PHASE-92【ラウンド2】

「まったく。海賊なら賊らしく夜に活動しろよ……」

 この世界の敵性は健康志向なのかと思ってしまう。

 ご都合的に昨日の今日とは聞いていたが、まさかこんな早朝とは……。

 眠いったらありゃしない。大きなあくびを一つ。

 ――――昨日は捕らえた海賊たちが、ベルに拘束されることで喜びを覚えていたから、現実に戻ってもらう為に、ゲッコーさんに出張っていただく。

 伝説の兵士式拷問術で、海賊の一人の関節を外しまくり、万国ビックリショーもビックリな軟体人間が誕生。

 目の前でその行程を見せられていた、残りの海賊たちは一斉に血の気が引いたのか、我先にと、簡単に口を開いてくれた。

 軟体人間になる以上に、ハリウッディアンが似合う男になぶられても嬉しくないから、口も緩くなったんだろうな。

 ――――朝霧が支配する海を眺める。

 俺たちの活躍が知れ渡り、期待を込めた視線と共に、住人たちが物陰からこちらを見ている。

 家にずっと閉じこもっていたのにな。

 見ると、結構な人数だ。これだけの人数がいても、二十六人の海賊を恐れたわけだ。

 だが今は、手に銛を持ってる人もいる。

 好機となれば、俺たちと一緒に戦おうと思っているようだ。辛酸を舐めさせられた報復に、漁で使用する物を武器としている。

 最初の頃の王都の住民とは違うな。まだまだ心を芯からは折られていないご様子。


「期待の視線を浴びせてきますね~。新たな伝説の歴史が、また、一ページ」

 やめて、【銀河の歴史が――】的な言いかた。

 自分の自伝をさらに嘘で塗り固めたいのか、ギャラリーにはしゃぐコクリコ。

 命にもかかわるという場なのに、暢気なものだ。


「さて」

 てくてくと、眺めている人達の方に歩めば、町の長であるおじさんもいる。


「危険だから、決してその銛で活躍しようとしないでくださいね」

 俺たちに任せておけとばかりの声音で伝えて戻れば、ベルがご満悦だ。民を巻き込まない戦いを考えられる者は、正義だってさ。

 照れるぜ。好感度ポイントが上がるのが、脳内で響き渡るぜ。

 反対に、衆目が無ければ目立っても意味がないと、十三歳はご機嫌ななめ。

 コイツとは海賊とのいざこざが終われば、本当にお別れしよう。


「――――ん?」

 海へと目を向けていると、朝霧の中に、ぽぅっと淡い灯りが現れる。

 続いて新たな灯りが最初の灯りの両サイドに現れ、霧の中に大きな影が出現。

 影が船の輪郭を描いていると理解するのと同時に、帆船がはっきりと眼界に現れる。


「海賊然だな~」

 ボロボロの帆には、鬼のようなドクロマーク。

 船首部分にある船首像は、全身骸骨のオブジェクト。


「巨大なバリスタが船の両舷に備わっているな。槍のような矢が側に備えてある」

 槍みたいな矢?


「まるこい石じゃないんですか?」


「ああ、投石機はないな。全長三十メートルクラスのキャラベル船の装備は、大型のバリスタだけのようだ」

 双眼鏡で船を調べるゲッコーさんが詳しく説明してくれる。

 てことは、また別の装備の海賊船がいるってことか。


「もし戦いになっても、相手は木造ですし、ゲッコーさんのロケラン系の武器を使えば難しい相手ではないですね」


「まずは様子見だ」

 そう言って、港を見渡せる小高い防波堤に身を隠しながら眺める。

 俺の発言どおり、住人の皆さんは一斉に安全な所へと身を潜めた。

 ――――ゆっくりと海賊船が港へと接岸する。板が船から出て来ると、それを渡り、海賊たちが港に足をつける。

 あれ? 俺は双眼鏡は使用していないが、海賊たちがよく見える。

 百メートルほど離れているが、海賊たちが手にしている利器まではっきりと分かる。

 ゲームばっかりやってた時とは違いすぎるほど、視力が上がっている。

 文明の光に晒されなくなった俺の体は、逞しくなっている模様――。


「おい!」

 でっかい声がこちらまで届く。

 いつもだったら港に、駐在している海賊たちが迎えに来てるんだろうけど、あいつらは後々の奉仕活動のために、この町の牢屋にぶち込んでやってるからね。

 何かがおかしいと思ったようで、手にした得物を構えながら周辺を警戒し始めた。


「ぞろぞろと出て来るぞ」

 四十人くらい。宿の倍だな。


「相手の警戒が更に強くなっているな」

 ゲッコーさんが言うように、全体を警戒するように見回している。

 このままだと不審がって宿まで一気に進み、状況を把握したら暴れ出す可能性もある。

 そうなる前に制圧したいという考えを口にすれば、ゲッコーさんは首肯で返してくれる。


「行くか」

 剣の柄に手を添えるベル。いまにも飛びかかっていきそうである。


「行きましょう!」

 快活良くコクリコが応えた。

 つと立ち、青い石が輝くワンドを海賊たちに向けている。先ほどの宿での戦いの高揚感が、いまも尾を引いているご様子。

 女性陣は好戦的である。

 俺も仕掛けるのは賛成だが、できれば隙を突くような戦いを狙いたい。

 動き出して町中に入ったところで、後方から襲いたいんだが……。

 二人が今にも動き出そうとしているわけだ……。

 ――――港での強襲戦か――。


「しかたねえな~」

 ゆっくりと腰を上げる。

 相手が警戒しすぎて、船に戻るって選択もあるからな。

 船に乗り込まれると面倒だから、早い内に叩くのも正解か。


「俺が遠距離から眠らせていく。混乱したところを突けばいい」

 ゲッコーさんが選択したのは、Kar98kの麻酔銃。

 麻酔銃バージョンは、ゲームオリジナルのものだ。

 俺の選択する銃器は本当にマニアックだよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る