PHASE-1217【優柔不断は身を滅ぼす】

 ――――。


「素晴らしい成果をもたらしてくれたな。トールよ!」


「ああ、はい」

 うんこの利益による数字で爆上がりしたテンションだったが、時間をおいて平静さを取り戻した俺は、現在、おっさん達と一緒になって暖を取る。

 俺は装備の効果で寒さは問題ないけど、流石に日が沈めば王侯貴族の面々は寒さが堪えるのか、裸だった上半身には羽織りもの。

 車座になって暖を取るのは木壁の中にある詰所。

 外観は丸太を積み上げた壁なのだが、木壁内部は通路もあれば石造りの部屋もある。

 石造りの部屋のみに限定されて暖炉が設けられているそうで、こういった部屋が木壁内部に等間隔で作られており、食事と仮眠をとるために使用されるという。

 兵数が増えていく王都にて、木壁で励む兵達の職場環境は恵まれているようだ。

 以前とちがって、うちのギルドメンバーが木壁で哨戒をしなくなっているのも、兵の数に余裕が出てきたからってのもあるんだろうな。


 暖を取る中でエルフの国で起こった事の報告を終える。

 喜んでくれるおっさん達。

 今まで外の世界には出来るだけ不干渉といった路線のエルフ達が、魔王軍との戦いのために協力を表明してくれたことが大層、嬉しいようだ。

 北伐の時は国全体ではなく、義勇兵のような立場での参加だったからね。

 これからは大手を振っての協力となる。

 その証としての五千からなる先遣隊だからな。

 

「しかもエルフ新王の剣の師になるとは……。王都に戻ってくる度に公爵閣下の功績には驚かされるばかりですな!」


「まったくだな。バリタンよ!」

 伯爵の発言に上機嫌の王様。

 俺としては王都に戻る度、あんた達の変人色が濃くなっていくことに驚かされてばかりだよ……。


「今後、精強なエルフ達が本腰を入れてこの世界の為に立ち上がってくれるとなれば本当に心強い。本格的に南伐へと注力できますな」

 エンドリュー候が二人に続く。


「しかし問題が山積みなのも事実でしょう」

 三人と違って重々しい声音はナブル将軍。


「然り!」

 ナブル将軍に続くのは、俺の心の友であるダンブル子爵。

 いや……本当に……。

 王様を常に支えてくれているメインの臣下たちが揃いも揃ってさっきまで土いじりってどうよ……。

 攻勢に転じるっていう説得力が伝わってこないね。

 せめてここのいる半分くらいはプリシュカを手伝ってやれ!

 現状の泥だらけの風体だと発言に重みを感じることが出来ない。が、本人達はいたって真剣。


 その証拠とばかりに、


「ナブルの言は正しい」

 見た目はともかく、ピシリといった音が聞こえてきそうな程に王様の声には裂帛な気迫がこもっていた。

 今の姿が全てを台無しにしているけども……。

 そんな王様が向ける視線の先に座るのは――当然ながら先生。


「主が敵側の幹部から情報を得たことは非常に大きな成果でしたが、こちらが受ける衝撃も大きかったようですね」


「ですよね」


「まあ情報は前魔王殿や側仕えの方々から耳にはしていたのですが――」


「ですよね……」 

 デミタスからもそこを指摘されたな。お前を支える知者は苦労していることだろう的な感じで言われたっけ……。

 ここで伝えなくても三百万って数字は既に知っていたようである。


「だがしかし……」


「「「「三百万」」」」

 王様が口を開けば、それに呼応するように臣下の面々も口を揃えて同じ数字を零す。

 分かってはいたことだが、現実として受け入れたくない数字。

 魔王軍の中でも現魔王を護衛する立場であり、しかも幹部からの発言となれば、その数字を現実としてしっかりと受け止めなければならないからか、数を声に出した皆さんの語調は重々しいものだった。


