PHASE-1068【子供二人】

「素晴らしいですね。この国の――特に上の階級の者達がそう思えるようになれば、偏見のない国へと進歩を遂げることが出来るでしょうね」

 と、ここでフード付きのローブを纏った小っこいのが登場。

 やはりこの国で流行色なのか、ローブの色は薄緑。

 フードは目深に被っているから顔は窺えないけども、声で分かる。

 両サイドには作りのいい鎧皮からなるブレストプレートを装備した軽装兵士が二人。

 鎧の質と佩いている鞘の拵えの良さから、ハイエルフの中でも精兵の近衛といったところか。


「お忍びかの?」

 水を飲み干したマグカップに、手酌で酒を注ぎながら問うギムロン。

 先ほどまで振り回していた丸太に再び腰を下ろしてから一気に酒を呷れば、離れていても酒気が届いてくる。


「師匠のお知り合いですか?」


「うん。そうだよ」

 サルタナに答えている間に俺達の側に寄り、フードを脱いで素顔を見せる。

 やはりエリスだった。


「ハイエルフ様ですね」


「はい」

 分かれば直ぐに片膝をつくサルタナ。

 ハイエルフってだけでこういった対応になるんだな。

 テレリと呼ばれる民階級のハーフエルフの少年が、目の前の子供が次の王だと分かれば一体どんな態度になるんだろうね。

 現状でこれだと、五体投地しかないかな。


「ちなみに次の王となる者です」

 コクリコ……。

 得意げに無い胸を反らして言うなよ。


「え!?」

 驚きに続いて畏怖の対象を見る目と変わるサルタナは、片膝だけでなく額を地面にこすりつけるような土下座スタイル。

 小さな体が更に小さくなるほどだった。

 五体投地ではなかったか。

 

 あまりにも素早いその動作にエリスは慌てふためく。

 やめてほしいといったところでサルタナがその体勢を戻すことはない。

 テレリという民階級でハーフエルフ。

 対してハイエルフのエリスは王族のエルダールであり次代の王。

 もし不遜な態度をとってしまい問題となれば、自分だけでなく母親や村の者達に累が及ぶと考えているんだろう。

 

 まったく体を動かさない姿にエリスは困惑しているのか右往左往。

 その動きを目にすれば、


「おい。殿下が良いと言っているのだ。立たぬか」

 護衛のハイエルフの一人が強い語気で発せば、もう一人が無理矢理に立たせようとサルタナに詰め寄ろうとする。

 エリスが二人を止めようとするよりも――俺の方が速かった。


「俺の弟子に何か?」

 サルタナの前に立って二人を威圧。

 これには姉御肌モードのコクリコとギムロンも続いてくれる。


「あ、いや。勇者殿のお弟子殿とは……」


「ちょうどいいや。二刀流の鍛錬に付き合ってくださいよ。ハイエルフ二人って相手としては十分ですからね」

 挑発気味に発せば、


「「い、いえ……そんな大それた事は……」」

 流石はエリスの護衛といったところだな。

 いくら俺が恩人であろうとも、生意気な発言をすれば人間ごときが! といった感情にはならず、しっかりと頭を下げての対応。

 これがポルパロングなんかの部下なら直ぐに表情や態度に出てたんだろうけどな。

 出てたら二刀流の練習相手としてボコボコにしてたけど。

 ――……見た感じ強そうだからボコボコに出来るかは分からんが……。

 

 正直、大人しくなってくれたのはありがたかった。

 この国の皆様とは魔王軍に対抗するために友好関係を築かないといけないから、挑発的な発言は極力避けたいというのが本音。

 でも今回は師として弟子を守る事を優先させてもらう。

 

「申し訳ありませんトール様。僕が来たばっかりに……」

 長い耳が項垂れる。

 ショタ好きを庇護欲でキュンキュンさせること請け合いの悲哀を纏うエリスは今にも泣きそうである。

 昨晩の会食でもそうだったけど、メンタルが弱いよな。この子。

 よくもまあ外の世界に出たもんだよ。


「別にいいんだけどね。それで、なんで村にいるの? というか、次期王がこの程度で泣きそうになるのはどうかと思うぞ」


「はい……」

 まだまだ次期王としては頼りないな。

 誰しも最初は頼りないのは仕方ないことだけどさ。俺がそうだし。

 丸まったサルタナを俺が立たせると、エリスはサルタナへと謝罪する。

 脅かしてしまったことへの謝罪だった。


 護衛のハイエルフさん達はもちろん得心はいってないけども、俺、コクリコ、ギムロンが得心のいってない二人に目を向けていたからか、異を唱えることが出来なかったご様子。

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