PHASE-977【聖戦ってなんだよ……】
何という蛮行を実行しようとしてんだよ!
冗談ではない!
この地に魔王を超える破壊神を爆誕させるわけにはいかない。
魔王系はリズベッドとショゴスだけで間に合ってんの! 三人目なんて必要としてないんだよ!
破壊神の出自が勇者のパーティーからなんて笑えねえよ……。
虎の尾を踏んではいけないのに、あいつ等の行動ときたら……。
「おいおい……」
流石のゲッコーさんも後退り。
ビシビシと大気にヒビが入っていく幻視に襲われる俺。
多分だけど、俺だけでなくゲッコーさんやS級さん。リンのような強者にも見えていることだろう。
もちろん大気の震えを感じたのは相対する連中だって同じだ。
自分たちを強者だと思っているだけの実力と自負があるだろうからな。その辺りは敏感なはず。
だからこそ、新たにデザインされた愛らしい公爵旗に向けていたスタッフを下ろしたんだろう――シェザール。
「おい――」
おっと最強さんが俺達の列から一歩前に出たよ。
ある意味、俺達が何もしないでも戦いは終わるから楽にはなるだろうけどもさ。
見てよ。さっきまで嘲笑の大音声を上げていた連中がピタリと笑いを止めたよ。
これが真の強者というものですよ。
剣を振らずとも、ただ一歩前に出て、おいと発するだけで黙らせることが出来る。
圧倒的強者。
「いま貴様は、何をしようとしていた――」
最強さん、更に足を一歩前へと動かせば、対面する連中は背筋を伸ばす。
更に一歩前で一歩下がるといった動き。
「な、なんだこの女は!?」
団長補佐という立場の二人が完全に気圧されている。
屈強な体躯であるガラドスクは萎縮して体が小さく見えるくらいだった。
ガリオンが萎縮してたんだ。それと互角の立場の二人が萎縮するのは当然と言えば当然。
団長である鉄仮面もしっかりと気圧されている。仲良く足を一歩下がらせたのはしっかりと見させてもらった。
俺やコクリコを相手にするなら強気にも出られるだろうが、不運にも一番怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったな。
「おいトール。止めろ」
「ええぇ……。このままベルが終わらせればいいじゃないですか」
「それだとお前やコクリコの成長に繋がらないだろう」
こんな状況でもゲッコーさんの俺に対するスパルタはぶれない。
というか、今回はコクリコも込みなのね。状況を知らされてないナカーマ同士だったからな。
今は面影もないけども。確かに目の前の集団は、強者たちからなる集団。
ああいった手合いとしっかりと戦うことで俺だけでなくコクリコ、更には私兵であるラルゴ達の成長にも繋がる。
だからこそベルには出張ってほしくないのがゲッコーさんの考えだろう。
本来はベルもその考えだったんだろうが、愛らしい旗を馬鹿にされたからな……。
「まったく。無駄に怪我人とか出ないようにするには、このままベルに任せるのがいいのに」
ぶつぶつと不満を零しつつベルへと近づく。
正直、俺が一番、緊張するポジションだ……。
声の調子を整えるために咳を一つ打つ。
「あの~ベルさん。相手はお馬鹿なんだからあの旗の価値が分かっていないんだよ」
「あの旗を見て価値が分からないのならば、その様な目は不要だな」
「なにその恐ろしい発想」
くり抜くのか? 焼いてしまうのか? もしそうなら恐ろしい独裁者のような思考なんだけど。
独裁者というより、妲己だろうか……。
「いやいや、安い挑発だろ。さっき俺にそう言って小突いただろう」
「トール。お前は愚か者か?」
「いや。現状、挑発を受けているベルが愚かだと……」
――……自分でもビックリ。
ベルに対して愚かって発言できたよ。
語末に進むにつれて弱々しく発したけどさ。言えたことが凄い。
「私が愚かなら、お前はそれ以上の愚者だ。いいか、旗を燃やそうとしたのだ。公爵旗を! この地の領主の旗を燃やす。即ち戦争行為だ! 聖戦だ!」
「聖戦て……」
ベルの声は怒気の塊。
声に当てられて相手側は完全に尻込みしている。
でもね――ベル。これが先日までの公爵旗のデザインならそんなに怒ってないよね?
自分がデザインしたゴロ太をモチーフにした旗だから怒ってんだよね。
ベルにとってゴロ太は神聖だからな。だから
ガチでゴロ太のためなら世界を敵に回しそうだな。
「絶対に許せん! 私のゴロ太を侮辱するとは!」
――…………回すな……。間違いなく回す……。
今までで一番って思えるほどにお怒りなんだもの……。
十全の頃のベルだったら、一振りで大魔法を余裕で超える炎の津波を放って終わらせてるな……。
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