉄の爪による刺突。

 咄嗟に首を傾けていなかったら、今ごろ顔面に五本の鉄の爪が突き刺さっていたところだ。

 ご丁寧に食指と中指の爪は、軌道からして眼窩を狙っていた。

 残火を振って下がらせ、その隙に乗して起こした体を立ち上がらせる。

 衝撃が原因で足がふらつくけども、眼前の驚異に意識を集中させてふらつきを克服した。と、自らに暗示をかける。


「にしても……」

 後方からの強い衝撃は何だったのだろうか。あいつの能力なのか?

 ヴァンパイアのゼノもドッペルゲンガーってピリアを使用したからな。それに類する能力なのだろうか。

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