PHASE-790【呆れさせるとか凄いですね……】
「この勢いなら王土と公爵領の境となるアルサティア川まで懸命になって走り続けることでしょう」
発する先生は次なる一手を考えるかのように、頤に手を添える。
疲れを知らないスケルトンライダーと、伯爵の気迫が乗り移ったかのようにペースの落ちない馬はまるで牧羊犬だ。公爵兵たちを北へ北へと追い込んでいく。
ドローンがそれを追跡し、上空からそれを捉えてくれる。
川幅は約三百メートルほど。
水深は浅く、あっても膝くらいまでというのは以前にこの目で確認した。
公爵軍の先頭がいよいよそのアルサティア川へと差し掛かろうとする。
兵士たちが目指すのは――ロマゲン橋。
橋桁は低く、経年劣化が進んだ木造の橋だ。
といっても万を超える兵達が橋を一気に通れるわけがない。
兵達の重さで橋だって崩れ落ちるかもしれない。
懸命に逃げる兵達の取った行動は、先頭は橋を走り出し、続く者達は川へと足をつけていく。
冬が到来するこの時期。しかも北国。
雪化粧からなるブルホーン山から流れる川の水は、兵士たちの足を途端に鈍らせる。
「ふむふむ」
ドローンの映像を見る先生は頷き、マイクを手に取る。
「こちらHQ。スチュワート殿」
『何でしょう?』
「王軍とは合流していますね。オーバー」
――言われるように合流したとのことで、スチュワートさん達は現在、王軍の中軍にいるそうだ。
王様と直接に話せる状況だと先生が知れば、即、追撃を止めるように指示を出す。
なんで? なんて返事はない。
王様自身も先生のことを信頼しているということもあり即断即決。
下の者達の声をしっかりと聞き入れることが出来、且つ信頼の置ける人物となれば決定も早い。
名君のソレだ。
直ぐさま鏑矢が二本、中軍から上がる。
俺たちのところまで甲高い音が聞こえているくらいだから、前線にもしっかりと届いているだろう。
続くように前線部分からも鏑矢が二本上がる。
上げるのは移動速度を落とした高順氏が指揮する征東騎士団のところから。
これで最前線にも届いたことだろう。
鏑矢二本は攻撃中止の合図だということなのだ、が……、
「やれやれ……」
先生が頤から額に手を移動させ、気怠そうに頭を左右に振るという動作。
「別称に狂乱を冠するのがよく分かりますね」
呆れる先生に続く。
戦場に出れば熱くなって敵しか見えなくなるタイプだな。
だから敵陣で孤立するんだろう。
蛮勇だな。マグナートクラスの戦い方としては失格だ。
有りがたいのは周囲のスケルトンライダーの存在もあって、相手が迎撃態勢に移行しないことだ。
「ですがよろしくない。背水の陣はいただけない」
目の前が冷たい川。渡る間に攻撃されるなら反撃に出て活路を開こうという思考に切り替わる。
そうなると意地でも助かりたいという強い思いが芽生え、死兵にも似た力を発揮される。
発揮した力にてこちらが押し返される可能性がある。それは嫌だと先生。
「こちらトール。側にリンがいるなら、スケルトン達に伯爵を止めるように指示して下さい――ええっと、オーバー」
『了解。アウト』
短い返事の後、直ぐさまスケルトンライダー達の機動が変わる。
敵を追うのではなく、伯爵を取り囲むようにして動きを鈍らせ、ついには拘束。
『ええい! 放さぬか! いくらリン様の手の者であろうとも――』
ジタバタと馬上で暴れるけど、数体のスケルトンライダー達によって無理矢理に後退させられる。
心なしか、ドローンで捉えたスケルトンライダー達が肩を竦めていたようにも見えた。
表情は骸骨だから分からないけど、もしかして……、呆れてたのかな?
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