PHASE-1647【あえて目立たせるそうな】

「どうでしょうかオルト殿?」


「俺なんかよりも人を見る目がある才女が賛同しているので、是非とも協力をしてもらえればと思っています」


「それは何より。では――」

 失礼して。と、俺たちが占拠しているソファに腰を下ろせば、


「まずはオルト殿たちが何を求めているのかを教えていただきたい」


「探し物をしています」


「探し物ですか?」


「はい」


「それを探すために監視の強いあの場に入り込みたいとお考えで?」


「その通りです」


「なるほど。問題なく協力できますね」


「本当ですか」


「もちろん」

 柔和な笑みで顔のシワが更に深くなる。

 前髪がやや寂しくなりつつある金髪の老人。

 出会って半日程度ではあるが、ミルモンの判定で信頼は出来る。

 探し物が何なのか? といった詮索をしてこない配慮もありがたい。


 ――だが相手は隠居したとはいえ商人。しかも豪商としてロイル領に名をはせているとなれば――、


「見返りは?」


「先ほども述べましたが、貴方方との関係性を強くしたいだけですよ」


「ただ者ではないと言ってはくれますが、確信があるから近づいて来たのでしょう?」

 審美眼だけでここまで協力を申し出てくれるなんてのは考えられないからな。

 

 問えば老公が目を向けるのは――ベル。


「傾国の美貌。そして艶やかな白髪と翠玉の瞳。王都の話は当然ながら言葉となって伝わってくるものです」


「なる――ほど」

 美姫と称される最強さんの噂は大陸に広がっているか。

 まあそうだよな。日和見を決め込んでいる連中を魔王軍との戦いに参加させるために、先生がいろんな事を言葉に乗せて大陸に広げているんだもんな。

 ベルの風貌だって広がってて当然か。

 美姫の傍らで共に戦おう! ってキャッチコピーで広めてたのかもしれない。

 その辺は全部、先生に丸投げだからな。


「別人という考えは?」

 と、ベル。


「貴女様のような美貌を持つ御方がそうそういるとは思えません。何よりオルト殿が、なる――ほど。と、肯定してしまいましたからね」


「ぬぅ……」

 言い返せねえよ。


「話を進めてもよろしいですかな?」

 柔和な笑みを崩す事はない。

 皆の意見をとばかりに目配せをすれば、そろって首肯が返ってくる。


「どうぞ」

 

「先ほどもそうでしたが、全体の意見を尊重するのは美徳ですな」

 商人に向いていると老公。


「で、爺さん。俺たちにどんな助力をしてくれるんだ?」

 ズイッと老公へと顔を近づけるガリオン。


「製造所の内部にて自由に動き回れるという権限はどうでしょう」

 現状、最高の提案をすっと提示してくれるね。


「大いに助かります!」


「そう言ってもらえて何よりです」


「それで、どうやって自由を得る事が出来るのです?」


「皆様には私の護衛を請け負った冒険者となっていただきます」

 ――豪商の護衛として随伴か。確かに動きやすそうだ。

 製造所の職員も老公には低頭スタイルだったからな。かなりの自由がききそうだ。


「なんの偶然か。それとも必然か。明日、貴方方が訪れたい場にて大々的な催し物があります」


「催し物?」

 ――老公が言うには大きな成果を得たということで、これまで協力をしてくれた方々には是非とも参加していただきたい。という書簡が送られてきたそうだ。

 内部の警戒が強まっているから何かしらのお披露目があるのかもな――と、ガリオンが推測したけど正解だったようだ。

 

 しかし、なんてご都合なタイミングなのだろう。

 老公が言うように、必然と思えてしまうよ。

 

 そして、その必然ってのはゴロ太と関係している可能性があるかもしれない。

 催し物――喋る子グマのお披露目ってことだろうか?

 でもそうなると、大きな成果を得たという部分には当てはまらない気がする。

 ゴロ太はメインイベントのための前座ってところだろうか?

 

「ご老公。その催し物はどういった内容なのでしょうか?」


「我々を驚かせたいようで、具体的な事は書簡には書かれていませんでした」


「そうですか。ですが製造所内で自由に動けるなら情報は得やすいですね」

 ベルの声に明るさが戻る。


「無論、自由と言っても限度はありますが」


「構いません。それでも前進していますので」


「しかし気を付けねばなりませんな。特に白髪の御方」


「何をでしょうか?」


「貴女の風貌は耳にした事がある者ならば直ぐにでも気づく可能性があります。この私のように」


「では私は共に行動できぬ――と?」

 緊張が走る。

 ピシリ――と、ひび割れた音が幻聴となって聞こえてくる……。


「い、いえ。貴女は目立ちますゆえ……」

 ガリオンに気圧される事がなかった老公だが、ベルの場を凍らせるような圧には笑みを維持する事が出来ず、背を反らせてしまう。

 今の今まで感情を抑制していたからな。

 突破口が見えたところで足止めとなれば、ベルも不満が漏れ出すよな……。


「ならば目立たないようにすればいいのでは?」

 と、俺が提案を出せば、


「う、ううん……」

 腕組みする老公。

 どうやって目立たないようにすればいいのやら……。

 頭の中で悪戦苦闘といったところ。

 難しいよな。ベルを目立たないようにするってのは難しい。

 

 今は冒険者然とした装備だけども、だからといって美貌を隠しているというわけじゃない。

 かといってフード付きのローブで全身を覆い隠しても、それはそれで門を潜る時に怪しまれてしまう。


「おお! ならば!」

 天啓を得たとばかりに老公が柏手を一つ打てば、


「美しくて目立つのならば、あえて目立たせればいいだけのこと」

 と、老公は継ぐ。


 逆転の発想のようだが、


「それだと気づく人はすぐにでも気づくのでは?」


「ならば他に目を向けさせれば良いのですよ。オルト殿!」

 ――……うん。言っている意味が分からん。


「見る者すべてを魅了してやれば良いだけのことです」

 ますます言っていることが分からないんですよ――老公。

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