PHASE-43【レベルアップ……?】

 ――――で、俺が恥ずかしがりながらも打ち込んでいる横で、ゲッコーさんがベルに説明をしている。


「なるほど、実戦剣術の鍛錬か。確かに、戦場で同じ敵と再び出会う事は少ない。一度だけの対峙なら、動きを見抜かれることはそうはない。単純な動きであれ、それを一撃必殺へと昇華させ、渾身の一撃にて敵を屠る剣術と見受けられる。基礎こそ奥義だな」

 理解してくれて助かるよ。

 その説明で、近くでそれを聞いていた兵士たちも、なるほどと首肯している。強者の発言には説得力があるようだ。

 ただ、戦場で同じ相手と出会うことが少ないとか言ってますが、ゲーム内の貴女の設定は、幾度となく主人公たちの前に現れて、猛威を振るうという設定なんだよ。と、ツッコミを入れたい。


「てっきり、過剰な重圧で、いよいよおかしくなったのかと思った」

 だから、そういう発言を異性に言われると傷つく年頃だから。俺……。

 木刀を投げ捨てて、今すぐこの鍛錬をやめて逃げ出したくなるから。


「ふう、どうせ見てるのなら、皆もやってみないか? 力任せに来るオークともいい勝負が出来るように、渾身の一撃に全てをかけてみようぜ。どうせどん詰まった世界だ。逃げる場所も少ないなら、前に出てみるのもいいぞ」

 と、それっぽい事を言えば、


「いい事を言うじゃないか」

 と、頑張る人間に対しては面倒見がよくなる中佐殿が、優しい声音と笑みを向けてくれる。

 本音としては、俺一人でやってるのが恥ずかしいって事なんだけども。

 ここの兵士たちはすぐに逃げ腰になるのも悪いところだ。勝ちを経験させることで自信をつけさせることも、先生は大事みたいなことを考えてたし、猿叫で気合いをいれるのもいいかもしれない。

 なんだろうか。ずぶの素人が、指導者的な考え方になっている。

 

 先遣隊が攻めてきてから三日が経過した。

 王都西門、普段、人気がない場所に多くの立木が用意され、気が違った叫び声が輪唱している光景。


「猿山だな……」

 昨日より見学しているベルの視線が痛いけども、本日も大人数なので恥ずかしさも散るってもんだ。

 しかも昨日よりも参加者が多い。勇者が使う剣術ということで、我も我もと増えていった。

 俺とは違い、兵士は恥ずかしがることなく、猿叫にて木刀や木剣を振り下ろしていた。

 腹から出ていいる、いい猿叫だ。逆に見習わないとな――――。


「痛い……」

 まめが潰れて、木刀を持つのが辛い……。

 今までのサボりが顕著に現れている。

 しかし、剣と魔法の世界なんて話だったけども、回復魔法とか使える人はこの中にいないのか? 俺に回復魔法を唱えてくれる、可愛い魔女っ子を先生に頼んで見出してもらわないと。

 ――――立木に日頃の不安やらストレスでも打ち込んでいるのか、兵士たちの顔が生き生きしている。

 暗かったのに、笑顔の方がいまは多い。

 これはよかったと思っていたら、テッテレー♪ って音が、俺の腰から流れてくる。

 セラからのメールかとも思ったけども、こんな音ではなかった。普段はピコーンだのピローンだからな。

 プレイギアを取り出す。

 ――――……なんだよ。このトールはレベル2になったって? この世界って現実だろ? MMOとかじゃないだろう。なんでレベル制度があるんだよ。

 ゲームじゃないぞ! 現実だぞ! 実際に命がなくなるんだぞ!

 これはなんぞやと、若干イラッとしながら、セラに連絡のメールを送ることにした――。


{なんだよ、このレベルってのは?}


{レベルはレベルでしょ}

 返信早いな……。もしかして暇なのか?

 送った瞬間にピローン♪ って鳴るとか……。


{ゲームじゃないぞ! 現実だぞ!}


{でもレベル表記にして上げた方が、今後の指標として分かりやすくなるでしょ}


{そうだけども、何だよ、このレベル2って? 低すぎだろ}

 ここに来て早々にレッドゾーンに突入だったと思うぞ。修羅場を経験してるはず。


{は? その世界で倒したのって、ゴブリン一体だけでしょ? それでレベル高望みとかwww}

 wwwの表記やめろ! 腹立つ!


{ゴブリン一体と特訓でレベルが一つ上がれば十分でしょ}

 なに? こいつ俺の行動を見てたりしてるのか?

 まあいいや、レベル表記があるなら期待するのが、


{スキルとかも覚えられるのか? 人の能力を見て覚えるとか?}


{自分で書き込んでるじゃない、現実って。つまりはスキル覚えたいなら地道に師事を受けることね。ゲームでスキルポイントを溜めることが、現実の師事みたいなものなんだし。そもそも君は経験が浅いんだから、何にも覚えてなくて当然。魔法を使いたいなら、それを得意とする人に師事やヒントをもらいなさい}

 長々と夢のない事を書き込みやがる。分かってたけどもさ。


{めんどくさいな……}


{君が死んだ時に、スキルやら能力カンストを選べばよかったのよ}

 うぬ……。


{返事がない、ぐうの音も出ないようだ}

 むかつく!


{地道に強くなって、自分以上の人がいたら素直に認めて、学ぶ事ね。余計なプライドは持たない事よ}


{俺にそんなもんはない}


{それは何より。魔女っ子とも出会えるかもだよ}

 こいつ、俺の心を遠隔から覗いているのか? 単純に俺という男が、魔女っ子を求めていると思っているのだろうか。

 前者でも後者でも嫌だな……。

 だが魔女っ子は期待したい。

 現実でもこの世界はファンタジーだからな。俺もいずれはベルみたいに、炎とか出せるようになりたい――――。

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