PHASE-1608【そっちの代役はしなくていい……】

「お!」


「トール殿。前方からの接近を視認。黄色い飛翔体――数は五」


「なんてこった!」


「脅威と判断して宜しいか?」

 俺の声の度合いに危機と判断したようで、即座に応戦しようとするジージー。

 直ぐに止める俺。

 黄色で五って数だったから、言いたかっただけなんだ。と言えば、訳が分からないという理由からベルに怒られるので、そこは口には出さずビジョンを発動。


「――梟? うん多分、梟だな。全身が黄色い羽毛で覆われたデッカい梟。それに人が乗ってる」


「リレントレス・アウルですね。獰猛で勇猛な空の狩人です」

 小回りが利き速度も出る。音を立てずに飛行可能で長距離もこなせるとても優秀な鳥だという。

 今回シャルナがいないから異世界生物解説役はジージーが担ってくれそうだな。

 

 にしてもデカいな。


 先生が乗るヒッポグリフや、エンドリュー候のところのワイバーンなんかと比べると小さいが、全長二メートル、翼長が四メートルってところかな。


「兄ちゃん。先頭が掲げてる旗を見てよ」


「だな」

 長方形で赤。中央では金色の蛇が輪っかを象っている。


「これより先はロイル領である。許可もなく領空を侵犯することは敵対行為と判断する。速やかに引き返すか、こちらの指示に従い着陸するよう」


「へ~有能だぞ」


「確かにな」

 感心する俺とベル。

 初手で怒鳴り散らしてくるのではなく、冷静でよく通る声による警告。

 話しが出来るタイプと考えていい。


「やっぱり空軍ってのは、エリート集団からなるんだろうね」


「こちらへの称賛は喜んで受け入れよう。話が通じるようなので、我々の指示に従ってもらえると助かる」


「いきなり攻撃という決断を選択しないでもらえて、こちらも助かりますよ」

 手にした短槍の穂先を俺達へと向けることはしない。

 刺激することなく話し合いから入るスタイルは有り難いね。


「まずは従って着陸しようか」


「感謝する。ではこちらが誘導するが、警戒のために包囲させていただく」


「受け入れましょう」

 素直に返せばそれだけで好印象を与える事も出来るんだろうが……。

 相手側の表情は引きつっている。

 表情が確認できるのも、被っている兜がオープンタイプのものだから。

 俺とワックさんを見る目は普通。

 ベルを見る時は頬を赤らめながらチラチラとしたもの。

 ここまでは問題ない。

 が、人よりも二回りほど大きなグレートヘルムを被っているジージーと、今にも命を奪いそうな殺意を込めた睨みを利かせているガリオンの両名を見る時には、相手側にも緊張が走っている。

 後者に至っては外交担当と自分で言っていたくせに、相手側に凄みを利かせるとか……。

 やはり強制外交がしっくりとくるヤツだな。

 そんな連中が、まず見たこともないであろう巨大なカイコ蛾に乗っているんだからね。

 冷静に対応してくれてはいるが、彼らの心中は穏やかではないだろう。

 

 ――包囲しつつこちらに目を向けてくる相手を俺もチェック。

 オープンタイプの兜は鳥の頭部を象ったもの。

 眉庇まびさし部分が鳥の嘴からなるデザイン。

 ブレストチェストは腕の可動範囲を高めるためか、ショルダーアーマーの類いはなく、腕は黒色からなる革製の防具のみ。

 量産的な兜とは違うことから、革部分も特別な生物の皮から仕立てたものと考えて良いだろう。

 で、装備は短槍。

 可動範囲の広い腕を利用しての投擲による攻撃がメインって感じ。

 ストックとして梟の背の部分に数本の短槍が固定されて備わっている。

 短弓も確認できる。

 態度だけでなく、装備から見てもエリートだというのが伝わってくる。

 十中八九、魔法もあつかえるんだろうな。

 上空から一方的に爆撃みたいな戦法ってのは、つい最近、経験済み。


「こちらへと着陸していただきたい」


「分かりました」

 ここでも素直に聞き入れてツッカーヴァッテを降下させる。

 町の手前の広場に誘導されれば、即座に砂塵が眼界に入る。

 大急ぎでこちらへと向かってくる騎馬兵。

 数は十。

 装備はオーソドックスな金属プレートからなる鎧とオープンタイプの兜。

 空の面々と比べれば、装備の意匠に力が入っていない量産タイプだけども、作りはしっかりとしている。


「ここからは我々も参加させてもらう! 宜しければそちらの代表者はその……なんだ。巨大な虫から降りて対応していただきたい」

 これまたよく通る声だけど、わずかに震えている。

 下馬して先頭を歩いてくる声の人物の表情は、こちらに対する恐怖が滲み出ていた。

 見たこともない大型の虫となれば怖いよね。

 その恐怖を取り除いてあげましょう。


「では代表して」

 俺が対応すれば、


「少年。ここは大人をお願いしたい」

 まあ、そうなるよね。

 久しぶりのリアクションだよ。


「なんという無礼!」

 と、怒るのはジージー。

 異様にデカいグレートヘルムが怒気を込めるものだから、相手方も警戒を強め、佩いた剣の柄を握る。


「落ち着いてください。代表者となれば自分になるんですよ」


「……偽りではなく?」


「くどいぞ貴様!」


「ジージーは静かにして」


「承知!」

 言えば直ぐに言う事を聞き入れてくれるのは助かるが、一々と怒気を発せば、相手側にいらぬ警戒心と緊張感を与えるからやめてほしい。

 

 シャルナの代わりに異世界生物解説役は有り難いが、喧嘩っ早いコクリコの代役までしなくていいからね……。

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