PHASE-837【乗せると頼りになる】

「アクセル」

 構えればまたも一気に迫ってくる。


「はぁっ、はぁ、はいぃぃぃ! はあ、せいっ!」

 拳に肘。蹴撃に膝と、隙のないコンボを繋げてくる。

 回避は選択せず、相手に隙を見せないために籠手で全てを防いでいく。

 いやはや中々に強いよ。


「イグニース」

 連撃を断ち切るために炎の盾を発動すれば、跳躍して新たに咥えた楊枝を牽制に放ってくる。

 炎の盾で防ぎつつ動向を窺えば、着地と同時にまたもアクセル。

 今度は俺の背後。といっても離れている。


「バーストフレア!」

 おっと、上位魔法も使えるくらいにマジックカーブの練度は高いようだ。

 右手を突き出せば、右腕の入れ墨が輝き、赫々とした球体を顕現させて放つ。

 離れている理由は俺を標的としてないから。

 コクリコでもない。


「――嫌なヤツだよ」

 ほくそ笑むあたり理解しているようだ。

 正面ばかりから攻めてくるタイプと思わせておいて、搦め手で対象を変更。

 クレバーな戦い方は嫌いではないが、実際にされると最悪な気分だな。

 赫々と輝く球体が放たれたのは、味方の治療を終え、遅れて謁見の間に入ってきたラルゴ達にだった。

 アクセルでラルゴ達の前方へと移動し、イグニースで防いでやる。


「大将!」


「ラルゴ達は警戒しながら取り巻きを相手にしてくれ。数では負けているけど、実力では勝っていると信じている。お互いの背中を守りながら堅守で対応。こっちの増援が来るまで持ち堪えてくれ。もしくは俺が目の前のヤツを倒すまで耐えてくれ」


「ほう、言ってくれるな」


「ライトニングスネーク」

 いいねコクリコ。

 不意打ちならガリオンよりコクリコの方が上手。

 魔法発動で動きが止まっているところに、絶妙のタイミングによる電撃の蛇は直撃コース。


「プロテクション」

 へ~。マジックカーブには障壁魔法も封じてんだな。

 攻守の魔法を使用出来る万能タイプか。

 

 でもって、最初はアサシンや忍者系かと思ったけど違うようだな。


「ずっと無手みたいだけど、モンクとかの類いか?」

 

「そうだが」

 モンクが傭兵団の副団長か。

 邪悪なアンデッドでも倒しとけよ。と、口に出そうだったけど、うちにはアンデッドの仲間が沢山いるから口から漏らさないように堰き止めた。邪悪でもないし。


「コクリコ」


「なんです? 二対一でサクサクと倒しますか?」


「いや、ラルゴ達のカバーに入ってくれ」


「ほう。この私においしいところを与えないつもりで?」


「偉大なロードウィザード様なんだ。こっちの増援が来るまでラルゴ達から怪我人を出さないくらい造作もないよな?」


「当然でしょう! そもそも増援が来る前にこの程度の連中など片付けてやりますよ!」

 心強い台詞を心強く言ってくれる。

 言われた方はお怒りだが、コクリコは意にも返さない。

 怒りのままにマジックカーブによる魔法を使用。

 色彩豊かな魔法が十重二十重となってコクリコに襲いかかるが、華麗に回避し、威力が大した事がないのはミスリルフライパンで打ち払う。


「大したお嬢ちゃんだ。うちに誘いたいくらいだな」


「ハハハ――。もしそうなったら副団長の座がコクリコに奪われるぜ。もしかしたら団長の座もな」


「当然ですとも!」

 コクリコが相槌を打ち、これに加えて本物の魔法をご覧に入れましょうと、貴石を赤く輝かせ――、


「ランページボール」


「おおいいね」

 今回もちゃんと用法を間違えずに発動したな。

 俺たちに累が及ぶことのないように、ファイヤーボールよりも大きな球体がゆっくりと相手側に向かっていき、小さな火球を一帯にまき散らしていく。

 相手側だけに見事にダメージと混乱を与えていく。

 

 ランページボールって、見ようによってはマザーファンネルみたいだな。


「さあ、今です!」

 魔法が消失するタイミングで、コクリコはラルゴ達に突撃命令を出す。

 声に従って息の合った突撃を面々が実行。

 堅守だって伝えたのにな……。

 ――でも心配は無用だったようだ。


 俺が二枚看板なんかを倒している間、一緒に行動していただけあって、しっかりと連携が取れた動きだった。

 短期間で信頼しあい、年下の少女の指示であっても素直に聞き入れて動けるラルゴ達。

 戦いの経験を培っているのは知っていたけど、個の武だけでなく、集団戦闘を主とする兵士の戦い方においても、高い才能を有しているようだ。

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