PHASE-247【伝わる熱】
パターン化すれば危険もあるが、そこに変則的な物を加えていって、トロールの戦術を狂わせていく。
「コクリコ、このまま続けるぞ」
「いいですとも!」
おっと、ダブルメテオかな? それが使えるならこいつらなんて余裕なんだろうけどな。
俺が無事だと分かれば、なんとも覇気ある声だ。
続けて、ワンドの貴石が赤く輝き、振れば紅蓮の残光が軌跡を残しつつ、
「ファイヤーボール」
棍棒で再び火球を防ぐトロールは俺に側面を見せてくる。またも誘い込むつもりか。
だが――、
「コイツはどうだ」
離れた位置からのマテバ。
「ガァ!?」
乾きつつも力強い音と、何が起こったのか分からないまま痛みを声にして漏らすトロール。
でも――、
「うむ……」
効果は薄い。
本能的に音に合わせて腕で顔を守っている。
巨体となれば流石の.357弾でも、痛みは与える事が出来ても、致命傷にはほど遠い。
むしろ怒らせてしまっただけのようだ。
「ガァァァァァァァァァ――――!」
今までにないくらいの咆哮。
両耳を塞ぎたくなるバインドボイス。
怒りにまかせて、考えることもなく力を行使するだけの存在となった。
周囲の味方も関係ないとばかりの暴れっぷりは、手がつけられないだだっ子のような姿。
子供のような動きだからこそ、こちらは動きが読みづらくなってしまった。
だが、怒りに支配されれば、相手の行動自体は単純なものに変わる。
そこが付け入る隙になるだろう。
ここはタチアナのプロテクションに頼りたいが、立て続けに魔法を使用しており、魔法を司るマナであるネイコスを使用する為の集中により、精神をすり減らしていて、肩で息をしている状態。
ここで無理に使用させても発動ミスが発生する可能性もあるから、整える時間を与えないとな。
対してコクリコの体力よ。限りが無いのかと思ってしまう。
ずっと動き回りながら魔法を使用しているのに、疲れた様子はない。
感心する。
感心しても、折檻はするけどな。
折檻をするためにも、まずは眼界のトロールに対処しないと。
暴れ回りながらこっちに接近してくるあのでっかいのをどうするべきか――。
頭を狙う為に跳躍しても、接近となれば、現状、読みづらい動きの相手に対して、動きが制限される空中で挑むのは愚。
かといって足を狙っても直ぐさま傷口が自己再生して、決定打に繋げられない。
正面切っての戦闘となると――、いやはや強敵だな……。
ズガンッ! と、俺の側に棍棒が叩き込まれる。
ラピッドで後方まで一気に下がり回避。
ここでコクリコのファイヤーボールが炸裂。側頭部に当たるも、コクリコを向くことはない。
乱杭歯を軋らせ、俺に敵意を向けてくる。
俺がヘイト役となったわけだ。
体勢を整えて、ズドンとマテバをもう一発。
「グガァァ!」
火に油を注ぐとは正にこの事。
痛みは怒りに変換されている。
怒りが頂点に達したのか、手にした棍棒を投擲してきた。
得物を自ら手放す愚行だが、当たればこっちは一発昇天。
プロテクションの加護は――、タチアナを一瞥する。
――……無理だと判断した俺は、相手が得物を失っているという判断から、ラピッドにて跳躍。
迫る棍棒を回避して、そのままトロールの頭を狙う。ワーム戦と同じになったな。
空中では動きは制限される。
後はトロールに向かって落ちて行くのみ。
南無三と心で唱え、
「クラックリック」
「任せてください」
二体のトロールに向かって矢を放ち、周囲を掩護する中で手早く矢を番えれば、右手に装着した革製の
確実に足を止める為に放たれた矢は、トロールの太ももを射抜く。
「グァ!?」
インクリーズによる一矢は、トロールの頑健な筋肉を貫き、
太ももには矢羽が生えている。
「コクリコ!」
言われなくともと、クラックリックの一矢から間髪入れずに、十八番のファイヤーボールを放つ。
これまた頭部に直撃。
この一撃によって、トロールの動きは格段に鈍くなった。
怒りで相手の思考を潰して戦術、戦法を奪い。遠距離からの波状攻撃で動きを止める。
二人に作ってもらった黄金の時間で俺が狙うのは頭部。
確実に再生させないために、ギムロンには申し訳ないと思いつつ、ベルトに差したミスリルのショートソードを手にして、バランスのとれない空中で腰を捻り、やり投げの応用で投擲。
武器を投げられたら投げ返す。ハンムラビ法典式投擲術。
無論、インクリーズ付与の一撃。
淡く青白い輝きが直線を引きながらトロールの頭部に突き刺さる。
剣身が半分ほど突き刺されば、トロールは声も上げずに両膝を突いた。
人間と比べれば頭蓋骨も分厚いだろうが、そこはミスリル製である。ちゃんと脳まで達したようだ。
「まだだ!」
自身に言い聞かせる。ここで躊躇すれば振り出しに戻るかもしれない。そうなれば味方に犠牲が出る。
持つ刀の柄を逆手で持ち、両膝を突くトロールへと躍りかかる。
トロールの前屈みになった姿勢を利用し、肩口に着地、諸手で柄を搾るように握りこみ。
「ハァァァァァァァァァ」
躊躇を体から排出させるように気勢を上げつつ、首を斬り落とすのではなく、頭部に二振り目の刃を突き立てる一撃を選択。
トロールを遠目で見れば、鬼に見えるかもしれない。突き刺さった二振りの刀剣が角を彷彿させるから。
頭蓋骨の抵抗を感じつつも、ギムロンの打った刀は数打ちであろうともすんなりと深く入って行く。
刀身が半分ほど埋没したところで、捻りを入れて刀傷を広げる。
――……トロールは両膝を突いたまま捻りに連動するように、一度、大きくビクリと震えて――――沈黙。
「……ふぅぅぅぅ」
長い呼気と共に刀を抜いての残心。
返り血が柄を掴む諸手にベッタリと付着している。
生暖かいというより、熱いんだな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます