PHASE-1218【諱にはちゃんと気をつかわないとね】
「なにか妙案でも?」
問えばコクリと首肯が返ってくる。
「王に皆さん。ドラゴニュートの寿命などお分かりですかな?」
先生に言われれば、王侯貴族の面々が顔を見合わせ――、
「いや、すまん」
と、代表して王様が返事。
唯一エンドリュー候がワイバーンの寿命なら百五十年ほどだと答えてくれた。
だから同じ竜種であるドラゴニュートもそのくらいだと判断してもよいのでは? と、続けるけども、先生は満足いっていないご様子。
「これは私も調べが足りませんでしたね。カルナックの正体は聞かされていましたから、平均寿命や血縁なども同時に調べておくべきでした。猛反です」
なんて言うけども、王都の事だけでなく、その他のことも俺が先生に投げっぱなしだからね。
それもあるから調べる優先順位が後回しになっていたと思うと、申し訳ない気持ちである。
俺なんてカルナックがドラゴニュートって種族なのをデミタスに聞かされるまで知らなかったんだからな。
デミタスにお前の回りの知恵者は苦労すると言われたことがここでも脳内再生される。
今の先生の発言で、余計にこの部分が痛感させられた。
猛反すべきは俺だってね。
「エンドリュー候には申し訳ないのですが、ワイバーンにて城まで行っていただき、カルナックに詳しい者をここへと連れてきていただきたいのですが」
「喜んで」
木壁の壁上にて待機していたワイバーンに跨がれば、羽を勢いよく動かして城へと向かっていく。
――――程なくして。
「トール様!」
と、大喜びでワイバーンが着地する前に壁上へと飛び降りてくる存在が俺の前でスマートに着地してからのカーテシー。
肩口まで伸びた紫色の髪と、篝火に照らされるシトリンのようなキラキラと輝く黄色い瞳が俺をしっかりと見てくる。
再会を喜んでくれる瞳の輝きには嬉しさもあるが、一歩後退してしまう俺。
「よ、よう。ランシェル」
「ご健勝で何よりです」
素敵な笑みを見せてくれるのは嬉しい限り。
ヒロイン級の美少女……。だったら俺も心の底から喜ぶんだが……。
いかんせん目の前の前魔王に使えるランシェルは、サキュバスメイドさんではなく……インキュバスメイドだからな。
悲しいね……。俺の帰還を喜んでくれる可愛いポジション第一号がランシェルってのがね……。
傷つけたくはないのでもちろん顔には出さないけども、出来る事ならコトネさん達にも出向いてほしかったよ……。
まあ、流石にワイバーンに乗るには三人が関の山か。
特に――、
「久しいな」
この人物を騎乗させていたらスペースは更に狭くなるからな。
「お久しぶりですガルム氏。王都には慣れましたか」
「ああ、我が主だけでなく我々も自由に行動できる素晴らしい都だ」
トレンチコートを思わせる革製のローブを纏い、赤銅色の毛並みからなる体毛。
細身の上顎と下顎からなるイケメンな狼男こと、亜人ヴィルコラク。
二メートルほどある身長は、エルフの国のカトゼンカ氏のような長身痩躯とは違い、ローブ越しにも分かる程に隆起した筋肉からなる。
強靱さだけでなく、しなやかさも有しているというのも伝わってくる。
相も変わらず――強者としてのオーラが出ていますな。
以前と違って少し表情が穏やかになっているのはリズベッドや一族、仲間たちが安全に過ごせる場所を得たことによるものだろう。
穏やかな生活を得ても怠慢することはないようで、精錬さをしっかりと維持した炯眼は流石である。
王都にて自由にすごせるのも、ベルがコボルト達を自身の庇護下にするという発言が以前にあったからだろう。
あれ以降、王都全体で亜人に対する偏見が緩和しているからな。
王都全体が畏敬の念を抱く最強の美姫。その庇護下にある時点で、目に見えての差別ってのはなくて当然か。
これに加えて先生の目もあるからな。コソコソとした嫌がらせも出来ないような体制が出来上がっていることだろう。
魔王軍の侵攻によって、心と体に深い傷を負った人々も王都には多く住んでいるから、畏怖の存在である亜人と共に生活をするのは抵抗もあるだろうけど、それでも皆さん前を向いて歩んでいるようだ。
そういった方々がしっかりと歩んでいけるようになったのも、当初はゲッコーさんのカウンセリング。後に先生が選んだ者達による心身をサポートする診療所の存在も大きいだろう。
王都の発展により、人々の心身にも強さと余裕が出来てなによりだ。
まあその発展のために、俺のおピンク街計画を上手く先生に利用されて、性病対策という理由から診療所建設も優先されたんだよね。
喜ばしいことではあるが、俺が旗振りであるおピンク街開発事業だけが滞っているって事はないよね?
