PHASE-19【脳筋凸プレイ、ダメ絶対】

 ここは潜入して砦内の状況を確認し、人質がいるなら救出を優先して、相手に人質がいるという有利性を失わせないといけないのか。

 だとすると、


「ベルだと目立つな」


「は? ベル?」


「そう、ベルヴェットだからベル。いい加減に距離を縮めようぜ。さん付けもなんだし」

 くだけた呼び方をサラッと口にしてみれば、案の定、訝しいものに変わるベル。


「二日程度で距離が縮まると考えるとは、本当に気安いな。その様な呼ばれ方、今までされたことがない」


「じゃあ新鮮でいいじゃん」


「調子に乗るなよ」

 なんて言いながらも、本気で怒っているようには見えないし、今後ベルって呼んでも大丈夫みたいだな。


「で、どうやる?」

 話を砦攻略に戻す。

 とりあえずは、俺と違って戦いのスペシャリストである、ベルに意見を仰いでみる。

 パラメーター表記だと武力だけでなく、知力も98とすこぶる高い。素晴らしい攻略のアイデアを出してくれるに違いない。


「正面からでいいだろう。以前と同じような相手なら問題ない。私一人で乗り込んで、灰燼としてやるだけだ」

 ――…………あれ!? なんか求めていた回答と違う。

 もっと知的な戦略を欲したんだけども。馬鹿突、脳筋プレイな答えはいらないかな~。


「人質がいる可能性って、さっき言ってたじゃん」


「人質が効果を発揮する前に滅ぼせばいい」


「ここは搦手による攻略がいいんじゃないか?」


「それもいいだろうが、一気に叩けばなんの問題もない」

 オゥイェ……。

 知力98って嘘なんじゃないのか?

 これだからチートは困るんだよ……。

 強すぎると、難しく考えない行動ばかりを選ぶから……。

 圧倒的な力を有した者は、こざこざした戦略を嫌うからな……。

 単身で攻めて解決させるって事を平然と言い切るから、出発前も余裕だったんだな。

 実際、一人で攻めても簡単に陥落させられるとは思うけども、もっとこう深く考えていただきたいです。中佐なら。

 そもそもが砦までの地図はあっても、その後の地図が無いんだよ。

 どこに何があって、どこに敵が配置されているのか分からないまま突っ込むとか、下の下だぞ。

 ゲームでもまずは地図を見つけるってのが大事だから。そこから攻略の糸口を探すんだぜ。

 ――……なんて再度、言ってみても聞き入れないよな。だって、やる気に満ちあふれてるもの……。

 ベルは派手に立ち回れる野戦では頼りになるだろうが、ステルス系は無理だな……。

 開始早々、敵の頭の上に感嘆符が現れてしまうだろう……。


「やっぱりベルだと目立つ。ここはステルスのスペシャリストだな」


「なんだ? ステルスのスペシャリストとは?」


「今からどうやってベルを召喚したかを見せてやるよ」

 得意げに言ってみたが、怪訝な顔が返ってくる。

 俺が本当にベルのことを召喚したのか、未だに半信半疑のようだ。

 だけどこれを見せてやれば、俺のことを少しは信頼してくれるだろうし、忠誠心も少しは上がるかもしれない。

 セラから貰った、転んでも傷一つ付かない金属からなる、特注のポーチに入ったプレイギアを取り出す。


「先日も手にしていたが、それを使うのか?」


「そう、これ。召喚魔法だから、本とか魔法陣を想像してたなら、期待に応えられずに申し訳ない」

 代わりに凄いのを見せてやるさ。

 なんて思ってたら、訝しかった表情から、興味があるのか、至近で見ようとする。

 美人の急接近に免疫の無い俺は、動悸が激しくなってしまう。


「う、うん」

 テンパってるのを誤魔化すのと、今から始めるという、二つの意味を持った嘘くさい咳を行い、ベルから後退り。

 光が砦から見えないように死角に隠れてから、両手に持ったプレイギアをそれっぽく前へと出してみる。

 なんとなく召喚の準備に見えるんじゃなかろうか。

 ――……と、いうか。よくよく考えたら、俺、召喚ってどうやったんだっけ? 

 オークに襲われて、焦ってベルの名前を呼んだが。

 ――――名を呼べば、ストレージ内のゲームデータから召喚されるって事なのだろうか?


「まだなのか?」

 いかん。構えたまま固まっていたら、怪訝な表情に戻っている。

 失敗したら、本当に俺がベルを召喚したのか疑われてしまうかもしれない。

 上手くいってくれ! と、祈りながら、


「ゲッコー・シャッテン」

 キャラクターの名前を口にすれば、同時にプレイギアが輝く。

 ベルが召喚された時と同様の光。どうやら成功したようだ。

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