PHASE-1260【再会は成長とともに】

「「「「オオッ!!!!」」」」

 勝手に始まった大食い勝負だったが、しばらくすると周囲も二人の勝負に興味を持ちはじめる。

 歓声を体に受ければ誰だって気持ちはよくなるもの。

 周囲の視線を受ければ二人の動きは更に加速していく。

 比例して俺の資産も急速に減っていく……。


「俺と試し合いをした時は言い合いをしつつも、抜群の連携を見せていたのにな」


「らしいの。今はお互いの矜持をぶつけ合うように食っとるの」

 豪快さに感心するギムロンは、二人の勢いを肴に酒を楽しむ。


「次もセルサスサルモーを頼む」


「私もです」

 更なる追加に周囲は猛り、給仕係はてんてこ舞いってところだな。

 ギャラリーが出来てテーブルまで運ぶのも大変といったところ。


「どうぞ」


「おう!」

 ここで給仕に救世主が降臨。

 コルレオンが人々の間を上手く掻い潜って運んでくれば、ドッセン・バーグはそれを受け取って直ぐに喰らう。

 コクリコもそれに続くといったところ。

 わずかだけどもコクリコの口に運ぶ動きが鈍くなってきた。


 ――フフフ。


「なんじゃ気持ち悪いの」


「俺の嬉しさから浮かべた笑みを気持ち悪いとか言うなよギムロン」

 まったく。こっちは気分良いってのに。

 コボルトが給仕をするな! と激高していたドッセン・バーグ。

 その発言を受けて項垂れていたコクレオン。

 それが今では修練場で教える側と教わる側であり、給仕による受け渡しから当然のように口に運ぶ光景。


「こういったやり取りを見る事が出来るなら俺の出費も安いもんだな」


「そうかい。じゃあワシもいい酒を頼んでいいかの?」


「ギムロンには新しい愛刀やら公爵家家宝でも世話になっているからな。しこたま飲んでくれ。肝臓を痛めない程度にな」


「ミスリルどころかヒヒイロカネ並の肝臓だから問題ないの。タダ酒となると更に硬度が上がるってもんよ」


「お、そうか。じゃあ気分良くなるまで飲んでくれ」


「気前のいい頭目のいるギルドに入れて幸せよな~」

 タダ酒となると更に上機嫌となるギムロンもセルサスサルモーを口に運ぶ。

 ギムロンのは肴になるような薄切りの生にちかいもの。カルパッチョ的な料理である。


「にしてもよく鮮度を保てるな」


「この魚はミルド領のキャラバンが運んできたもんだ。あの時、護衛をしていた冒険者たちの活躍が大きいのよ」


「へ~。俺達と合流した後は、数の安心感からやる事なさそうだったけどな」


「護衛は楽だったろうが、生ものを輸送する時は別の役割をもった連中もいての。フリージングウィンドウやメインテインなんかの魔法が使用できる冒険者パーティーが重宝されるのよ」


「なるほど。クール便って事だな」


「クール便ってのが何かは分からんが、理解はしてくれたようだの」

 長距離を移動する旅商人の護衛につく冒険者は護衛だけでなく、保存が必要な品物に対し、それを維持させるための能力も必要になるという。

 護衛と保存。この両方がこなせる冒険者となると、雇われる時、片方しか出来ない者よりも多くの報酬を得る事が出来るという。

 どの世界でも多くの特技を持っていた方が、社会に出た時に有利になるわけだ。


「春から夏。気温が高くなってくるとそういった人材が更に必要になるから、旅商人たちからは高い報酬で誘われる」


「当然ながら内のギルドも――」

 って、俺がいま思い浮かんだことなんて先生がやってくれているか。

 他がしている事は先生も既に実行している。


「心配せずとも、そういった力を持った者達も多く加入しております」

 コクリコとの差が開きはじめて余裕が出てきたのか、ドッセン・バーグが俺に伝えてくれる。

 氷結魔法のフリージングウィンドウや、メインテインなどの保存を可能とする中位魔法を使用可能な者達がギルドに加入しているのは有り難いと、ドッセン・バーグから代わってギムロン。

