PHASE-1607【二十七歳】

「どうしました?」


「はっ! 遅れて申し訳ありません」

 なに。その言い方。

 もしかして――、


「ついてくるつもりですか?」


「いえ、今は南伐もあります。王城ではそれに備え、軍議室にて日夜、言葉が飛び交っておりますので――」

 そんな中で自領に戻ることは出来ませんとのこと。

 謁見の間に並んでいたことと、王様の発言から、ハダン伯も王様にとって信頼できる人物。

 クセのある自信家ではあるようだけども、自領に戻らずに王都に留まる辺り、この人の真面目さが伝わってくる。


「公爵様にはコレを渡したく馳せ参じました」

 馬上から手を伸ばして差し出してくるのは羊皮紙。


「これは?」


「認可状にございます」

 これさえ持っていれば、領内の立ち入り禁止区域であろうが自由に出入りが可能となるそうな。

 更に権限も行使できるという事なので、領内の兵を動員することも可能。


「もう一つ、この手紙をお願いいたします。我が忠臣であるタークへと渡していただきたい」


「タークさんですね」


「はい。このまま南伐となれば出陣に出遅れてしまいますので、兵を王都へと向かわせる内容を綴った書状です」


「分かりました」

 派兵してもらえるとなれば、こちらも有り難い。


「では行こう。ツッカーヴァッテ」

 ベルが優しく背中を撫でれば嬉しそうに翅をゆっくりと動かす。

 側にいるハダン伯に距離を取るように。といった所作でもあり、見送りが距離を取ったところで力強く羽ばたく。


「おお、コイツはいいな」

 初めて騎乗するガリオンはご満悦。

 こいつがいれば今後の移動も楽でいいと漏らせば、ベルからの睨み。

 居住まいを正せば俺を見て苦笑いのガリオン。

 目的はゴロ太の保護であって、貴様の移動手段ではない。ってのが睨みから伝わってきたからね。仕方ないね。

 

 ――空の上にて、


「さて、まずは何処から探るべきか」


「簡単だ」


「はい、じゃあベルさん」


「ハダン伯が居を構えている中心都市だろう」

 まあ、そうだよな。

 大きな都市は人口も多い。

 人の多い所は隠れ蓑として使えるだろうし、物流も盛んとなればそれを利用しての積荷の搬入も可能だからな。

 それにハダン伯の都市となれば、認可状を見せれば直ぐに協力してもらえる。

 人海戦術がとれるのはありがたい。

 そう返せばベルは大きく頷く。

 俺の返答に満足――といったところだが、


「だが協力を得るにしても見極めは大事だ」


「まあ、そうだな」

 ロイル領にカイメラが暗躍していると仮定すれば、少なからず内部に協力者がいると思われる。

 協力を要請したヤツがカイメラと繋がっているとなれば目も当てられない。

 ゴロ太がいなくなったタイミングで俺達が訪れたとなれば、目的を知る者は協力的な微笑みを顔に貼り付けつつ妨害をしてくるだろうからな。

 それを見極め、そいつ等の目的も調べないといけない。


「こんな事なら先生にも同行してもらえばよかったな」


「難しいことだな」


「だな」

 これから南伐。

 南伐だからこそ、軍の編制とこれから参加する者達の見極めもしないといけない。

 そうなれば適材適所の神である先生の見極めは必須。


「大丈夫だって!」

 ここでミルモンから頼りになる声音。

 これにはベルも癒やされるようで、ツッカーヴァッテのモフモフの背中に埋まるミルモンの姿に微笑んでいる。


「会話する連中をオイラが常に調べてあげるよ。負の感情を抱いたヤツを片っ端からチェックしていけば良いさ。次の日になれば見通す力も使えるしね♪」


「本当に頼りになる。流石はミルモンだ」

 ベルの喜びようよ。


「だから姉ちゃんもワックのおっちゃんも安心しなよ♪」


「無論だ」

 快活な返事のベル。

 焦燥が完全に消え去っている。

 今のところは問題ないが、直情型だからな。

 気が高ぶれば普段の冷静な判断を失ってしまい、そこがウィークポイントになる危険がある。


 ――で、ワックさんは何を落ち込んでいるのかな?

 ゴロ太の事かと思えば、


「おっちゃん……」

 ミルモンのおっちゃん発言に引っかかっておられる。


「僕、まだ二十七なんだけどな」


「「「「えっ!?」」」」

 これにはツッカーヴァッテの背に乗る全員が驚きの声を上げる。

 まだ二十代だったのか。ゲッコーさんより若いんだな。


「驚いた。俺とさしてかわらないと思っていた」


「ちなみにガリオンって何歳?」


「今年で三十九になる」


「四十路手前かよ。思いっきり生意気な喋り方でごめんなさい」


「いまさら敬語になんてなるなよ勇者。気持ち悪いからな」


「あ、うん大丈夫。悪党には敬語とか使わないスタイルだから」


「せめて元をつけろ」


「元を取ることが出来たのも、俺のお陰だよな~」

 口角を上げて返せば、舌打ちが返ってくる。

 それにしてもワックさん二十七才か。おっちゃんって言われるのは確かに嫌だよな。

 老け顔ってわけじゃないけど、三十路には足を踏み入れていると勝手に思い込んでいたよ。

 若い頃から色々な経験を積み重ねてきた事により、人としての厚みが表情や所作に出ているのかもしれない。

 だからこそ王都――いや、人間随一の職人なんだろう。

 

 ――年齢の話で盛り上がっていれば、


「大したもんだ。馬で八日かかるってのに、あっという間にロイル領だな」

 ツッカーヴァッテの速度に感心するガリオン。

 空を高速――しかも乗り手が安定した状態で移動可能なこの巨大カイコ蛾のありがたさよ。

 王都から出発し、その日にはロイル領まで来る事が出来るんだもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る