PHASE-260【俺は疾風】

 ――――くだらん語り合いは終わりにする――――か。


「さあ、カーテンコールへと移行しようじゃないか」

 ここからは力と力のぶつかり合いで勝負を決しよう。

 

 俺は強い。間違いなく俺はコクリコより強い。


「何という……ガラス玉のような眼。悪しきカルマに呑まれましたか」

 言いたければ言え。お前を折檻できるならば、俺は黒にも染まるし、暗黒にも沈もう。


「もう一度、言わせてもらう。メチャクチャにしてやる」


「お相手します」


「 Enjoy the Final Battle」

 発して前進。下がることの出来ないコクリコも俺へと挑むために生意気にも足を前に出す。

 双方の足音だけが空洞に響く。それ以外はしじまである。

 誰もが固唾を呑んで見守る姿勢だ。

 足音の間隔が早くなる。歩から駈け足となり、


「インクリーズ」

 言って、更に足を踏み出せば、力が体の中から漲ってくるのが分かる。

 地面を蹴って進む俺の足には推進力が付いたかのような感覚。肉体強化よし!

 続けて――、


「ラピッド」

 発せば次ぎに足を動かした途端に、体が軽くなったかのように足が前に出る。


「卑怯ですよ! 私はまだ使えないのに!」


さえずるな。ならば使えるようになればいいだろう。お前は自信過剰なんだ。思い込みで習得しろよ」

 身構えるコクリコの姿は焦りに彩られている。


「それとも俺がお前にされたような方法で習得するか?」

 ククク……と、仄暗さを込めた嘲笑。

 口端は大いにつり上がっていることだろう。


「そうだ。俺はまだお前に教わったのを発動していないな」

 ギラリと眼光を鋭いものにして、コクリコを見やる。

 

 ここに来るまでに考えていた事を爆発させる時。

 習得時はあまりの嬉しさに、オリジナルの詠唱まで考えようとしていた俺だが、現在は怨敵である眼前の無乳フラッパーの為だけに、憎悪を込めて考えさせてもらった――――。

 

「巨山に怨嗟を宿し、遙か彼方へと続く地平の首魁。大言と妄言を側に置きし狭量の小悪魔よ。汝が術理を我へと示せ。我にその力を貸し与えよ! 拒絶の姿勢をむき出せば、汝を手ずから葬る力を我は汝より略取する! 緋緋色の希少なる金属と伍するその堅牢なる胸部に宿りし力を略取する! ――――タフネス!」


「何ですかその長ったらしい詠唱は! 完全に私のことを遠回りに侮辱していますよね! 巨山ってベルの胸のことでしょうか! 何という破廉恥な!」


「にしては――――、なんだか恍惚としているな……」

 コイツは……。ディスってんのに、俺の考えたなんちゃって侮辱詠唱が琴線に触れてやがる……。

 やはりこの辺りは俺と同類だな。たとえそれが自分にとっての罵声であってもお構いなしなんだな……。

 

 ならば――、


「楽しもうぜ!」

 一気にここで加速。


「来るがいいで――――!? 速い!」

 フハハハハ――――。今のお前では、この俺を捕捉することなど不可能なのだ。

 

 俺は今――、風だ! 疾風なのだ!

 

 接近戦なら俺よりも上であるコクリコをまさかここまで簡単に翻弄できる日がこようとはな。

 

 コクリコの正面へと接近。

 ――したように見せかけて、急停止からの横移動。回り込むようにして動き、翻弄しつつ距離を縮め、攻めを窺う。

 

 いいぞ。実戦経験様々だ。ラピッドの動きに俺の体と目が慣れてきた。

 切り返す動き。本来なら足に負担がかかるが、肉体強化のインクリーズと耐久向上のタフネスの効果でまったくもって問題なし!

 

 急旋回からコクリコの側面を狙う。


「チィ!」

 思わず舌打ち。

 仕損じる。と、いうより攻めを止めさせられた。

 

 相も変わらずウィザードとは名ばかりの、鋭い回し蹴りが俺の顔面に迫ってくる。

 回避に専念する俺。

 

 躊躇なく顔面を狙ってくるところが凄いよ。仲間に対して狙ってくる箇所ではない。


 だがしかし、この疾風の遠坂にとって、その程度のとろくさい蹴りは、最早、脅威とはなり得ない。

 鋭くはあっても俺には届かんよ。

 

 バックステップにより回し蹴りを回避。

 次いで腰をひねり、足を動かす。

 ひねった方向へと足を一歩前に出し、そこからはまたもラピッドによって駆ける。

 

 コクリコを見れば、まだ回し蹴りのモーションを終えていない。

 側面が駄目なら背後だ。


 いまだバランスのとれない片足状態で隙が出来ているコクリコに迫れば、


「くっ!」

 と、苦悶の声を上げながらも、回し蹴りの回転力を活用してから、背後から迫る俺に右ストレート。

 素晴らしい。コクリコ、お前の急場しのぎに放った拳打に対する称賛ではないぞ。これは自画自賛だ。

 並の奴なら今のを顔面に受けていただろう。

 

 思い出す。脇が締まり足と腰、肩が素晴らしく連動した右ストレート。タフネスを習得する時に見舞われた一撃。


 が――、今の俺には無意味な一撃。

 

 体重移動を駆使し、打ち込まれる右ストレートを流し目で見ながら、他愛なく躱し、コクリコの背後に立つ。

 

 ハハッ! 取ったぞ!!


「Have a Nice Fuckin' Day! 」

 くそったれな最高の一日をプレゼントしてやろう!

 

 さあ恥辱に染まれ。衆目に晒されながらお尻ペンペンの刑だ!

 拳骨グリグリコンボはスキップして、いきなり本丸おしりを狙わせてもらう!

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