PHASE-748【俺の思っている傭兵像からかけ離れている】

「北伐となりますね」

 とても重い声のミランド。

 俺も避けたかったんだけどね。馬鹿息子の馬鹿っぷりが想像の更に上だったからな。

 先生が開戦を考えている時点で避けられないのは確定だったんだろうけど。

 馬鹿息子の人間性もしっかりと熟知していたんだろうね。

 兄二人の死はオフレコみたいだったし。それを知っている時点で先生は公爵側のことを相当に調べ上げているようだ。


「貴様達はこの事を公爵殿に伝えるのだな」


「心得ております伯爵様」

 この会談で分かったことは、禅譲騒ぎに公爵は関係しておらず、十中八九、馬鹿息子による独断専行だろう。

 公爵は歳だというし、野心というものを抱くには遅いからな。

 何かがトリガーになって野心が芽生えた、馬鹿息子の乱心と考えていいだろう。


「いっその事、馬鹿息子だけでも……」

 と、考える冷酷な俺もいる。


「伯爵の時にも言ったが、こういった戦争は正規の手順が大事だ」

 と、ゲッコーさん。

 最後通牒、宣戦布告も無しに戦争を行えば、勝てば正義であっても、王としての戦い方ではない。

 そうなれば対魔王軍への反攻時において、結束力というものが揺らぐ。

 特に今回のように参戦してくれた外様達の士気低下は大きくなりやすく、不利になれば直ぐに戦線を離脱する状況も発生する事になる。


「王とは、王としての戦をしてこそ王なんだよ」

 正面から堂々と受けて立つし、堂々と遠征する。

 だからこそ人々は王に対して尊敬もするし英雄視もする。

 賢君であり、それを維持したいなら王としての立ち回りを常に心がけないといけないそうだ。


「お前たち!」

 ゆっくりと門から出て行こうとすれば、背後から荒々しい大音声が聞こえてくる。

 もちろん馬鹿息子だ。

 横わけは無様に乱れきっている。

 怒気を纏わせてはいるけど、股間部分は未だに冷たいのか内股である。

 何とも滑稽な姿じゃないですか。


 本来なら股間に見合うように、声を震わせて恐怖に支配されているのがお似合いなんだが、周囲に大勢の傭兵たちを侍っているからか、股間の濡れ方に相反して強気だ。

 オンとオフだけのスイッチのような思考は羨ましいな。怖じけるか、強気の二つしかないからな。

 それだけ考えも単純思考で本人は気が楽だろう。股間はびっしょりのくせに。

 単純思考に振り回される周囲は大変だろうけど、現在の取り巻きではその大変さもないんだろうな。

 馬鹿息子と思考が似たような連中みたいだからな。

 

「俺の中での傭兵の格好良さが崩れ落ちるね」


「そう言うなよ」

 と、ゲッコーさん。

 様々な国に傭兵を派遣するビジネスにも手を出している設定だからな。

 でも、だからこそなんだよな。

 俺の格好いい傭兵像は、ゲッコーさん達やラノベ、ファンタジー漫画に出てくる傭兵だからさ。


「アレだと傭兵じゃなく、ただのアナーキーな愚連隊だもん」


「だな」

 ゲッコーさんと二人して馬鹿息子と取り巻きを眺めてしんみりと頷きあう。


「おい! 今ならまだ謝罪とそこの女二人で許してやる」

 恰好の悪いことで……。


「謝罪をする理由がないから、こっちの二人を渡す理由も当然ない」

 バッサリと断る。

 自分の言った通りに物事が進まないのは経験が無いようで、我が儘なキッズみたいに地団駄を踏んで悔しがる姿は本当に滑稽だし、見てて悲しくもなってくる。

 あんな四十代がいていいのだろうか……。


「お前だけは許さんぞエセ勇者!」

 お怒りだ。

 取り巻きの勇者達を俺にぶつけるつもりかな?

 

 それよりも――だ……。

 二人を渡す事を拒絶した事で、ランシェルが俺に対して喜悦な表情を向けてきている……。

 男が男にそんな笑顔を向けられてもね……。

 そんな喜悦な表情を向けられる俺を目にして大層気分を害したようで、馬鹿息子が俺に食指を向けつつ嫉妬の罵詈雑言を吐き出す。

 口角泡を飛ばすとは正にこの事。


 俺としても、ランシェルに潤んだ目で見られても困るんですけど……。

 大きな声で言いたいよ。コイツは男だってさ。

 言ってしまえばランシェルを傷つけてしまう可能性もあるから、口に出来ないという優しい俺。

 でも馬鹿息子のことだ。ランシェルの信実を知ったとしても、構わないとか言いそうで怖いよな。 

 

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