PHASE-715【王様より偉いんだな】

「トール。この美女は?」

 俺がリンを紹介しようとすれば、俺の横に侯爵が立つ。

 自分が説明したいんだろうね。


「王よ。この方は彼の大賢者であらせられるリン・クライツレン殿です」


「ん? 冗談では――ないのだな」


「は!」


「なんと!」

 驚嘆の王様が次に見せた動きは早かった。

 更には王都にて王様を支え続けていたバリタン伯爵やナブル将軍。貴族の面々が一斉に王様の後ろに立てば、王様と同じ姿になる。

 この大陸にて人の世界の頂点に立つ王様の現在の姿勢は――片膝をついて恭しくリンの前で頭を下げている姿。

 突如として現れた美女に対し、王様と忠臣たちがとる行動に、外様である貴族と豪族の面々も慌てながら同様の姿勢となった。


「何なんだ?」

 俺は疑問符だし、


「やめてよね」

 と、リンは嫌がっている。


「この国の建国者のお一人にして、今より二百五十年前には、驕り高ぶった人間と亜人達との戦いを止めてくださった大英雄」

 亜人との戦いを止めたってのは聞いたけども、この国の建国者の一人ってのは初耳だな。

 現王朝のご先祖様たちと一緒になって、前王朝の圧政から人々を解放したのが五百年ほど前の出来事だそうだ。


「まだ私が人間だった時ね。懐かしい」


「我らにとっては風化することのない救国の英雄譚。リン様は我らにとって高祖が如き存在」


「私はただ手伝っただけだから」

 リンって凄い人なんだな。今は人じゃなくアンデッドだけど。

 恭しくされるのは嫌だと、跪く王様たちから距離をとる。

 こういう事になるからここに来るのが嫌だったのかな?

 それにしても、王都に来たことがあるどうこうじゃなく、建国者の一人だったわけか。


「追い込まれていた。崩壊一歩手前だった。という割には見事に復興しているようね」


「お褒めの言葉、この体に喜びとして染みいります」


「何よ染みいるって……。もういいから立ってくれないかしら」


「ご下命のままに」


「いや……貴男はこの国の王でしょう……」


「建国の英雄の前ではただの男でございます」


「堅苦しい男ね……」

 なんて返すけども、褒められたり、畏まられるとリンはあたふたするよね。

 こういったことに対する耐性はないよな。

 普段は上から目線だけど、ウブさの残るアンデッドである。


「トール」


「はいはい」

 この状況から逃げ出したいからか、俺へと急ぎ足で寄ってくれば、


「現状、この王都はかなりの復興が進んでいるけど、人手不足も否めないわよ」

 これから北の連中が、もしかしたらここまで来る可能性もあるからな。


「木壁と城壁の修復と強化に参加させてもらえると嬉しいね」


「いいわよ」

 でも警邏はともかくとして、作業となるとフルプレートってわけにはいかないからな。


「顔には頭巾でもかぶせとくわよ」


「ありがとう」

 俺の思っていたことをしっかりとくみ取ってくれた。


「なんと素晴らしき光景か! 高祖の時代の英雄と、現代の英雄が我らと共に歩んでくれる。これほど喜ばしいことはない」

 跪いていた王様が矢庭に立ち上がり、丸太のような腕を高らかに掲げれば、歓声の輪唱がそれに続いた。

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