PHASE-469【フェスティナ・レンテ】
「ではリズベッド様の事を頼む」
ガルム氏が深々と頭を下げれば、集落の皆さんもそれに続く。
長居すれば、もしかしたら
ベルはモフモフ達と別れる事が寂しかったようだが、そんなモフモフ達から声援を受ければ、任せてもらおうと、強気の発言。
モフモフ達からお願いされれば、ベルは世界を簡単に救ってくれそうな気がする。
――――新しいハンヴィーを召喚して俺たちは西を目指す。
魔大陸北東にあるラッテンバウル要塞。
北東といっても俺たちが上陸し、集落でお世話になった場所よりも内陸部に位置するそうで、西というよりは南西に向かっての方が正しい。
「ガルム氏も言っていたけど、
隣に座るランシェルへと問えば、クロウスを始め、謎めいた面々が多いということだ。
主であるベスティリス・バルフレア・エアリアスもよく分からない女性らしいが、サキュバスさん達に対しては優しく接してくれた事もあったそうだ。
真意を窺い知ることが出来ない立ち居振る舞いは、例えるならば雲のように掴み所のない人物だったそうだ。
ドヌクトスで俺がクロウスに嘘をついたけど、あの時、サキュバスさん達が命を落としたという嘘発言を耳にして、寂しい表情になったのは、自分の主が懇意にしていたという経緯があったからこその表情だったのかもな。
そう考えると、蔑ろというか、道具あつかいしていたゼノとは違い、好感が持てるタンガタ・マヌだな。
この魔大陸での
ハンヴィーに揺られて一日が経過。
野生の生物は見ても、ガルム氏たちのような強者に会うことはない。
一応は
首が無駄にこってしまっただけだ。
「トール様。ここよりは気を引き締めた方がよいです」
こった首を回して、コキコキと小気味の良い音を鳴らしている横で、ランシェルからの警告。
神妙な面持ちからして、本当にやばい領域に入ったようだ。
引き締めた方がいいと言うだけあって、前方は晴れ渡る青空とは別に、久しぶりと言ってもいい紫色の世界が広がっている。
「濃密な瘴気だな」
「あの先にラッテンバウル要塞は存在します」
いよいよ魔王護衛軍の中でも精鋭といわれる、レッドキャップスが鎮護する要塞が近づいて来たか。
知らず知らずにゴクリと唾を飲んでしまう。
ランシェルの隣へと目を向ければ、普段は自信に満ちあふれたコクリコも肩に力が入っているし、シャルナも表情が引きつっている。
斜め前を見れば、ベルはいつもの如く落ち着いた無表情。
ゲッコーさんもきっとそうだろう。
「ここからは歩いた方がいいかも」
一言発せば、ハンヴィーが止まる。
「よし、行こう」
止めて直ぐに降車するゲッコーさんが周辺を警戒。
問題ないとのことなので、俺たちも続く。
緑が広がる美しい光景を禍々しくする瘴気の空。
まだここは綺麗な空気だけど、しばらく歩けば瘴気が蔓延した世界になるだろう。
隆起した大地を利用し、体を隠しつつの
発見される確率を下げるためとはいえ、障害物になる場所を選びながら歩くというのは、けっこう体力を消費する。
真っ直ぐに歩くって事が出来ないからな。
目立たないように、ゆっくり素速くがメインの移動。
「まさに
「そういう事だ。いい結果を生み出したいなら、焦らずに行動する事だ」
返事をくれるゲッコーさんが大木のある場所で停止。小休止だ。
「――――ふぅ」
「やっぱり緊張するよな」
大きめの嘆息をコクリコが漏らす。
水筒に入った柑橘水を注いでやれば、呷るように飲み干した。十三歳とは思えぬ、剛気な飲みっぷり。
将来、酒を覚えたら大変なことになりそうだな。
皆して喉を潤し、体をほぐしてから再び歩く――――。
「これは助かる」
「ですね」
先頭を行くゲッコーさんに相槌を入れる。
眼界は、草原から新しい光景へと変わる。
若草色から深い緑。
今までは木々が少ない草原だったが、緑生い茂る丘陵地帯が俺たちを迎えてくれる。
小山になだらかな起伏。背の高い木。姿を隠しながら進むにはもってこいだ。
だが、霞がかかったように瘴気も立ち込めてきた。
「二人はガスマスク着用な」
言えば直ぐに装備。つけるのも様になってきたな。
「う~……久しぶりですね。この独特な臭い……」
「だよね……」
手早く装着は出来ても臭いはきついと、くぐもった声のように、コクリコとシャルナのテンションが下がる。
臭いは我慢してもらうしかない。行動不能になったあげくに暴れられても困るしな。
というか、コクリコはダークサイド感が溢れるガスマスクが、お気に入りだっただろう。
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