そういった仕事で生計を立てる方々のためにも、先生がしっかりと行動してくれていると信じたい。
「――――なにやら勇者殿は深く考え事をしているようなので、代わりにカルナックの事は知者殿に語ればいいのかな?」
いかんいかん。しっかりと脱線してしまったな。
――……。
と、先生もかな?
なわけないわな。
「先生。ガルム氏の話を聞きましょうか」
「ああ、はい」
謙虚ですね。
知者殿と言われて直ぐに反応しないのは、大人としての慎みですね。
知者となればこの中では先生が第一に当てはまるけども、その呼称に反応すれば確かに野暮ったくもあるもんね。
「文若殿と呼べばいいと思います。ですよね先生」
「ええ」
彧って諱で呼べば無礼だろうからな。字で呼ぶのが当然だよな。
――……。
「すみません話の腰を折ってしまいますけど」
と、先生とガルム氏の中央に入り込み、先生に接近して耳打ち。
「俺って、荀攸さんの事を普通に姓と諱で呼んでますけどいいんですかね? 後、高順氏も」
「問題ありませんよ。主は我らの主。呼んでも問題はありません。公達も指摘などしなかったでしょう。そもそも主は【さん】や【氏】と敬称をつけておりますからね」
それを聞いて一安心。
だが、いくら主ではるとはいえ、俺のような十代のお馬鹿な小僧に諱を口にされるのは清廉潔白な方々であってもいい気分はしないだろうな~。
やはり礼儀として荀攸さんの事は公達さんって呼んだ方がいいのかもな。
こうなると字が不明な高順氏はどう呼べばいいのか困るというもの。
「陥陣営殿は姓と役職を合わせて呼ぶのもいいでしょう。現在は要塞指揮官という立場なので、高指揮官でいいのではないでしょうか。まあ、今まで通りでも主は無礼にはなりませんよ」
「分かりました。話の腰を折ってすみませんでした」
俺と先生のやり取りを見届け――、
「では文若殿。質問を」
「ドラゴニュートの寿命を教えてもらえますかな」
「平均で三百年ほどだな」
「なるぼど。では――最長では?」
「俺が知る限りでは倍の六百年といったところだ」
様々な薬品や魔法を施せば延命もするし、筋肉を若々しく保ったまま最後を迎えることも可能だという。
「では――
「五百を超えている」
「ほうほう!」
先生が喜色をあらわにする。
「老いて尚盛んだがな。姿は若々しいままだ」
「ですが、若々しい状態で最後を迎えるのでしょう。不死者となる以外で現世に留まるとなれば、時間は限られていると考えてよいですね?」
「ああ」
「素晴らしいですね!」
ここで先生の喜色が更に強まる。
「えっと――もしかして寿命が尽きるのを待つという作戦ですか?」
「……主――そんな訳ないでしょう」
喜色から落胆混じりへと変わる先生。
せっかくテンションが上がったのに、俺の発言のせいで興醒めしたといったところか……。
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