PHASE-568【コーヒーブレイク】

「圧勝!」

 言いつつ両手に持った槍の柄を天井に掲げてから勝利宣言。でもって床にカランと投げ捨てる。

 後半はほぼというか全てをゲッコーさんが片付けてくれた。

 もっと接近してストレンクスン発動しつつの戦闘を経験したかったし、烈火も使用したかったが、いうて驚異じゃなかったからな。

 それに考えもなしにドカドカと力を使用するのは悪手だしな。


 リズベッドがのぞき見行為に対して、遠隔から阻害してくれてはいるけども、絶対ではないだろうからな。

 相手は高位の魔術師であるネクロマンサー。自分のテリトリー内なら間違いなくリズベッドでも対応できない手段を使って、俺たちを監視しているだろう。

 見ていると想定すると、スケルトンや使役しているアンデッドの目と同期していると考えるべきだよな。

 そんな状況下でわざわざこちらの手の内を晒すのはよくない。

 

「怪我してる人いる?」

 ――――皆でお互いを見合った後に、シャルナに全員無事と返す。

 今回はランシェルがいないから回復役はシャルナだけ。

 弓や魔法の攻撃もありがたいけど、出来るだけヘイトが集まらないような後衛で待機してもらいたいと伝えた。

 侯爵からハイポーションとアンチドーテを貰っているけど、ここぞという時まで温存したい。

 怪我を負って敵の第二波に余裕がある場合は、俺が所有しているポーションを使用。

 やばい時はハイポーションだな。

 もちろんこれらは関係が最悪な状態になり、本格的な戦いに発展したと想定した場合だ。


「さて相手方の動きが止まったな。先に進むか」


「進むのもいいですが、小休止ってのはどうでしょうか。ゲッコーさん」


「そうだな。ここは相手のフィールドだ。ジタバタしてもなるようにしかならないからな。堂々としてやろう」

 ――――各自が持参するカップに、ゲッコーさん所有の水筒からコーヒーが注がれる。

 よい香りの湯気に、コポコポと心地のいい注がれる音がリラックスに繋がる。

 手にするカップも侯爵が提供してくれた物の一つ。純銅製のカップは槌目加工による一品だ。

 コクリコとしてはもっと甘い飲み物が良かったようだけど、砂糖をたっぷりと入れてやれば、グビグビと幸せそうな顔で飲んでいた。

 俺も舌はお子様なのでたっぷりと砂糖を投入。

 これにミルクでもあれば尚良しだが贅沢は言わない。

 立ち上る湯気を鼻孔に通す幸せ。深み有る芳香を楽しめば、直ぐに口が欲してくる。

 グッと一口。


「はぁ~温まる」

 温かさと糖分が疲れを体外へと排出してくれる感覚。

 甘みの癒やしで体が弛緩する。

 まったりと過ごす場所からやや後方には骨の山。まあ、要塞での死屍累々の光景よりはいいかな。

 血肉が流れ倒れる床より、ただの白骨が転がっている方が精神衛生上いい。

 転がっている骨同士が急に合体して、究極形態ガシャドクロとかってのになるのは禁止ね。

 勇者シリーズ的な合体シーンなら見てやってもいいけど。


「さて、進むか」

 携帯灰皿に吸い殻を入れつつゲッコーさんが回廊をフラッシュライトで照らす。

 AA-12から再びSG552へと装備を変えていた。


「あれだけの数のスケルトンが一体どこから出てきたのかも知りたいですよね」

 回廊と繋がる大広間なんかがあってそこから来たのか、はたまた地下から這い出てきたのか。

 先へと進んで調べるしかない。

 

 ――――巨城の回廊とはいえ、いい加減、横合いの道があってもいいだろうが、まったくそれらしい道が出てこない。

 新たなる主が改修工事でもしたのか? 

 城の広さとこの回廊の構造からして、このまま道なりに進んでいけば外に出そうな気がする。


「止まれ」

 先頭のゲッコーさんが動きを止める。

 素早く俺たちは周辺警戒。

 チラッとゲッコーさんに目を向ければ、片膝立ちで床に手を当てていた。

 次にはノックするように叩き、


「この下だな」


「よく分かりますね」


「この床だけ四角形に線が入っている。周囲に埃が溜まっているから境目が見えて分かりやすいだろ」

 ゲッコーさんが指さす付近を注視すれば、確かに開きそうな床の形状をしている。

 境目が分かるのは、この部分が最近使われた証拠。

 さっきのスケルトン達はこの床の下から出てきたと考えられる。

 ただどういったタイプの扉なのだろう。開き戸か引き戸か。

 取っ手なんかは見当たらないから、もしかして魔法の言葉なのだろうか?


「オープンセサミ」

 って、何となく言ってみるがリアクションは起きない。


「なんですかそれ?」

 言って損したと思うのは、まな板から嘲笑を向けられる羽目になるってことだ。


「まあ、とりあえず言ってみるよな」


「ですよね。コクリコの無学さには恐れ入る」

 ゲッコーさんが俺側に立ったので、カウンターの嘲笑をコクリコに向けてやった。

 歯を軋らせて悔しそうである。

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