PHASE-1508【散開】

「勇者よ。全員、通路に入った。後は我々だけだ」

 ルインリーダーからの報告を耳にしたと同時に、


「マスリリース!」

 放ったところで大した成果は出ないけども、放った線上のスカイフィッシュは仕留める事が出来た。

 俺に一手遅れながらも、同様の技で掩護してくれるルインリーダーの動きの無駄のなさには感心させられる。

 

 感心しつつも、時間稼ぎにすらならない二つの光刃の成果を目にしつつ、俺とルインリーダーは一緒になって踵を返し、通路へと滑り込む。


「通路に蓋をよろしく!」

 言えば直ぐさま察してくれたシャルナがプロテクションを展開。

 広間と通路を塞ぐ障壁によって、スカイフィッシュの進行を食い止めることに成功。

 ベチベチと音を立てて障壁にぶつかる姿は恐怖である。


「ヒッチコックの映画みたいだな……」

 でもってぶつかってくる群れはここでも――、


「ガジガジと下品にかじり始めましたよ。食い意地のはった連中ですね!」


「コクリコが言うと相手の脅威ってのが分かるな」

 誰よりも食い意地のあるヤツが、食い意地があると言うんだからな。


「さっさと前に進め!」

 ラズヴァートの怒号に合わせて皆で進む。

 進む中で――、


「あ……」

 シャルナの障壁を食い破り追いかけてくる群れ。

 さっきまでより突破してくる速度が速くなっている。


「こりゃどれだけ障壁を展開してもきりがなさそうだな」


「数が多すぎるんだよ。幾重に障壁を展開したところで進行を若干、遅らせるだけだ。それよりも足を前へ動かすことだけに集中させろ!」

 と、まるで味方のような口ぶりのラズヴァートに従って皆で走る。


「勇者よ」


「はい」


「敵拠点。加えて地の利も把握してないという状況では悪手にもなるだろうが、ここは分散した方がいいと思う」

 ルインリーダーからの提案。

 大量の群れを少しでも分散させるには、自分たちも散開した方がいいと判断したようだ。

 通路は真っ直ぐの一本道ではない。横へと続くものもある。

 とはいえ、この状況でどういった編制で分けるべきか……。

 ――……思案したいが後方の勢いに考える猶予もない。

 

 即断即決が重要視される状況の中――、


「私は右に入ろう」

 ベルがそう言えば、


「皆、油断怠りなきよう」

 と、継ぐ。

 そう言う辺り、部隊編制は自分だけでいいということなんだろうな。

 

 って、一人じゃないか。


「兄ちゃん!」


「ベルを頼むぞ」


「分かったよ!」

 お願いすれば力強い声が返ってくる。

 これにはベルもご満悦。

 

「本当に二人だけでいいのかな? というのは愚かな質問なのだろうな」


「あの浄化の炎を見れば分かってもらえるでしょうからね」


「然り」

 兵力を分散させるにしてもバランスは大事。でもベルの場合は単独でも問題ない。

 ベルに編制のウエイトを割かなくていい分、他の部隊編制に厚みが出来るのが有り難い。


「我に続くのです!」

 と、今度はコクリコ。


「後衛の者だ。ルイン三とエルダー十。ピルグリム二。行動を共にせよ」


「御意!」


「これはいいですね」

 自分に付き従うのが上等な装備で身を包んでいる戦巧者たち。

 先頭になってその面々を付き従えさせているような感覚なのか、コクリコはこんな状況下であっても上機嫌。

 流石の胆力だな。


「いったんここで別れますが、再度の合流時には、我が功績を語ってあげましょう!」


「期待しているよ」

 言えば、黄色と黒の二色からなるローブを棚引かせ、俺達とは違うルートを進んで駆けるコクリコ。


「じゃあ、私も」


「大軍に出くわしたら逃げること優先な」


「問題ないよ。目と耳はいいからね」

 通路を滑空するようにレビテーションで移動するシャルナ。

 高い機動力と察知能力で逃げ切るからというのを見せてくれているようだった。


「一人じゃ不安でしょうから私がついていってあげるわよ」


「はぁ! 一人で問題ないけど!」

 長い耳をピンと立ててリンへと言い返す中で、


「お互いに支え合うんだぞ」

 場を取り持つように俺が言えば、唇を尖らせながらもシャルナは承諾。


「我らが主は別行動となるか」


「そうね。勇者をお願いするわよ」


「承知した。が、主を優先することには了承してもらいたい」

 眼窩に灯る緑光をリンから俺へと向けてくるルインリーダー。


「もちろんですよ」

 即答にて返す。

 主を優先するのは当たり前だからな。


「感謝する。ルイン六。エルダー十九。ピルグリム七は主たちに随行せよ」


「承知しました」

 と、別のルインからの返事。


「ちょっと、流石に割きすぎじゃないの」

 バランスが悪すぎる。と、リン。

 自分の力を使用して新たに戦力を召喚するから、そこまで自分たちに戦力を割かなくてもいいと言うが、


「この場に喚ばれた者達が戦力の中では上澄みだ。それ以下を喚ぶよりも、ここの者達で対応すればいい。喚ぶのも無限ではないからな」

 と、ルインリーダー。

 

 ――山城の地下施設の建設に、王都での各作業にもアンデッド達には励んでもらっている。

 兵力だけに偏ると、その面々が活動できなくなる。


 確かリンが一度に召喚できるのって――二千くらいだったよな。

 とんでもない数だけども、それら全てが戦闘で活躍しているわけじゃないしな。

 ここにいる面子のみで対応可能ならそれにこしたことはない。

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