PHASE-91【海賊じゃねえ……。ただの変態集団だ……】

 俺は遮蔽物に隠れて、荒魂あらみたまの如き火球が静まるのを待っていた。

 その間に思っていた事は、盾が欲しいという思いと、沸々と沸き上がる怒りだった――――。


「この馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁ! 俺たちまで狙ってどうすんだよ。これは明らかに敵がいるところにだけ使う魔法だろう。乱戦とかでは絶対に使っちゃいけない魔法だ。危うくFFフレンドリーファイアになるところだったじゃねえか!」


「フレンドリーファイア――――、素敵な語呂ですね」

 何だよ語呂って、何を変なところで琴線に触れてんだよ。


「ああもう!」

 あれだけ宿には当てるなって言ったのに! 本当に信頼できない奴だったよ!

 所々に火がついている。広がる前に叩いて消していく。

 ――――消火がスムーズだったのも、ランページボールが暴れ回る最中でも、俺と違って、ベルとゲッコーさんが混乱する海賊たちを全てダウンさせていたからだ。

 この二人は本当に頼れる。現地民のクレイジーウィザードとは天壌の差だ。


「――――覚えたての試験的な運用でしたが、上手くいきました」


「この現状を目にしろ! 何が成功だ!」

 拳骨を見舞ってやろうと思ったら、ひらりと避けられた。くそ! 武闘派ウィザードめ! 無駄に体捌きが優秀だな。

 こんなのをパーティーにいつまでも置いていては累が及ぶ。


「圧勝にして快勝! 我らの伝説はここよりはじまる!」

 ――……なんとしても内のメンバーから卒業という形で、ソロ活動していただこう。

 ソロ活動をしてもらいたいコクリコだが、自前の雑嚢から小瓶と羽根ペンを手に取れば、掌サイズの羊皮紙の束も取り出す。

 羊皮紙の切れ端を紐でまとめた手作りのメモ帳のようだ。

 主婦がチラシの裏を活用するのに似てるな。

 キュポンと小気味のいい音。小瓶の蓋を取って、羽根ペンの先端を付けている。インク壺か。よく蓋がされているとはいえ、結構、機敏に動くのに、小瓶の蓋は外れないもんだな。

 覗き込めば、本日の迷惑と書いて、活躍と読む功績を軽妙な筆致で自画自賛している。

 ――……大半が自分の魔法で、百からなる海賊を討伐したと記されている……。

 よくもまあ、ここまで話を盛れるもんだ。

 よし! こいつが自伝を出したら、同時期に暴露本を出してやろう。発狂する姿が目に浮かぶ――――。


「宿の中はクリアだ」

 手早く宿全体を確認してくれるゲッコーさんの万能さは偉大である。

 で、宿の前には「ぐぬぬ……」と悔しそうな海賊たちをロープで拘束。

 数えれば、二十六人。予想より十人くらい多かったな。

 こんな屈強な連中を前にして、俺は怯むことなく挑んで討伐できた。

 これで有頂天になれば、次は死ぬんだろうな。フラグを立てたくないので、俺TUEEEEの精神は虚空の彼方に消し去ってやろう。


「愉悦に浸っているみたいだが」

 有頂天になるつもりはないが、俺の顔はにやけていたようで、呆れ口調のベル。

 俺の時とは違い、ぐぬぬと声を漏らしていた連中は、赤髪の美人を凝視している。

 一人以外……。

 その一人は、コクリコを眺めていた……。

 この海賊どもは、負けるべくして負けたんだと思えるよ。


「これからお前等の仲間が船で来るだろう。何人で来る?」

 ここは強気にと、命令口調で聞いてみれば、


「け!」

 と、第2行第4段で返してきた。唾を吐くというオプション付きだ。

 足元に着弾したそれは、大層に粘度の高い唾じゃった。というか、痰だな。靴に当たらなくて良かった。


「汚らしい!」

 唾を吐いたと同時に、綺麗好きに定評のあるベルさんが、無慈悲な蹴りを痰を吐いた男の顔側面に見舞う。

 拘束されて身動きがとれないまま倒れれば、下卑た存在だと、ヒールの高いブーツで顔を踏みつけ見下すスタイル。


「「「「羨ましい……」」」」

 本当に……、負けるべくして負けてんだよ。お前等……。

 おい! ロリコンだけかと思ったが、残りの奴らはただのドMじゃねえか!

 ベルの行いはただのご褒美ですよ。

 流石のベルも、シンクロする海賊たちには引いたのか、ゆっくりと足をどけていた。


「そんな! 無慈悲な!」

 もっと続けてくれと哀願する変態。

 踏まれることが慈悲なのかよ……。ベルは更にどん引きである。

 ここまでベルをたじろがせた奴は、この世界に来てから初めて見たかもしれない――――。

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