PHASE-721【東郷重位先生。変な広め方で本当にごめんなさい】

 ――――ベル達が開店を考えている店から出て、一人で目抜き通りを歩く。

 天高く昇る太陽が王都を照らす時間帯。

 今は人通りの寂しい大通りだけど、それにも負けないくらいに市井の皆さんは活気に溢れている。

 本来なら今以上に騒がしいんだろうけどね。

 だが心配無用とばかりに、ある方角から響いてくる声が市井の活気と混ざり合う。


 ある方角とは、ギルドハウス裏の修練場。

 俺が広めてしまったなんちゃって示現流が今も尚、盛んに行われているようで、大通りが普段より静かな分、猿叫がよく聞こえる。

 

 一撃に全身全霊をかけるスタイルは、大型モンスターを相手にする時、大きなダメージを与えるのに適していると人気。

 先生が言うには、勇者が修練していたということから広まったが、実際にやってみれば、新兵やギルドの新米たちが戦闘にて即戦力になる剣術だと評価を受けたそうで、王都で兵たちに支給されている戦闘教本も一新され、剣術においては、最初になんちゃって示現流が記されているくらいだそうだ。


 実際の示現流も、農民を直ぐさま戦える兵士に仕立て上げる事が出来るから、実戦剣術最強とも言われているんだよね。

 農民の場合、示現流ではなく自顕流だったかな?

 とにかく農民にも分かりやすく上から振り下ろすを徹底させることで、一の太刀を疑わずに、防御を考えさせずに打ち込ませる。

 ある意味、玉砕にも近い戦い方を強いるような――死兵のような戦い方を体に染みこませる剣術でもあるな。


 そういえば、捨てがまりも薩摩だな。

 俺は自分の覚悟と実戦に適した剣術はなんだろうと思案してやっていただけだったのに、いつの間にか王都では主流になってしまったな……。

 

 知らず知らずだが、死兵に変えているみたいで申し訳なく思ってしまう。

 反面、臆病風に吹かれていた兵士たちに活力を与え、ホブゴブリンの軍勢に対し猿叫にて突撃し、撃退にまで至ったのも事実。

 なんちゃって示現流が戦意高揚に繋がったことは自分でも評価したい。


 離れた位置からでも気の狂ったような声が上がり、立木打ちを朝から昼にかけて頑張っている皆の声に俺自身も鼓舞されていく。

 朝三千。夕八千。てのはやりたくないけどね。


 ――――西門から中央広場まで徒歩で来てしまった。

 こんな事ならダイフクに乗ってから来るべきだったな。


 などと考えていれば、ガラガラと激しい車輪音と蹄の音が響く。


「どけぃ!」

 と、怒号が継ぐ。


「おん?」

 見れば四頭立ての馬車が疾駆。

 方角は北門から続く大通り。


「まったく。速度違反とかで取り締まる法を作らないといけないな」

 見たことがない豪華――といっても侯爵のとこには負けるが、ワインレッドカラーの馬車が速度を落とさずに中央広場まで来れば、馬首を東へとめぐらす。


「あのまま進めば王城だな」

 見たことのないタイプの馬車。

 旅商人や旅人は現在、王都への入京は不可能。

 北側の大通りからだったな――。


「もしかすればってやつだな」

 これはギルドハウスに戻るより、王城に向かった方がいいかもな。


 ――――ほらね。


 しばらくすれば目の前から駆け足の兵士。

 鎖帷子とショートソードのみの軽装な兵士が俺の姿を目にした途端に猛ダッシュ。

 いきなり斬りかかってこないよ……な? と、思えるくらいに気合いの入ったダッシュだった。


「勇者様!」

 鎖帷子だけとはいえ、金属を身に纏って猛ダッシュ。その前も駆け足だったようだけど、息切れ一つしてないじゃないか。

 これならオークと一対一で戦うことになっても、問題なく対応できそうだ。

 最初の頃は、オーク相手に後ろ袈裟で無惨に事切れた方々が多かったからね。


 ――――兵士たちに感心する中で報せを聞き、直ぐさま王城まで移動する。


 街中でピリアを使うことは中々なかったが、ストレンクスンとラピットを使用して疾駆すれば、異常な速度で走る俺を住人の方々が驚きの表情で見ているのが流れる風景として入ってきた。

 俺も一般レベルと比べれば、尋常ならざる体になってしまったな。

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