「やれやれですな。まだ瘴気の問題も残っているというのに……。浄化した先には三百万もの軍勢が待ち構えているのですからね……」

 ナブル将軍が暗さを纏わせて口を開く。


「他の幹部が指揮する兵数を加えれば、まだまだ膨れあがりますねどね」

 追撃とばかりに発するのは先生。

 でもなんとも余裕のある言い方である。


「デミタスが言うには仲違いをさせるのは難しいそうですよ。カルナックに対する兵士たちの忠誠は高いそうですから」


蹂躙王ベヘモトに対する忠誠心というのは恐怖からきているものだと考えてよいでしょう。所詮は烏合による三百万。どうとでもなるでしょう」

 恐怖からくる忠誠心――ね。

 確かにデミタスの集落に対して行った非道を考えれば、自身の配下たちにも近いことはしているかもな。

 でも兵達の中には、自分たちを大切にしてくれるよき首魁と思っている連中が多いという話をデミタスから聞かされているからな。


「純粋だったり妄信による忠誠心を持った者達もいるはずですよ。そういったのは戦いになれば士気が高い状態でこちらと向かい合うことになります」

 一概に恐怖だけの支配とは思わない方がいいでしょう。と、生意気にも先生に発言。


「でしたらその士気を下げるだけですよ」

 と、法楽頭巾のような形状をした帽子をかぶるイケメンさんは余裕の笑みを崩さない。

 烏合は別段、問題ない。

 問題となるのは、巧鬼と呼ばれる千のオーガロードからなる親衛隊と、百のドラゴニュートからなる近衛隊デイライト。

 これに四天王とカルナック本人。


「問題とすべき対象ではありますが、ここだけで見れば兵数はわずか千百五。今の我々からすれば寡兵もいいところですね」

 ――……うん……。

 なんとも凄い暴論である……。

 とても頭の悪い発言じゃないですか……。 

 曹操に我が子房と言われた、荀文若の発言とは思えないっすね……。

 

 カルナックの指揮する兵の平均的な力は、王都に攻め込んできたホブゴブリンと、要塞トールハンマーにて陥陣営殿と対峙した者達の力量から算出すればよく、烏合な存在だというのは間違いないと先生。


 これに加えてデミタスによるカルナックの人物像を耳にした先生は、強欲で出し渋るような者は総じて優柔不断な性格であると推測。

 末端までの伝達の遅さにより動きが鈍重となるのが大軍の弱点。

 この弱点を更に脆くするのが指揮官の優柔不断さ。

 決断が出来ない者は指揮官になってはならない。

 こういった者が指揮をすると、末端の兵達の居場所――つまりは最前線に送られる輜重による物資提供は戦いが起こればまず遅れることは間違いないとのこと。


「その遅れが原因で最前線の者達の士気は一気に落ちるんでしょうね。ダメ押しで前線に送られる輜重隊をこちらが襲えば、一気に前線は崩れる可能性もありますね」


「主の言は正しいです。このカルナックなる者は、官渡における袁本初の如し」


「優柔不断さと諫言を聞き入れなかったことで大敗北へと繋がったんですよね?」


「左様。田、沮の両名の言を聞き入れられる器があれば、官渡の勝敗はまた違ったものになったかもしれません」

 田、沮ってのは田豊と沮授の事だな。袁紹軍を支えた賢者二人。

 崔琰って人は知らなかったけど、この二人は流石に俺でも知っている。


「こういった性格が災いすることで寝返りなどが生まれます。貪欲凡愚である許子遠が、曹操様に寝返ったのは有名でしょう」


「――許攸の事ですよね?」


「その通りです」

 あいつって凡愚なんだ。

 その辺の歴史は詳しく理解していないけども、コイツが寝返って情報をリークしたことにより、大軍を支える烏巣の兵糧庫が焼かれ、袁紹軍の敗北に繋がる事になったのはゲームなどの知識で知っている。

 許攸ってゲームだとそこそこ知力の高いステータスのイメージだけどな。

 先生からすれば凡愚か。貪欲と言う辺り、知力というより人間性に対しての侮蔑なんだろうな。


「ふむふむ。袁本初――ですね~」

 あ、なんか悪い顔になってる。

 先生は何かしら悪い事を思いついたご様子。

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