 

 特に水系の派生である氷結魔法を使用できる存在は限られてくるので重宝されるという。

 シャルナやリンのように大魔法をサクサクと使用できる仲間が側にいると大したことないと思えてしまったりもするけど、俺と照らし合わせると習得するのが大変なのは分かる。

 俺が単独で習得した水系魔法は、初歩のウォーターカーテンだけだからな……。

 大魔法であるスプリームフォールを使用できる以上、水系魔法の習得も初歩だけでなく中位くらいまでは覚えないとな。

 もちろん他の系統魔法も取得しないと。

 二刀流の特訓だけでなく、魔法習得にも励まなければ。

 攻撃魔法よりも、補助、回復を習得したいところだ。

 まずはファーストエイドを目指したい。あれは大地系の魔法だったか。


「凄く賑わっていますね」

 俺達の方へと近づいてくる人物。

 俺達と顔見知りってことで人の壁が開かれて道が出来ている。

 そこに立つのは――、


「タチアナじゃないか! 元気してたか」

 ファーストエイドのことを考えていたら、俺に初めてファーストエイドを見せてくれたタチアナが立っていた。


「お久しぶりです会頭」

 栗毛の三つ編みに透き通るような水色の瞳。

 青いローブに身を包み、両手で抱きしめるように手にするのは白樺から出来たスタッフ。

 マール街の神官学校から王都へとやって来て、初期の頃からギルドメンバーとして参加してくれたアコライト。

 一緒に行動した時は美少女後衛って感じだったけど――今は違う。

 冒険者として俺達の知らない場所で活躍し、場数を踏んできたんだろう。整った顔には凜々しさも窺える。

 頼りたいと思わせる強さがある表情だ。

 

 変わったのは表情や佇まいだけでなく――、


黄色級ブィに変わってるね。タチアナなら間違いなく位階を上げていると思っていたよ。おめでとう」


「有り難うございます」

 深々と典雅な一礼で返せば、栗毛の三つ編みも連動して大きく揺れる。

 場数をこなしたことで手に入れた新しい色の認識票に見合ったように、新たな回復魔法であるキュアも習得したという。

 風と水の属性を使用しての回復魔法であるキュアは、同様の属性からなるヒールの下位に位置する中位魔法。

 ファーストエイドとヒールの中間に位置し、深手であっても直ぐさま回復してしまう頼りになる回復魔法とのこと。

 またプロテクションも上達したそうで、俺達と一緒に行動していた時は一面にだけしか展開できなかったが、今は同時に三面へと展開することが出来るようになったそうだ。

 

 深手を負っても直ぐに回復できるなら前衛は安心して前へと足を踏み出せるし、危機的な状況であっても障壁魔法が守ってくれる。

 こういった存在がいるだけで士気は高くなる。

 回復と補助担当の後衛として、更に頼りになる存在となってくれたようだ。


「それでライとクオンは?」

 三人によるパーティーの活躍は酒蔵でも耳にしている。

 だからここで再会もあると思ったんだけども、


「二人は現在トールハンマーにいます」


「そうなんだ」

 正確には穀倉地帯構想の為に作業を進める中で、野生のモンスターから参加してくれている作業員たちを護衛するために活動しているという。

 長期の護衛クエストの合間にある休暇を利用してトールハンマーまで移動し、高順氏から指導を受けているとのことだった。

 タチアナ同様に二人も昇級しているそうで、黒色級ドゥブから白色級バーンへと認識票の色を変えたそうだ。

 

