PHASE-1254【ホウレンソウ】

 小さくてぬいぐるみみたいな愛玩生物の言うことを大型生物たちが素直に聞き入れるという光景――。


「いや、本当にゴロ太ってスゲえよ」

 改めて感想を口から出せば、今度はちゃんとゴロ太のエヘヘヘヘ――と喜ぶ声を聞くことができた。

 ベルが再度、称賛の声を出しそうになったが、そこをぐっと堪える事でゴロ太の喜びを奪う事はなかった。

 でもそわそわが止まらないのも事実。


「ゴロ太。ベルが抱っこしたくて悶えているようだから、抱っこしてもらいなさい」


「誰が悶えていると!」


「悶えてますとも。中佐、上半身をくねらせている姿――エロいです」


「お前!」


「そんな怖い顔になると、ゴロ太が怖がるでしょ」


「くぅ……」

 ゴロ太を制すれば、ベルを制する事も可能だな。

 調子に乗るのはここまでにしておくけども。

 これ以上つけ上がってしまえば、ドデカいペイバックタイムに突入するかもしれないからな。


「ほらゴロ太」


「は~い♪」

 ここでゴロ太が俺の腕から飛び出してベルへと足を進める。

 ゴロ太を両腕で優しく抱っこすれば、ベルは破顔となる。

 美人とはかけ離れた可愛さである。

 眼福、眼福。と、心の中で呟く俺。

 

 ――修練場広場の光景は――、


「モフモフ天国だな」


「最高の環境だ」

 ベルの喜色に染まった声は、ゴロ太を抱っこ出来たことも相まって最高のものだ。

 普段の凜々しく冷静な声音からはかけ離れすぎている。


「さあ、皆!」

 テンションMAXのベルがベルらしくない声音を発せば――、


 ――……なんとも重苦しい空気じゃねえか……。


「皆、ベルが呼んでるぞ」

 俺がベルに続いて発せば、


「ニ゛ャァァァァァア゛」

 代表してチコが鳴き声を上げれば、ベルにではなく――皆して俺へと集まり、厩舎内と同じように体をこすりつけてくる。

 象みたいな図体の連中に四方から体をこすりつけられると衝撃は脅威である……。


「うう……。いつもなら私の声に応じてくれるのに……」

 ここでも恨めしそうに俺を見てくるベル。

 なぜに俺はこうも動物たちに懐かれるのか……。

 側にいる美人にこそべったりとされたいのに……。


「やっぱりボクも♪」


「あっ!?」

 ベルに託したゴロ太がここでピョンとジャンプし、俺へと駆けて足へとくっついてくる。


「なぜだ……」


「お、おおぅ……」

 最強様が膝から崩れ落ちる。

 唯一、側にいてくれるミユキを撫でつつ俺を睨めば、


「私から全てを奪うつもりなのか……」

 と、弱々しく言ってくる……。

 俺達は親権争いでもしているのでしょうか……。

 そんな感じの発言だったよ……。

 別に俺は悪い事をしていないのに、罪悪感に苛まれてしまう……。

 ゴロ太を預けた矢先、直ぐさまゴロ太が俺へとやって来たもんだから、自分よりもやはりトールなのか……。といった感じで、心に大きなダメージを与えてしまったようだな。

 その結果、俺に対するベルの好感度がだだ下がっている効果音が幻聴として聞こえてくるんですけど……。

 ドゥゥゥゥゥゥン――って感じの音が……。

 俺に落ち度はないはずなのに……。


「み、皆で楽しく遊ぼうな。な! な! なっ!」

 裏返る声でなんとか提案を出す俺。


「まったくトールさへ来なければ……」

 俺の心を砕くような発言はやめてくれ……。


「用が済んだら会頭としての仕事を励んだらどうだ」


「会頭としていろんな場所を見て回っているんだけどな」


「だったらもう満足だろう」

 ここまで俺を邪魔者にするとは!


「いいのか。俺に対して木で鼻を括るような対応ばかりしてたら、ベルに対する愛玩達の好感度が下がるぞ」

 俺のように好感度ダウンの幻聴をその耳に聞かせてやろうか!


「おのれ、この子たちを利用するとは!」


「してねえよ!」

 本当に愛玩の前だとポンコツだな……。


 ――――。


 ゴロ太とコボルトキッズを背に乗せたチコを先頭にして広場を駆ける光景を原っぱに腰を下ろして眺める。

 俺の横には落ち着きを取り戻したベル。


「それで、会頭としての仕事もいいが、勇者としての鍛練も疎かにしていないだろうな?」


「もちろんだ!」


「自信に漲る返事だな」


「今回はコクリコとドッセン・バーグに加えてランシェル。それとコルレオンを含めた新人四人を同時に相手にして勝利したからな」


「その面子を相手に勝利とは凄いじゃないか」


「だろ。王都に戻って直ぐにモフモフ達と楽しんでいる人間もいれば、その間に大地を耕したり、強者や伸びしろのある連中を相手にして戦っている人間もいるわけですよ。楽しむのも結構だけど、王都内の情報を知るための体制づくりはしておいてほしいよね。帝国軍中佐という立場なら、情報ってのがいかに大切なものなのかというのは、理解していると思うんですがね~」


「ぬ、うぅぅん……」

 今回はベルの弱々しいところをたくさん目にすることが出来るという、貴重な経験をさせてもらっている。

 嫌味な言い様になってしまったが、顔を伏せる姿からして、俺の発言に対して反論が出来ないようだ。

 だって間違ったことは言ってないからね。俺!

 帝国軍中佐であるからこそ、報告、連絡、相談であるホウレンソウは常に心がけていただきたいものである。

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