PHASE-585【やはり年下に小馬鹿にされるとね……】

「いつもの実力を出してもらうって事は、戦う気なのだな」


「まあ最悪の結果になった場合だよ。ベル」

 事ここに至れば、最悪の結果しか待っていないような気もするが……。

 階段へと先頭で足を進める。

 気持ちが足にリンクしているのか、進めようとする足が随分と重い……。


「トール、足元だ」

 ベルの声は急を知らせるもの。

 言われて見れば――、


「ほわぉ!?」


「アハハハハハ」

 頭と手だけが床から出ているオムニガルがそこにはいた。

 階段を下りようとする俺の足を掴んでいる。

 足が重い原因はコイツか。下手したら転げ落ちるところだった。


「この!」

 声に怒りを感じるコクリコの蹴撃。

 ――だったが、足は虚しくオムニガルの頭を通り抜ける。

 この瞬間、俺の足からも引っ張る力がなくなった。

 ゴースト系だから触れる事は出来ないと思っていたが、本人が触れようと思えば生者に触れる事は可能なようだな。

 でもデメリットとして、物理攻撃を受ける可能性も出て来るわけだ。

 コクリコの攻撃を回避するために霊体に戻ったのがその証拠。だから俺にも触れられなくなったと考えるべきだな。

 完全物理耐性とプレイギアには表記されていたけど、霊体の時のみに適用されるのかもな。

 

「いいキックだねお姉ちゃん。魔道師やめて武闘家にでもなれば」


「うるさい子供です!」


「落ち着け。とりあえず俺はコクリコのおかげで助かった」

 素直にお礼を言って、コクリコの意識を俺に持ってこさせることで、少しでも冷静さを取り戻させようと試みれば、


「気がつかなかったのですか」

 と、話題を俺へと変えてくれた。


「ああ、気配がなかった」

 ゴースト系ってのが理由だと思う。

 しかも床から出てきているからな。

 ベルは俺と違って感知してたのは流石だな。声をかけてもらえなかったら、間違いなく蒲田行進曲のワンシーンだったぜ。


「ここから本当に帰らないの?」

 床から移動したのか、ひょっこりと壁から頭だけを出すオムニガルが問いかけてくる。

 攻撃のためにワンドを振り上げ、貴石を黄色に輝かせるコクリコを制しながら、


「俺たちとしては話し合いをしたいんだけどね。そちらが一方的に攻撃をしかけてくるもんだから」


「いや~勇者ってどの程度なのか知りたくて」


「どうだった?」


「まあまあかな。凄いのが二人と普通が二人。で、大したことないのが一人」

 一番最後が俺でありませんように。


「この!」

 と、制していたコクリコが無理矢理にライトニングスネーク。

 俺の真横を電撃の蛇が飛んでいく。

 とんでもなく危ないんですけど……。

 虚しく壁に当たるだけで終わってしまう。


「酷いな~。さっきもだったけど、私は名前を口に出していないのに。でも怒るって事は、おチビ発言と同じで自覚してるって事だよね」


「この!」


「落ち着け」

 クスクスと小馬鹿にする少女に、がちギレするちょっと年上の少女。


「来るんだったら下で待っててあげるよ」

 言って手を振り去っていくオムニガル。

 こっちはフッーフッー言ってるのを止めるのに苦労しているってのに、お気楽に去って行きやがって。

 狙ってやっているとしたら大した戦術家だよ。こっちのパーティーの一人が完全に興奮状態になっているからな。


 ――――。


「ちょっとは落ち着いたか」


「ええ」

 ベルに諫められているけども、明らかに落ち着いてはいない。

 内包に怒気が溜まっているのが分かる。

 間違いなく次にオムニガルに挑発を受けたら、躍りかかっていく勢いだ。

 ここに残したいところだが、絶対に聞かないだろうな。


「連れて行っていいもんですかね」

 ここは状況判断能力の匠であるゲッコーさんに小声で質問。


「問題ないだろう」

 との事だった。

 苛立ちを覚えているということは、自分でも現在の実力を少なからず自覚している証拠。

 それを良い結果に変えるか、悪い結果にするかは結局は本人次第。

 成長を促すためにも場数は必要。俺たちが出来る事は見守ってやるだけ。

 だ、そうだ。

 

 良き方向へ導くってのじゃないのがゲッコーさんらしい。

 自分で選択してたどり着かせるスパルタスタイルは、俺だけに行使するわけではないようだ。

 で、誤った方に進んだら、有無も言わずに修正するって事だね。

 俺も闇堕ちルートに進んだら、即、修正なんだというのを再確認。

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