PHASE-720【モフモフ補充】

 ここに突っ込まれているのも今日中に研ぎ終えろと胴間声が響けば、若者は負けじと快活な返事を響かせる。

 無造作に樽に突っ込まれた研がれていない剣は傘立てをイメージさせる。

 そんな剣を一振り手にし、見渡す。

 無骨で拵えもない粗製な数打ちだけども、ドワーフたちが打った剣はそう簡単には折れない。

 無造作に入っていたけど、丁寧に樽へと戻し、


「ギムロン。ゲッコーさんはまだ蔵か?」


「だろうな。王城から帰ってきた夜には蔵に入って、ビールの味見をしとったぞ」

 思い思いな時間を過ごしているね~。

 王様たちとの話し合いが終盤になれば、ベルもそわそわしてたもんな~。

 ドヌクトスにヴィルコラクキッズ達がいてくれたとはいえ、王都までの帰路はノーモフモフだったからな。本命が王都にいる以上、溜まりに溜まったモフモフロスを昨晩から現在にかけて解消中な事だろう。


 ――――ふむん。


「ね」

 はたして正にだな。


「勇者様」


「おおゴロ太!」

 昼前。

 ギルドハウスの斜向かいに新たに建てられた建物の中では、ベルが幸せそうな表情でモフモフ達に囲まれていた。

 俺の登場に、特等席ベルの膝上に座っていた純白の毛に覆われた、赤いマフラーを首に巻いたマヨネーズ体系が飛び跳ねて俺へと駆け寄れば、以前に俺がコクリコに怒りを覚え地団駄を踏んだことを踊りだと勘違いして真似をしていたが、今回も俺の前で可愛らしく踊り出す。


「久しぶりだな。頑張ってたか」


「うん。頑張ってたよ」


「相変わらず渋い、いい声だな」


「ありがとう♪」

 愛らしさと乖離した声だけど、動作が可愛いのでいいか。

 ちょっとベルの視線が痛いが……。

 ゴロ太を愛してやまないベルなんだけど、当のゴロ太の中では――、俺>ベルのようだからな。

 なので俺がいれば、俺の方に懐いてくる。


「ゴロ太……」

 何とも悲しい声だな……。

 普段の凛とした姿とは別物だぞベル……。


「そういえば、ゴロ太が俺に作ってくれたナイフに何度か救われたんだぞ」


「本当に!」


「ああ、窮地に陥った時、敵の攻撃を絡め取って防いだんだ」


「わあ~」

 凄く喜んでくれるのが可愛かったので、頭をグシグシと撫でて上げれば、更に喜んでくれる。

 にしてもこいつ、全然、成長しないよな。

 ずっと子グマのままって何なんだろうか? ファンタジーな世界だからかな?


「こら! 乱暴にするな。撫でるならもっと優しく」

 って、ベルが言っているけども、当のゴロ太は大喜び。

 愛玩のその姿にベルはますます俺に対して拗ねた表情。

 レアな表情なので俺としてはご褒美だな。


「で、シャルナも一緒になって何やってんだ?」

 これ以上ベルを不愉快にさせると俺に対する好感度が下がるだろうから、ゴロ太を抱っこしてからベルの膝上に乗せて上げる。


「トールが考えていた可愛らしいお店の事をね」

 シャルナが羊皮紙に描かれた建物の図面を見せてくれる。


「ああ。この建物ってそうなのね」

 新しく建てられた木の香りはデトックス出来る空間。

 そこで愛らしいゴロ太やコボルトの子供たちが楽しくお菓子を食べる光景。

 愛らしい者達を眺めながらお茶をしたり、一緒に食事を楽しむというのを現状ベルとシャルナが堪能しているわけだ。

 主にベルがゴロ太たちにお菓子を食べさせているだけだが。


「ふ~ん。マドレーヌみたいなお菓子まで出回るようになったんだな」

 ギルドハウスでも当たり前のようにベーコンが出回ってたし、更にはお菓子も出回っている。

 本当に素晴らしい発展だ。


「それだけではないぞ。良い茶葉もだ。ドヌクトスのものに比べれば品質は劣るが悪くはない」

 ゴロ太が自分の膝上に戻って満足なベルが、普段は見せない嬉々とした表情で答えてくれる。

 

 現状、小麦粉は王都で手に入りにくいものだが、鼻が利く旅商人が別の場所から小麦粉を持ってくれば、大金を手にすることが出来るからと、王都と流通が可能な町村から小麦やバターなんかを買い取り、街商で売りさばいて大儲けしているという。

 ある所にはあるようだね。

 まだまだ狭い範囲だが、流通も広がりを見せている。

 現在は北が原因で停止してしまったけど。

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