 でもタチアナとの差が埋まらなかったことから、不甲斐ないという思いが強く、能力向上の為に幼馴染みコンビだけで活動しているそうだ。

 日々がんばってくれているのは喜ばしいことだが、無理だけはしてほしくないね。


「出来れば三人の姿を一緒に見たかった」


「次に会う時は俺達が更に強くなっているから期待していてくれ。と言っていましたので、会頭も再会の時は成長した二人に喜んでください」


「三人とも新人のころから他より図抜けているのは、今回の修練場での新人さん達と比べると分かったからな~」

 周囲の面々に聞こえない程度に小声でタチアナに伝えると、照れくさそうに笑みを向けてくれる。

 新人の頃からトロールを倒してしまうメンバーだったからな。それに比べて修練場で俺が相手にした三人組はまだまだだったからね。

 味方にゴブリンがいるから例えるのも悪い気がするけど、少数のゴブリン討伐が関の山だよな。

 トロール相手となると間違いなく瞬殺されている。

 やっぱりタチアナ、ライ、クオンの三人の実力は別格。

 まあ、今はまだまだであっても、このギルドハウスで騒いでいる新人さん達も、先生のユニークスキルである【王佐の才】が発動している中で修練に励めば、短期間で立派に成長してくれることだろう。

 

 俺の二刀流やコクリコのサーバントストーンの操作向上にも間違いなく先生のバフがかかっていると思う。

 十日ちょっとで二刀の扱いが様になってくるってのは早すぎるもの。

 利用できるならもっと利用させてもらわないとな。実力向上の為に。

 

「会頭――?」


「悪い。考え事をしてたよ」


「表情からして強い決意を感じましたよ」


「俺は顔に出やすいからね~。本当は三人と再会してから食事でもと思ったけど、今回はタチアナとの再会を祝して食事を奢らせてくれ。好きなものを頼んでよ」


「いいんでしょうか」

 申し訳なさそうにしてくるところがコクリコとの違いだよね。


「遠慮は無用ですよタチアナ。ケチの頭にドがつくほどのトールが奢るなんて珍しいのですから」

 ――……本当にコクリコとは違うよね……。


「俺は別にドケチではない。金の使い方をコクリコよりは理解しているってだけだ。ここぞという時には使用するって男なの。さっきも言ったがコクリコは自腹だからな」


「そういうところがケチなんですよ!」


「ううん。金の使い方を知っているだけ。なあドッセン・バーグ」


「んぐ――まったくです。流石は会頭」

 口にしたものを嚥下してから続いてくれる。

 食事のマナーはちゃんとしているようである。


唯々諾々いいだくだくここに極まりですね。情けない。こんな男がこの私と食事で勝負を行っているとは片腹痛いですね」

 コクリコの嘲笑と嫌味。


「会頭の発言は正しいのだ。従うのは誉れである。そして自分が大食いで負けそうになっているからといって、それを逃げの理由にするべきじゃないな」

 堂々と言い切るドッセン・バーグのイエスマン的発言。

 やはり俺に対する尊敬は歪んでいるかもしれん……。

 この部分は改めてほしいところだな。


「何でもかんでも肯定せずに、俺が間違っていると思ったら正してくれ」


「分かりました!」

 偏った思想はゴメンだからな。

 皆が皆、同じ方向に顔を向けないでほしいところである。イエスマンだけを侍らせるヤツは間違いなく衰退していくってのは歴史が物語っている。

 俺はその歴史から学ばせてもらいますよ。

 

 ――。

 

「もう……無理です……」


「うん。コクリコの負け」

 食い意地が他よりも突出しているコクリコであっても、ドッセン・バーグには勝てなかったようだ。

 テーブルに前のめりに倒れ込むあたり、どれだけ無理して食ってたんだか……。

 吐くまで食べるというバカ食いじゃなかったからよかったよ。食べ物が潤沢になってきたからとはいえ、吐くのは許さないからな。

 食への冒涜には生産者に代わって俺がお仕置きをせねばならん。

 

 決着がつけばギャラリーからは歓声が上がり、ドッセン・バーグを称える。

 普段、修練場では怖い存在であるだろう人物に対して、新人さん達が褒め称える。

 強面も称賛を受けて照れくさそうにしていた。

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