PHASE-386【散策に出る】

 更にシャキッとする為に、ハーブティーを薬のように、グッと呷る。

 

 出来た女の子であるランシェルちゃんは、俺が一気に飲むと分かっていたのか、あえてハーブティーの温度をぬるくしてくれていた。


「どうぞ」

 空いたカップとは別のカップが俺の前に出される。


「ありがとう」

 カップに触れなくても湯気の立ち方で、さっきよりも熱いというのが分かる。

 二杯目はゆっくりと、味や風味を楽しんで欲しいということだろうな。

 秀吉と光成の三献茶の話みたいだ。


 謁見の間で飲んだハーブティーのほうが、独特さで勝る味だったな。

 味としてはこっちの方が好みだけど、最初に飲んだのは妙に癖になる味だったな。

 またあれが飲みたいと思う気持ちもあるが、今はこの脱力感を払拭させたい。

 となれば、こっちのハーブティーがいい。シャキッとなるのは断然こっちだ。 

 二杯目をゆっくりと口に含み、嚥下。

 温かいのを胃の腑に渡らせれば、不思議と疲れも緩和されたような気がする。


「――――よっしゃ!」

 気合いを入れてつと立てば――――、うむ。問題ない。

 ご飯とお茶と、ランシェルちゃんの笑顔で俺は元気だ。

 

 と、自分に言い聞かせないと、違和感と脱力感をぬぐい去ることが出来ないのが現実だけども。


「街ブラしようぜ!」

 疲れを感じさせない快活な声を発して、先頭切って大広間のドアに向けて拇指を立てる。


「普段見せる事のない快活さ。確実に無理をしていますね」

 いちいち言わんでいい。

 コクリコは空気は読めないくせに、こういうのは察しがいいのな。 

 もう少しその辺のパラメーターを忖度に振り分けられればいいのにな。

 そんな設定が無い世界で残念だよ。





「ふぅ……」

 テンションを上げてみても、やっぱりしんどいぜ……。

 この土地の水が合わなかったのかな~。

 原因を思い返してみても全く分からん……。


「大丈夫か?」


「うん、まあ」

 流石にベルも心配してくれるか。

 というか、ベルが心配するってことは、実をいうと結構やばいのかな?

 それとも、みぞおちの一撃を申し訳ないと思っているのかな?

 

 屋敷を出る時は、ランシェルちゃんが案内をすると再度申し出てきたが、やはり前日同様に、ゲッコーさんがバッサリと断ってしまった。

 寂しそうな表情が脳裏にこびり付いるんだよね。

 それを振り払うように頭を振ってから、小高い所に立ち、一帯を眺望する。


「凄いな」

 素直に感嘆の声が漏れてしまう。

 

 城郭都市ドヌクトス――――。

 

 魔王軍の侵攻がないとはいえ、これだけの栄華を極めているのは、この大陸でも類を見ないかもしれない。

 

 古くからある建物の風化具合が、歴史を伝える貴重な存在となっている横では、新しい様式で造られた建築物が存在する。

 昔のが角張っている建物なら、新しい建築物は流線型だ。

 車の進化みたいだな。

 俺が生まれる前の車は角張っていたらしいが、今は流線ボディが主流だからな。

 ここでも同じような進化を車ではなく、建物が遂げている。

 

 大通りから続く煉瓦造りの建物の煉瓦は、隙間なく丁寧な造り。

 妥協を許さない景観美。

 それを損なわないためなんだろう、道ばたにはゴミなどが捨てられているという光景はない。


「冒険者もいるんだな」


「当然いるだろうな」

 独白のつもりだったが、ベルが拾ってくれる。

 言うように、いて当然なんだよな。

 

 佩剣している冒険者の屈強な筋肉を日焼けした肌が彩り、逞しさを強調している。

 俺のとこのギルドメンバーと変わらない風体だ。


 魔王軍がいないのに冒険者がいるんだな。と、考えていたが、普通にモンスターなんかの被害は出たりするから、活躍の場はあるわけだな。

 

 装備もクオリティが高い。

 素材や鉱物なんかも安定して手に入るようだ。

 良質な装備を身に纏い、笑みを湛えて乾杯。

 乾杯を合図に、真っ昼間から酒宴が開かれる。

 屋外に設けられた樽で出来たテーブルの一面には、酒だけでなく、肉がメインの食事が並んでいる。

 あれだけの量を楽しめるのは、懐に余裕がある証拠だ。

 

 ようやく赤貧から脱した俺たちのギルドでは、あそこまでの贅沢は出来ない。

 王都と比べれば、ドヌクトスは冒険者の豊かさも上を行く。

 でも、実力では負けないぞ! と、食事を楽しむ冒険者達を見ながら、俺は心底で述べる。

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