PHASE-42【流祖は東郷重位先生です】
「ま、王側には強くは発言させませんよ」
何か策でもあるようだ。自信たっぷりに口角を上げてるからね。悪い顔だけど……。
「私がここに呼ばれた以上、主の負担は私が支えますよ」
おっと、悪い顔から、なんて男前な笑顔で格好いいことを言うのか。
俺が女なら、今の笑顔と発言でコロイチだよ。
先生が俺の代わりに、俺の出来ないことを全てこなしてくれている間に、少しでも強くなろうと、昨晩ベッドの中で考えていたことを実行する。
兵士の方に手伝ってもらって、人間サイズの廃材を用意してもらった。
立木として使用するために、地面に木槌を使って突き刺す。
修練場で使用している木刀も貸してもらう。
「俺が得意なのは上段の構えなんだけども」
なんて独白しつつ、上段ではなく八相の構えをとってみる。
姿見の鏡があればいいんだけども、
「蜻蛉の構えってこれでいいのだろうか?」
正直、八相と蜻蛉の構えの違いが分からない俺がやっていい流派なのか分からないけども、とりあえず形から入ってみる。
「示現流か」
伝説の兵士は、
とりあえずは、構えだけで示現流だと分かってもらえただけ、少しは様になっているってことだろう。
現在は、弱った女性の心をケアするセラピストを担当してくれている。休憩中なのか、煙草を楽しんでる。
楽しみついでの見学かな? 見られると恥ずかしいけども。
だが、本当に恥ずかしいのはこれからだ……。
大きく吸気を行ってから、
「キエェェ……」
くそ! 凄く恥ずかしい。
勇者が何かするって事で、準備してくれた兵士だけでなく、その他の兵士や子供たちも集まってきた。
昨日の素振りに続いて、注目の的である。
それもあって、発する気合いも尻つぼみになってしまった……。
「そんな
ニヤニヤと笑いますけどねゲッコーさん。出来れば視線を感じないところでやりたいんですよ。
――とは言えないんだよな。命がかかってる戦場で、恥ずかしいなんて言ってはいられないからな。
躊躇してたら俺だけでなく、周りに迷惑がかかる。
もう一度と、やおら瞳を閉じて、深呼吸にて精神統一からの、
「キェェェェェェェェェェェェ!!」
発しつつ立木の左右にガンガンと木刀を打ち込んでいく。
叫び声が続くまで、ひたすらに打ち込んでいく。
木刀から伝わってくる衝撃が、鈍った俺の手に痛みとして伝わってくる。
痛みで今にも木刀を落としそうになる。こんなもんを朝に三千、夕に八千なんて実際にやっていたのかと疑いたくなるぞ、薩摩隼人たちよ。
だが今の俺には、元々、培っていた剣道だけでなく、実戦剣術に定評がある示現流が必要。
農民を即戦力に変えることが出来る剣術ともいわれている。故に実戦剣術最強ともいわれる。
俺の場合は、示現流を覚えるというよりも、実戦に適しているとされるからこそ、俺に足りない、戦う覚悟を刻み込む事が出来るだろうと考えて、一心不乱にやっている。
――――上から渾身の力で振り下ろす。この繰り返しをひたすらやっていれば、素人でも一撃必殺の使い手にはなるよ。
一の太刀に全身全霊ってだけあって、防御ってのは考えてないな……。
でも達人が使えば、先の先をとるって感じの高速の剣術になるんだろう。
高速の斬撃を躱すのは難しく、防いでも重い。
一説には、防いだ人物は、自分の手にしていた刀の峰や鍔がめり込んで絶命したという記述を本で読んだことがある。
覚悟も欲するが、神速の振り下ろしを今までの経験も活かしながら、自分のスキルとして得ていきたいね。
技名は【雲耀の極】だ。
こんな時でも中二臭いことを考えられる俺は、存外、肝っ玉が大きいかもしれない。
――汗だくになりながら猿叫を発し、ひたすらに打ち込む。
ちらりとゲッコーさんを瞥見すれば、俺が本気だと理解してくれているので、真剣な目に変わっていた。
周りの兵士も、最初はとち狂ったかと思っていたようだが、ゲッコーさん同様に、真剣な目になり、無手の状態で真似ている人もいる。
次第に恥ずかしさも薄れてきたから、更に大きな声で発すれば――――、
「なんだ? 気でも違ったか?」
ここで女子の登場はよくないよ……。
異性に見られたくない状況だよ。まだこの猿叫に対してのメンタルが出来上がっていないところで、美人が心を抉るような発言をしてはいけないと思うの……。
赤面になってしまう。打ち込みで体が熱くなってるからではなく、恥ずかしさから顔は真っ赤だよ。
真剣に見ていたゲッコーさんだったが、ベルの登場と発言で、俺があっぷあっぷしているからか、大笑いしている。
笑っても、渋くて良い声だな……。
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