PHASE-584【いい装備でも敵じゃない】
「でも如何にいい装備であっても」
「我々には意味がない」
そういう事だ。
ベルは炎を使用しなくても斬鉄が出来る。
でもって、俺は残火でそれが容易く出来る。
ああやって介者剣術の構えをしたところで意味がない。
すり足により、俺との間合いを詰めてくれば、最小限の動きだけで突きを行ってくる。
ボクシングで言うところのジャブみたいなもの。
素早い突きと剣の戻りに隙が少なく、仕掛けづらいんだけども――、
「よいしょ!」
一足で接近。剣ごと鎧もぶった切るってのが今の俺には可能だからね。
深く腰を落とした姿勢が失態だったな。素早い挙動を自ら封じてんだから。
白銀の鎧が袈裟斬りによってガシャリと崩れ落ちる。
俺の一振りに対して迎撃の速い突きは見舞ってきたけども、驚異ではない。
駆け出し冒険者には驚異だろうという程度の突きでしかなかった。
力だってストレイマーターほどではないし。
ゲッコーさんのSG552を断ち切ったのは見事だけども、見所はそこだけだった。
当の本人は、すでに新しいSG552を持っている。
「なるほどね」
確かにこれだと関節は通用しないか。
斬ったが中身はない。鎧の中身は空っぽだった。
「シャルナさん」
異世界に存在する魔法やモンスターならこのエルフに聞けば大抵解決。
「これはリビングアーマーだね」
「やっぱりね」
ゾンビなんかに比べればメジャーってほどじゃないけど、ゲームなんかにはアンデッド枠で必ずと言っていいほど出て来るモンスターだ。
術者の力で動くとされる存在だったり、魂だけを封じて動かすのが通例。
――シャルナの説明を聞き終わる。今回は後者の方が正解のようだ。
剣士の魂を封じた鎧。
合点もいく。中見がないくせにしっかりとした介者剣術の構えをしたからな。剣術の心得がないと出来ない事だ。
「このリビングアーマーは大したことなかったけど、脅威となり得るくらいの英霊クラスの魂とかを宿らせたりも出来るんだろうな」
「使役できるだけの実力が術者にあればね」
無いことを祈りたいだけだ。
崩れた鎧に一応の警戒をしている中で、
「次から次へと戦うよね。完全に向こうはやる気だよ」
って発言が耳朶に届く。
胃が痛くなるような事を言わないでいただきたいねシャルナさん……。
結局、鎧をぶった切っての解決だし……。
なんで向こうさんは戦う気なんだよ。
まあ今回は先手必勝って考えた俺たちサイドに問題があるんだろうけど。
常に襲いかかられているからね。そんな考えにもなりますよ。と、責任転嫁。
「先に進もうか」
俺が指さす方向は鎧が鎮座していた場所。
鎧が動き出した時から気になっていた。
そこに有るのは、下へと続く階段。
――……どんだけ地下に拠点つくってんだよ!
むしろこの城じゃなくてもいいじゃん!
って、言って場を明るくしようとしてみる。
理由は、ここに来て口数が少なくなっているコクリコが心配だったから。
中々に落ち込んでいるようだ。
――……さて……と……。
階段の前に立つ俺たち……。
これはきますね~。
下へと続く階段からは、バリバリに全身を総毛立たせる寒気が溢れている。ジオフロントから下りてきた螺旋階段の比じゃない。
シャルナが足を進めるのを躊躇するほどだ。
明らかにこの下が本番。ど本命が待っている。
「これは想像以上の存在のようだな」
ゲッコーさんの声も緊張が混じっている。
「この下にアルトラリッチってのがいるわけですね」
ようやくここでコクリコが口を開く。
声は上擦っていて、下から伝わってくる寒気に気を呑まれているようだ。
「ここで待つか」
「じょ、冗談じゃありませんよ!」
「強がるのもいいが、それが蛮勇に変わらないようにな」
「分かっています!」
ベルの心配に、やや反抗的に返答するコクリコ。
自分でも思うところがあるんだろうな。
「力抜いていけよ。しゃっちょこばるといつもの実力が出せないからな」
「了解です」
俺はコクリコの気持ちが分からんでもないからな。
同じ目線の高さにいる存在が言った方が、こういう時って素直に耳を傾けるんだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます