PHASE-248【ベテランと新人による連係】

「よし! まずは一体」

 左右に頭を振り、罪悪感を振り払い、手に付く鮮血のおぞましさに堪えつつ発する。

 押され気味の仲間たちを鼓舞するために。


「おお!」

 ギムロンの野太い声が俺の言に続き、それに全体が呼応する。


「よっしゃ! 続け!」

 反撃の好機とばかりにギムロンが全力を見せる。

 胴間声を張り上げて、手斧が投擲される。

 

 ハイランダーで赤色級ジェラグ。インクリーズは使えて当然と、飛翔する手斧は、ゴウゴウと暴力的に風を切り裂いていき、空洞内に音を反響させて、分厚い刃がトロールへと襲いかかる。


 防ごうとするトロールが丸太のような腕で、ピーカブースタイルの防御態勢。

 

 防ぐ側としては、手斧が腕に突き刺さり、激痛を受ける程度と考えていたのかもしれない。

 引き抜いて自己再生で対応する腹積もりだったのだろう。

 

 だが、ギムロンの豪腕から繰り出された投擲は凄まじかった――――。

 ゴン、ガゴンと大きな音が響く。

 それはトロールが持っていた棍棒が地面に落ちた音だった。


 ――――正確に言えば、未だ棍棒は持っている状態か……。

 手斧は防御態勢のトロールの前腕を断ち切った。


「ちぃとずれたか」

 得意げに髭をしごきながら言う口元は、自信の笑みを湛えている。


「……ゴォ……アッァァァァァァァ!?」

 自分の予想とは違ったトロールは、自らの腕が切り落とされたことに発狂する。

 

 ギムロンとしては腕を断ち切って、そのまま頭部に手斧を叩き込みたかったようだ。小柄な身長からは考えられないえげつない力だな……。

 

 というか、スリングなんか使わないで最初からそれを使えよ。まあ、新人がいるから実戦で鍛えたかったという腹積もりがあったのかもしれんが。

 

 しかし発狂は一瞬。怒りと痛みで口元から涎を飛び散らせながら、残った拳をギムロンへと叩き込もうとする。

 

 即、発狂を怒りへと変えて攻めようとする姿は、正に戦鬼トロールという名が相応しい。


「シッ」

 気迫の呼気とともに、その拳の進撃を止めるのはクラックリックの矢だ。

 

 弓に矢を番える。それも二本。

 横に寝かせた弓から二本の矢が放たれる。

 ファンタジー映画やアニメなんかでよく目にする描写。

 二本の矢は見事にトロールの両眼窩を射抜いた。


「浅いか。弦の引きがあまかった」

 本来なら眼窩から脳まで貫くつもりだったみたいだけど、残りの一体にも警戒していることから、クラックリックは精度と威力より、射る速度を選択したようだ。


「ヴァァァァァ!」

 両目から矢を生やしたトロールは動きを止めて、残った一本の手を攻撃から矢を引き抜くことにシフトチェンジ。


「どっこいしょ!」

 間髪入れずにバトルアックスを両手で持てば、短い足でのしのしと接近し、まるで大木に斧を打ち込むかのように、よく磨かれた両刃の斧をトロールの臑に見舞う。

 発狂と共に体勢が崩れたところで、


「やれ新人。駆け出しがトロールを討ち取ればそれだけで箔がつくぞ。ワシの打ったそのなまくら剣なら、十分に討ち取れらぁ」


「はい!」

 ブロードソードの柄を搾るように握り直し、ライが疾駆。

 やはり新人君たちを実戦で鍛えて、花を持たせる立ち回りだったようだ。


「おお!」

 思わず感嘆の声を上げてしまう。

 ラピッドやインクリーズは未習得。そんな状況下で素晴らしい疾走を見せてくれた。

 素の状態の俺では太刀打ち出来ない俊足だ。


「ゴァァァ――――!?」

 うむ。ダッシュによる体重を乗せた剣は、ずぶりと頭部に突き刺さる。


 剣を刺したままライはトロールから離れない。仕留めきれていないから離れられないようだ。


 俺の時とは違いトロールが暴れる。インクリーズが使用出来ない一撃では、体重を乗せていても深く突き刺すまでには至らなかったようだ。


 それでも懸命になって離れようとしない。

 ライの体が、暴れるトロールの体から離れても、頭部に突き刺した剣を絶対に放すことはない。

 まるでロデオだ。


「ハァァァァァッ!」

 体勢を整えるタイミングを得ると、しっかりとトロールの肩口に踏ん張るように両足で立ち、気迫と共に全体重を剣へと伝えれば、頭部へと剣身が埋没していく。


「フンッ!」

 俺がとどめを刺した時のように剣身を捻ると、


「クァ……ァ…………」

 巨体からは想像できない弱々しい声とも息ともとれないものを漏らし、重々しい音を立てて、仰臥の姿で倒れ込む。

 

 ――……動くことはない。絶命である。

 

 これで二体目。

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