PHASE-77【対魔法使い戦】

「逃げたぞ。爆発で隙を作って逃げるとは、場数を踏んでるな」


「感心するところですか? 物取りの場数って」


「何事も才能だ」

 伝説の兵士にそこまで褒めてもらえるなら、盗人も誇れるよ。


「その前にお仕置きしないとな」

 まったく! さっきの爆発でリビングのテレビが壊れたじゃないか! 別に俺のじゃないからいいけど。

 言えば、すでに二人はいない。

 玄関で音がする。

 早いよ……。

 ――外に出てみれば、二人で挟撃の状態。

 早いよ……。


「大人しくするんだ」

 渋い声が優しく言えば、


「拒否します」

 やはり女の子だ。

 なんとも勝ち気に発すれば、再び青い宝石が赤く輝く。


「また火の玉か」

 今度はちゃんと見てみたいね。


「さあ、これを恐れるなら、去りなさい野盗ども!」

 可愛らしい声。身長は140㎝くらいだな。小柄である。

 だが――、ちょっとまて。なんだよ野盗どもって?

 どちらかと言うと、不法侵入しているお前が野盗だろ。


「どうしたのです! これが怖くないんですか!」

 大音声だな。怖いと言えば怖いが、今更、火の玉で驚くほど、俺はやわなものは見てないよ。

 俺の横にいる美人は、そんなのがしょっぱくなるくらいの力を持ってるし。


「ぬう、三人いるからといって、強気なのはよくないですよ。いいでしょう! 後悔するがいい!! 我が偉大なる魔導の力によって」

 なんかノリノリだな。

 ポージングとかさ、不思議な力を手に入れて、それに酔っているようだ。

 完全に勘違いしている中二病を煩っているようにしか見えん……。

【邪気眼】やら、【静まれ右手!】ってか。


「は!」


「ほう!?」

 まあ目の前の相手は、不思議な力が本当に使えるんだけども……。


「なんたる情けない声での回避。この野盗はたかがしれている」

 カチーン! カティーンときたよ!!

 これは折檻の必要があるな。


「まったくだ」

 ――……なぜそこでベルは、相手に賛同するのだろう……。

 まあいいさ。相手の魔法は脅威だけども、なんとかなる。

 これが広範囲のものだったら躱すのも難しいだろうが、速度はおおよそで百キロほどだ。

 バッティングセンターで、そのくらいの球は打つことが出来る。ということは、回避も可能だ。

 しかも都合よく手には金属バット。

 最悪これで打ってやる。爆発のおそれもあるが、直撃よりはましだろう。

 ――――うむ、直撃はましとか考えるようになっている俺って、この世界に馴染んできたのかな。

 よし――、


「ここは俺が」


「ほう」


「たかがしれているって発言は、俺の矜持に触れた」

 普段は先行なんてしない俺が発した言には、ベルも感心している。

 相手がちっこくて、女の子だと分かったから強気になっているって訳じゃないから。

 馬鹿にされて、カティーンときたからだ。

 まあ、その程度でカティーンとなるってのも、小さい器だと思われるだろうが。

 だからこそ、それを理由としての発言は回避してますけども。


「来いよ、お嬢ちゃん。戦いを教えてやる」

 ゲッコーさんに負けないように、低音を利かせて発言しつつ、バットを向ける姿は、予告ホームランの如し。

 俺の声音に対して、仲間二人がシンクロするように、笑いを小さくこぼした事は、聞こえない振りで我慢しよう……。


「言いますね」

 先端に青く輝く宝石の付いた杖。確かああいうのって、ワンドっていう物だよな。

 青色が、強い赤色に輝いて、腕を振れば、そこから火の玉が出る。

 それを躱せば、相手はリキャストタイムに突入だ。

 さっきから唱えるのに間があるからな。連続では唱えられないと見て問題ないだろう。

 間隙を縫って接近して、力任せに拘束してから、お尻ペンペンだ。

 その前にフードをとって、美少女だったら、生尻でペンペンだ。

 グヘヘヘヘヘ――。


「なんという不浄な笑み! やはり悪党のようでね!」

 おっと、ばれましたよ。

 だが、俺は勇者だ。笑みはあれだが、歴とした勇者だ。

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