PHASE-41【青写真】

「王都外から人々が集まり、農耕を行い。反抗勢力である組織作りが始まれば、いよいよ攻勢に出る時ですな」


「えっと、簡単に受け入れるんですか?」


「ええ。もちろんです」


「人々が外から来るって事は、スパイ――間者も更に入り込んでくる可能性が」


「構いませんよ。そんなものは些末なことです。知られても困らない情報しか出しません」

 格好いいな。自信に満ちあふれている。賢い人だからこそ説得力がある発言だね。

 俺だったらそんなに堂々と出来ないよ。王都を訪れた人々を怪しんで、挙動不審になるだろうな。


「でも食料は?」

 ここは現状、備蓄していた兵糧でまかなっている。人が増えれば、まかなえるのかが問題だ。


「ここの気候は調べました。主食となる麦ですが、開花に、実りの時期までは雨が少ないそうです。湿度も低く、からりとした土地なので、麦はよく育つでしょう。田も作り、米の生産にも着手したいですね」

 米が食えるのは嬉しいけども、その間にも敵が定期的に攻めてきたらどうするんだろうか?


「だからこそのぎるどです」

 俺の表情から理解する先生の優秀さよ。相変わらず横文字に対してはぎこちない言い方だけども。

 ギルドを作り、王都を守護できるくらいの戦力ならば、短期間で編制して見せますと、自信満々に先生が答えてくれる。

 ――――荀彧。字を文若。俺の中での先生。

 またの名を人事、適材適所の神。

 この人の史実での活躍は、多くの優秀な名士、人材を贔屓せずに採用して、国力強化に努めたことだ。

 この人がいなかったら、曹操はあそこまで領土を得ることが出来なかったとまで、後世では言われたりもしている。

 三国志において、軍師、政治家としてナンバーワンは諸葛亮ってのが主流。

 演義の諸葛亮は確かにチートだけど、正史だけで考えるなら、実績の数と、領土拡大を支えた才能からして、先生が三国志随一の才人だと思うね。


「ですが、ギルドが出来るまでに敵が攻めてくる可能性が大きいですよね」


「当然でしょうね」


「となると――――」


「ええ、主と無双のお二人にお任せします」

 万の規模で来るであろう敵に対して、三人で挑む世界なんてあるのだろうか……。

 レオニダス1世でも、【そりゃ無理だ】って言いそうだな。

 最悪、追い込まれたなら俺の召喚に頼るけども。忠誠心のパラメーターが存在する以上、選定は大変ですよ。

 ベルはゼロだけど、戦ってくれるのは、軍人としてしっかりとした人物だからなんだよな。

 人じゃなくてもいいわけだし、本当にまずい時は、兵器の投入も考えないとな。

 現状、少ないけど、この面子で上手くいってるからな~。ベルと仲直りできたし。

 多けりゃいいって訳でもないだろう。魔王軍にこっちの手の内をばかばか見せるのもよくない。

 当面はこのメンバーでやっていきたい。

 RPGでも、ゾロゾロとパーティーを引き連れるってのは普通は無いからな。

 パーティーメンバーに問題はない。あるとしたら、俺が足枷ポジションってことだな……。

 足枷を脱却するためにも、訓練していかないと!

 剣術の技量を向上させるのは当たり前だけども、それ以上にメンタルだ。戦う覚悟に、命を殺めてしまう覚悟も持たないとな……。自分の周囲の人達を守るためにも。守られてばかりじゃ勇者じゃないからな。

 生き残る為には、体術や他の能力も高めないといけないが、ここは異世界でも現実。ゲームとは違うから、一朝一夕でサクサクとパラメーターが上がるってもんじゃない。

 たゆまない努力をしないといけない世界だ。

 まずは得意でもある剣術にだけ傾倒しよう。

 師事も受けないと!


「有能な人材が欲しいですね。先生」


「はい。ぎるどとして現状、欲するのは侠」


「侠ですか?」

 信義に厚く、その時代の法に逆らっても、力の無い人々を無償で助けたりするってやつだな。


「確かに報酬が現状はないですからね。侠気の人物を得たいですね」


「その通りです。まあ、報酬は今回回収した敵の装備をやりましょう。炉が可動すれば、こちらも鉄を欲するので、その時それを買い取る。まずはその条件で参加してもらいます」

 他にも討伐や拠点攻略の報酬は、その場で得た敵の装備品を総取りさせる。

 余裕が出てきたら、ギルド全体に利益を還元させるように移行する。

 力が劣る者でも、報酬を最低限得られるようにすれば、参加者も増える。

 先生は人を増やして、その中から優秀な人間を引き上げるということを考えている。

 もちろん最初は総取りさせるって事だから、俺たちには利益は無い。利より徳と名声を得ることが俺には大事らしい。

 徳の元に人を集めるとか、劉備みたいだな。

 先生。劉備は敵ですよ。と、言うのはやめておこう。

 後はギルドが大きくなれば、王側が国を奪われるという不安を抱くかもしれないが、心配ないと払拭させるためにも、先生が橋渡し役となって、ギルドメンバーと王兵との調和も考えているようだ。

 なぜか悪い顔になっているのが気になるが……。

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