PHASE-1293【腕を組むのはちょっと……】

 ――……で……、好感度が下がっている組と、苦笑い組とは違い、


「よろしくしてほしいのなら、それ相応のもてなしをしなよ。無礼に対する謝罪の気持ちも込めてね!」

 強気に発するミルモン。

 二組と比べると、親方様を完全に敵視しているようだった。

 ちっこいけど好戦的でもあるミルモン。怒りの理由が契約者である俺に対する無礼からきているのは嬉しいけども、自重も覚えてほしいところだな。

 これは追々、俺が教育をしていかないとね。

 

 謝罪を求めるのはミルモンだけではなく、俺達と同行したゲノーモス達からも上がる。

 空飛ぶミルモンに敬慕の念も抱いているようなので、「しゃざい~」や「あやまれ~」と、可愛らしい声を親方様に向けて発していた。


「これはこれは、大層に嫌われたものだな。冷え切った関係は今から挽回させてもらおう」

 小人たちに対して深く頭を下げる親方様が体を起こし――、


「誰かあ~る」

 戦国時代を題材にした時の大河ドラマみたいな発言ですな。

 対して、


「ずっといますが」

 と、俺達にクッションを用意した後、謁見の間の端にて待機していた近衛のドワーフさん達の中から一人が発する。

 その一言は何とも冷ややかな言い様だった。 

 ダダイル氏と同様に、主の行ったウエルカムタックルが許せなかった模様。


「言ってみたかったのよ」

 ポツリと親方様が零す。

 この人、誰かの影響でかぶれた感じなのかな?

 かぶれたというか、こじらせたな……。

 

 ――謁見の間からもてなしのために大広間へと場所を移動。

 この移動の間、ダダイル氏に親方様のこじらせかたは最近のものなのかと問えば、渋面になって頷きで返してくれた。

 そして原因は俺たち側にあるということだった。

 正確には高順氏。

 トールハンマーでの寡兵による魔王軍撃退の話は、王都の王侯貴族だけでなく、ここにも轟いているようで、高順氏の武人としての振る舞いに触発された結果、自らも武人の頭領というポジションで振る舞いたいという思考になったそうだ。

 

 ――染まり方は間違っているけどね。

 古代中国史じゃなく、日本の戦国時代のほうに染まっているからな。

 などと思いつつ、親方様の背中を眺めながら通路を歩いてすぐに大広間へと到着。

 ――広さは三十畳ほどあり、床の全てを絨毯が占める。

 ふかふかの絨毯は毛足が長く、踝を余裕で隠すほど。

 定位置となった俺の体からゲノーモス達が飛び降りれば、絨毯で胸元まで体が隠れてしまう。

 大広間は和テイストとは違ったものなのだが――。

 首を横に向ければ、開かれた戸の先は外。

 そして外の風景は――、


「立派な庭園ですね」


「そうであろう。流石は勇者であり公爵殿。この庭園の良さが分かるとはな」

 白い玉砂利が地面を覆い隠し、大きな石による風景が眼界を占領する。

 こういった庭は石庭っていうんだよな。庭木なんかを使わないやつだ。

 京都の有名なお寺なんかでこんな光景を目にしたことがある。

 テレビの中の光景だったけど。


「立派だな」

 客人に見てもらうためにもという意味合いがあるのか、石庭は魔法の輝きによって全体が照らされており、目抜き通り同様に明るい。

 本当、地下都市にいることを忘れてしまいそうだよ。


「立派かな? 味気ないの間違いじゃないの?」

 まだ機嫌が直っていないミルモンが嫌みったらしく言う。


「こういうのは味気ないじゃなくて、わびさびって言うんだよ」


「その通り! この良さをその若さで理解しているとは! 勇者――いや、トールとワシは立場という垣根をぶち壊し、友という関係となろうではないか!」


「ど、どうも……。光栄です」


「ガハハッ!」

 漫画チックな笑い方をリアルでしてくる親方様。

 嬉しいのはいいが、背中をバシバシと叩いてくるスキンシップは止めてただきたいね。

 正直なところ、わびさびがどういったものなのか俺のような若造には理解できない世界なんだけどな。


「この庭はワシが手入れをしているのよ」

 だからここまで上機嫌な訳ね。


「あの四阿あずまやが特に良いと思わんか? 無骨な大石を積み重ねた単純な造りだが、単純だからこそのよさがあるだろう」

 同サイズの四つの大石を柱とし、平たい一枚岩を屋根代わりに設置。

 屋根の下には腰掛け用に設置した石が並べてある。

 座り心地をよくするためか、座面部分はよく研磨されていて、座る時にフィットするように窪んだデザインとなっているのが遠目からでも分かる。

 後はこれに見合った石のテーブルがあれば、自分の思い描く四阿が完成するのだがな。ということだった。

 

 出来るだけ自然の岩や大石をそのまま利用したいということで、ぴったりの物を見つけることに苦労しているそうだ。


「トールよ。先ほどの無礼と我らが友情を育むために、自慢の四阿で飲み食いでもどうだ?」


「それは良い案ですね」


「そうであろう。ウィザードの者よ」


「ロードウィザードです」


「それはすまなかった。上級魔術師よ」


「ふふん」

 上級魔術師って発言に上機嫌なコクリコ。シャルナの上のエルフと同等の呼び名だと思っているご様子。

 親方様に対する先ほどまでの不愉快さは今の呼称で吹き飛んだようだ。こういう時、単純なのは強い。


「上級魔術師であるロードウィザード殿も提案に乗ってくれたからな。我が友トールも、もちろん乗ってくれるだろう?」


「あ、はい……」

 提案に乗っかるので、丸太のような腕で俺の腕にがっちりと組み付かないでいただきたい……。

 腕を組んでの移動は女性がいいです。

 ごっつい腕によるものは嫌だ……。

 しかも身長差があるから、俺は体を横に曲げないといけないし……。

 心身共にキツい……。

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