PHASE-385【死人のような顔ですよ】

 ま、いいか。

 上ポジだろうが下ポジだろうが、細けえ事は気にしねえで、甘い一時を堪能しようじゃねえか。

 

 今度は下からのアングルを全力で楽しませてもらうぜ。


「あ、そ~れ」


「!?」

 イメージ的にはバレーボールのトスだ。

 両手でポンとお胸様をトス。

 ――……あれ? さっきと比べて、質量とか柔らかさ、弾力のレベルが段違いでいいものなんだけど――――。

 トスしただけなのに、バインと揺れるお胸様の柔らかさと弾力が、俺の両掌を一気に幸せにしてくれる。


「それもう一度♪」

 これは今までのものより最高だ! もっと堪能しないと。今度は揉む動作も入れよう。

 きっと、妖艶な笑みを湛えて喜んでくれるだろう。

 でも、なんで軍服になってるの? さっきまではエロエロの寝間着だったのに。


「何をしている!」


「へぽいゅ!?」

 ちょっと……、そこはみぞおちですよ……。

 そこを殴られた下手したら死んじゃう…………。


「まったくお前は!」


「こひゅ~……ひゅ、ひゅご、ごめん。寝惚けへへ」

 まともに呼吸の出来ない中で何とか謝った。

 そして、痛みと呼吸困難で、夢じゃない事も理解した。


「毎度、寝惚けて女の胸に手を当ててくるのはお前くらいだ。体を揺り起こすためにベッドに乗らず、蹴り起こすのが正解だった」

 ですよね……。でもって、体を揺り起こす選択をしてくれてありがとう。蹴られるのは嫌だからな……。

 いやもう本当……。夢と現実の混ざり方がスゲえよ。天国と地獄を両方あじわえるのは俺くらいなもんだ。


「さっさと起きろ」


「アイマム」

 このままベッドでくの字のままだと、トドメの一撃が見舞われそうだったので、なんとか呼吸を整えてから起き上がる。


 ――…………。


 ――……?


「ありゃ?」

 なんだ? ふらっとしたぞ。

 急いで起き上がろうとしたから、立ちくらみでもしたのかな?

 何とか踏ん張ってベッドから床に両足をつけるも、


「あららららら……」

 とっとっとと、バランスが定まらない状態だ。

 足がもつれれば当然――、床に転ぶわけだ。

 ふんわり絨毯のおかげで痛みはない。


 なんだろう。足に全く力が入らない……。

 インフルエンザのきつい時に似ているな……。

 インフルエンザの時のように熱で朦朧としているわけではなく、意識がしっかりとしている分、余計にだるさが伝わってくる。


「何をしている? 夜更かしでもしていたんだろう」


「いや、そんな事はないよ」


「まったく、鏡を見てみろ!」

 まくし立ててくるので、逆らわないように従おう。

 ベッド横のナイトテーブルに体重を預けながらなんとか立ち上がり、寝室にある姿見に自分を映す。


「…………げ!?」

 何じゃこりゃ! どうしたんだ俺!?

 徹夜三日目みたいな顔じゃないか。

 目の下にはどす黒いクマもあるし、顔も青白い。

 でもやっぱり意識はしっかりとしている。徹夜後のぼやけた頭ではなく、しっかりとしているからすごく変な気分だ。

 こんな経験はいままでにない。


「大丈夫なのか?」

 みぞおちを殴るベルでも流石にただ事ではないと思ったのか、心配の声だ。


「いや~どうなんだろう……。こんな経験ないよ」

 こんな状態だったから、蹴り起こす選択が除外されたんだろうな。

 なんだかんだでベルは優しいな。みぞおちはしっかりと殴られたけど。


「いままで経験が無いなら、この地特有の風土病かもしれんな。隔離しないといけないかもな」

 

「なにそれ怖い……」

 隔離とかなんか軽く言ってるね。


「……勇者の声じゃないな……」

 呆れないでくれる。


「ふん!」

 裂帛の気合いと共に踏ん張り、意識をしながら立てば問題はない。

 ふらっとするが、歩けないということはない。


 


 ――――いつものように大広間で朝食を取って一息つけば、体もかなり楽になってきた。


「風土病というより、土地が変わって体が不調をきたしているのかもしれません」

 ランシェルちゃんが姫との会話時にも出してくれたハーブティーを注いでくれる。

 だるい体をシャキッとさせる緑茶のような渋味と、ハッカのような爽快感のある味はありがたい。


「ゆっくりと体を戻していけ。俺にも頼む」

 あら、このハーブティーは気に入ったのか、ゲッコーさんももらっている。

 

 気候や水が変われば体調を崩すって話はきくもんな。

 そもそも俺の場合、土地どうこうじゃなく、住んでた世界が違うからな。

 だとすると、王都でも同じような症状が出てもおかしくはなかったんだけどな。

 今まで一度もそんな症状は出なかったよな。

 

 王都と違って、こっちは豪勢な食べ物が多く出たからな。その中で俺の体に合わないのがあったのかもしれない。

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