PHASE-931【ホテルではないのだよ】

 火砲がやんだところで騎馬が疾駆する。蹄の音が主役となる。

 砲火に晒された地点へと駆け、かろうじて残っている的を敵対者に見立て、騎射と馬上から槍を突き立てるというデモンストレーション。

 それに合わせて歩兵担当のS級さんたちがF2000にて掩護射撃を行い、連携の良さを見る者に伝える。

 今までのものに比べれば遙かに絵力はないものの、敵は徹底して攻撃する。

 倒れている者たちにも容赦はしないという意気込みを知らしめるために。

 

 征北と近衛達の意気込みは十分に伝わっているようだ。


「恐怖に呑まれているよ」

 ミズーリの露天艦橋からビジョンで見れば、皆して顔面蒼白。

 家族連れの面々は皆で抱き合うようにしてその光景をただ震えて見るだけ。

 耐えうることが出来ているヨハンの親父さんである子爵や気骨ある貴族。冒険者ギルドの面々も表情は恐怖だし、立っているのがやっとといったところ。


『主殿、終幕といきましょう。この領地が変革する事を伝える黎明の鐘。その鐘が鳴り響く所を私にも見せてください』

 ここで更なるダメ押しとなる強烈な一撃を見せて欲しいと荀攸さん。

 黎明の鐘が鳴り響く。つまりは今現在、召喚されている中で最も高い威力を有している戦艦の砲撃を見せて欲しいということだろう。


 諸侯たちの精神的ライフはもうゼロよ! と、返しても良かったんだろうが、牙を向けることなく、今後のミルド領における政策の円滑化。魔王軍との戦いにおいての全面的な協力。

 なによりも、くだらない領土争いによる不毛な戦いを俺達の力を見せつける事で一気に黙らせることが出来るなら――。


「ラルゴやリーバイ。姉妹のような尊厳を奪われる者たちは出てこなくなるわけだ」

 独白して俺はミズーリの露天艦橋から移動する。

 艦橋ではなく――甲板へと降り立つ。

 そのまま跳躍して隣接する大和へと移乗。

 生身で戦艦から戦艦へと乗り移るってのも経験できないよな。

 ――ラピッドを活かした身体能力で大和の艦橋まで素早く移動し、


「大和、抜錨!」

 と、別にスティック動かせば動くけども雰囲気を出してみる。

 というか、初めての経験なので台詞とは裏腹に、左スティックは甘めに倒す。


「――――なるほどな」

 動いたのはミズーリではなく搭乗した大和だった。

 

 演習の最中、スティック操作により動く戦艦はどれなのかと考察していた。

 ――最初に召喚したミズーリが動く。

 ――最後に召喚したキング・ジョージ5世が動く。

 ――もしくは召喚した戦艦四隻が全て動く。

 といった三択で想定していたけど、どうやらプレイギアを手にして搭乗した戦艦が動くという仕様のようだな。

 となると、艦隊での運用は不可能となるのか。

 ちょっと残念。

 まあ、いいけど。


「その分、本物の戦艦と違って砲弾は撃ち放題だからな」

 しかも自動で装填するからね。ゲーム仕様万歳。

 本来なら乗員三千人前後で動かす戦艦を一人で動かせるってのが強味だからな。

 

 隣接したミズーリにぶつけないようにスティックにて丁寧に操舵しつつ、大和を諸侯にもしっかりと見てもらうために船首を湖畔の方へと向けて進める。

 座礁しないように注意をしないといけないが、


『もう少し前進しても問題ない』

 と、しっかりと調査を済ませてくれたゲッコーさんの指示に従って前進。

 しばらくしてから取り舵とばかりにスティックを左に倒し、右舷を諸侯たちへと見せるようにして停止。

 

 巨大な戦艦が更に近くに来たことで緊張しつつも、薄墨色の神々しさに触発されたのか、ヨハンの親父さん達に冒険者ギルドは当たり前として、腰砕けになっていた諸侯たちの中からも、立ち上がって接近してくる者たちが出てくる。

 中には冷たい湖に足を浸けてまで見る者もいる。

 貴族の中には戦いを経験している者達もいるからなのか、圧倒的な力を持った存在に恐怖よりも心惹かれる感情が勝ったようだ。


「ゲッコーさん」

 主語はなく名だけを発せば、


『その距離なら問題はない。念のために耳を塞がせて口を開けさせとくさ。目を瞑られると力を見せられないからな。目だけは開けていてもらおう』

 衝撃波対策を荀攸さんを経由させて伝えれば、首を傾げつつも水面に近い面々はそれに従う。

 集団心理なのか、離れた位置にいる令嬢や子供たちもそれを真似ていた。

 

 ――では準備が整ったようなので。


「目標はあの山にしましょう」

 雪化粧をした山を目標へと定める。

 湖から大分離れた位置にある山は、山頂と山頂を繋ぐ尾根がある。

 なので目標は尾根の中央に定める。

 着弾点として一番分かりやすいからな。

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